写真をリファレンスにしたデジタルペイント:子供のポートレート『Gabriel』のメイキング

各部位の調整と微調整

背景がやや乱雑だったので、まずは、ここを整えました。その後、新規レイヤーに目をコピーして、変形ツールで位置とスケールを調整しました。

図05

図05 の右側は修正後のバージョンで、赤い線を見ると変更点を容易に見て取ることができます。目の角度ならびに左側の目と鼻の関係を変更しています。ポートレートに関して注意してほしいのは、ごく小さな変更でも見た目や表情に大きな影響を与えることがあるということです。右側の目が手前の目と比べて小さすぎることに気づいたので(図06 左)、[編集]>[変形]>[拡大・縮小]ツールで修正します。また、唇の形状もおかしいように見えます。唇の間の影が大きすぎて、上唇にうまく沿っていません。

図06

絵に変更を加える方法は主に2つあります。1 つは、選択範囲をコピー& ペーストし、[拡大・縮小]や[回転]などの変形ツールを使用してから[消しゴムツール]やブラシでブレンド、なじませるという方法です。もう1 つは[ワープ]ツールを使用する方法で、1 つめの方法と同じくらい便利ですが、これは複製レイヤー上で行うことをお勧めします。[ワープ]ツールは慎重に使用しないと、明らかに歪んだ結果になる恐れがあるからです。

ここまでは重要な要素である顔の各部位を調整してきましたが、髪と肩も少し修正する必要があります。一時的に新規レイヤーを作成、少し細いブラシストロークを何回か重ね、明確に描写しました。写真を見ると、髪の毛のほとんどは影になるため大まかに描いてかまいませんが、シャドウとハイライトの変わり目部分にはディテールが必要です。図07 は、調整前(左)とレイヤーを追加した調整後の比較です。

図07

この後の大まかな流れは、新規レイヤーで微調整やディテールを加え、満足がいったらまとめるというものでした。図08 は、明と暗のトーンのトランシジョンをスムーズにしたバージョンです。

図08

また、別のレイヤーである背景も変更しました。明と暗のコントラストや動きを表現するため、右側は暗い領域、左側の頭の後ろは帯状の明るい領域にしています。顔や髪の暖かみのある色調にするために、赤みがかったトーンを追加して、背景とポートレートとのバランスをとりました。

最終段階

ここで作業を終えてもかまわなかったのですが、まだ、改善できる点が残っていました。放っておいてもよかったのですが、T シャツに磨きをかけ、絵に新鮮さを与えると同時に、見る人に描画プロセスの一部をお見せすることに決めました(図09)。

図09

おそらく、もっと重要な変更点は、よりシャープにした顎の角度、そして、細長い楕円形にした右側の瞳孔と水晶体でしょう。また、鼻も修正して額へと向かう傾斜を少し急にしました。これらの変更はすべて控えめに行いましたが、合わせるとポートレート全体に重要な違いをもたらしています。

「何か問題があると感じるにも関わらず、それを明確にできない場合、カンバスを左右に反転することが有効である」と多くのアーティストが言っています。私も同意見なので、作業中たびたび反転しています。図10の右側の絵をご覧ください。

図10

カンバスを反転させたときに違和感を感じたため、左側の目を少々大きくしました。1つ注意してほしいことがあります。カメラで撮影した人物はレンズのために歪む傾向があるので、写真をリファレンスとして描く場合は、この点を考慮してプロポーションを調整しなければなりません。結局のところ、絵に違和感を感じる場合は、目で見ているものと頭の中で認識しているものとのバランスをとり、時としてアート的な技巧を取り入れることが必要になります。その他で不正確なのは髪の毛と首の幅で、少し大きすぎるようです。[ワープ]ツールで左端を引き込み、首をより細く、髪の領域をいくらか小さくします。図11 は、調整前(左)とわずかに変形した結果です。

図11

鼻の下のソフトなハイライトと唇のわずかな傾きを修正して、ポートレートは完成です。この最終バージョンで、息子の良さを十分に表現できていることを願っています(図12)。

図12

 

※このチュートリアルは、書籍『Digital Painting Techniques 3 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。


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