未来のSFパイロット『CR-2パイロットデザイン』のメイキング

ドイツの CGアーティスト / 3Dモデラー Sven Rabe氏が、未来のSFパイロットのデザイン制作ワークフローを共有します(ZBrush、Maya、MARI、NUKE 等使用)


Sven Rabe
リード・モデラー


皆さん、こんにちは。これから、私の作品『CR-2パイロットデザイン (CR-2 Pilot Design)』の制作プロセスを簡単に紹介します。初期コンセプトから最終合成まで、主な段階を網羅して解説します。楽しみながら、今後のプロジェクトで役立ててもらえれば幸いです。では、さっそく始めましょう。

ステップ01:アイデアと取りかかり

基本的にすべてはアイデアから始まります。今回のような個人プロジェクトでは、やりたいことに関する基本アイデアがあると非常に役立つでしょう。それは、向かうべき方向と具体的なゴールとなり、無限の可能性に溺れることを防いでくれます(無限の可能性は、作品への興味を失わせ、特に長期的なプロジェクトで完成を諦める原因になります)。本作「CR-2」のアイデアは「夜の格納庫や空軍基地に合うSFパイロットスーツの制作」です。 次は、プロジェクトのあらゆる側面に関する「ムードボード」を作成できるように、インスピレーションになる多くのリファレンスを集めました。ここで、役立つソフトウェアが PureRef です。パイロットの主なマテリアル要素は、環境から見栄えの良い反射とハイライトが得られるカーペイントシェーダでコーティングします。

リファレンスのムードボード

ステップ02:コンセプト

この段階はさまざまなワークフローを用いて、作品に合う視覚的なデザイン言語を探していきます。プロジェクトによっては ZBrush で 3D空間に直接スケッチしながら始めることもあります。Photoshop で軽く上塗りしてディテールの追加、違うアイデアを試すこともあります。基本シェイプと大きなプレーンで始めると、これら要素によってデザインに一定のリズムが生まれます。それぞれの「役割」も重要なので、すべての要素がどのような機能を果たすのかを常に考えましょう。同時に、全体形状や見え方の印象を掴むため、黒いマテリアルでシルエットをチェックします。ディテールはやり過ぎに注意して、デザインを見る鑑賞者の目が疲れないように心がけましょう。ZBrush を使ったディテール制作はとても面白く、簡単に実行できます(少なくともコンセプトモデリングにおいては)。複雑さが信憑性を生むとはいえ、本物に近づけるにはそれなりのバランスが必要です。また、このパイロットスーツは、人間のプロポーションをベースにしています。実際の人間の頭部がこのヘルメットにフィットするように、3D の頭部スキャンをリファレンスに使って信憑性を高めています。

ZBrush を使ったコンセプトのスカルプトプロセス

最初のコンセプトが完成したら、さまざまなアイデアを試すためバリエーションを作成。制作時間にもよりますが、通常、ZBrush と Photoshop を組み合わせて3~5つ作成すると良いでしょう。最終的に、全体のスッキリした形状を気に入ったので、オリジナルコンセプト(A)のまま進めることにしました。

ヘルメットのバリエーション

コンセプトの最終段階では、全体の整合性がとれるようにヘルメットデザインをモデルの残りの部分に合わせて変換。コンセプトの中で目立つバイザーのV形状を気に入ったので、このデザイン言語をモデル全体に浸透させていきます。次に、すべてを複数のパーツに分解しておくと、作業と仕上げがやりやすいでしょう。これは、ZBrush のポリグループ機能で主に行います。単純にマスクをペイントして、ポリグループに変換するか([Ctrl]+[W]キー)、新たなサブツール用にマスクを抽出するだけです。

それぞれの要素に適切な名前をつけ、整理するよう心がけましょう。そうしないと、すぐに散らかって、検索や整理に時間を費やすことになります。このプロセスでは、形状をさらに分割していきますが、最初は主要な形状にフォーカスしましょう。

最終コンセプトのスカルプト、ポリグループの分解図

ステップ03:仕上げのモデリング

クリーンな形状を作るには、ZSphereトポロジ、[ZModeler][ZRemesher]といったZBrush のさまざまなワークフローを使って、各パーツをリトポロジします(Maya で簡単にリトポロジしただけの部分もあります)。クリーンベースメッシュを何度か細分割して、その上にレイヤを追加、複数のブラシとアルファでディテールを作成します(※ブラシやアルファのいくつかはオンライン上で見つけたもので、クレジットは作成者、Mike Jensen、Tom Newbury、Michael Angelo Hernandez、Michael Pavlovich に帰属します。ぜひチェックしてください)。もちろん、リトポロジにはさまざまな方法があり、テクニック面でも日々進歩していますが、ここで紹介した方法で概観を掴めることでしょう。

仕上げのモデリング

すべてのパーツを組み合わせて最終モデルを作成

モデルのクローズアップ

ステップ04:モデルの最適化

これが、VFX や広告向けのヒーロー関連の制作アセットだとしたら、小さなディテールも含め、クリーンで滑らかなサブディビジョンのサーフェス(表面)ですべて再モデリングする必要があります。今回は個人プロジェクトなので、クリーントポロジを作るステップを省いて時間を節約しましょう。実制作では与えられたコンセプトアートから Maya で直接モデリングを開始(プロジェクトによってワークフローは異なります)、クリーントポロジのメッシュを作成します。

作成したモデルは高解像度なので、ZBrush のデシメーションマスター(Decimation Master)プラグインで、それぞれのオブジェクトを間引きます。今回はパイロットを4Kクローズアップでレンダリングするため、アーティファクトの発生を防ぎつつ、Maya と MARI の作業用にメッシュを軽くします。あまり光沢のないマテリアルのロングショットをレンダリングする場合、アーティファクトはそれほど目立たないので、さらに間引くことができます。今回は比較的高い解像度のメッシュに仕上げました。

ZBrush のデシメーションマスター(Decimation Master)でメッシュを最適化