【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード12:スーパーマンとの遭遇
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード12:スーパーマンとの遭遇
今回は、スーパーマンの映画に関するお話です。いや~... 映画って、本当に恐ろしいものなんですね
以前、『マン・オブ・スティール』(2013年)というスーパーマンの映画の仕事をしたのですが、実はこの映画に関わる前、他にもいくつかスーパーマンの映画に関する体験がありました。
最初は確か1998年頃。『Superman Lives』というタイトルで、監督はティム・バートン。スーパーマン役には、なんと、ニコラス・ケイジ がキャストされていたという幻の企画があったのです。
その当時、私は、XFX という工房で『スピーシーズ2』という映画の仕事をしており、実際にはスーパーマンに携わっていないのですが、その XFX がスーパーマンの仕事をしていました。そこで作っていたものは、スーパーマンが大ケガをして、それを治すための特別スーツ「Re-Generation Suit」というものでした。虹色に光るクリアなスーツでめちゃくちゃカッコよかったです。そして、それとは別に、知り合いがやっていたコスチューム部門の工房では、ニコラス・ケイジのメインのスーパーマンコスチュームを作っていました。
ニコラス・ケイジのスーパーマン。
気持ち悪いです!
しかしながら、この時期、役者と監督のユニオンが大規模なストに突入して、この映画を含む多くのハリウッド大作映画がボツになってしまったのでした...。
恐るべしハリウッド...。
ニコラス・ケイジのスーパーマン。ボツになった映画『Superman Lives』より
そして、次にスーパーマンに関わったのは確か2004年くらい。
Stan Winston Studio(スタン・ウィンストン・スタジオ)という工房でのお仕事。
新たなスーパーマンの映画の企画が立ち上がり、監督は『チャーリーズ・エンジェル』や『ターミネーター4』の McG (マックG)。スーパーマン役の役者を無名の新人にするので、彼らにスーパーマンの格好をさせてオーディションをするのである。「大金をかけて、破壊された地下鉄のセットをスタジオに作り、オーディションのためだけにコスチュームを作った」というハリウッド映画の容赦ない金使いを見せつけるような仕事でした。
ここで、私が衣装にも関わっているのに疑問を感じている方もいるかも知れないので、簡単に説明します。特に、スーパーヒーローのコスチュームというのは、布やキレじゃなく、アーマーなどカチッとしたものが多く、その形を作るのに粘土原型が必要になってきます。コスチュームを着る役者をかたどったマネキンの上に粘土で造形して、それを型取り、違う素材に置き換えて、その役者ぴったりのコスチュームができるのです。この時のスーパーマンのコスチュームは、上から下まで全部粘土で造形しました。
さて、スーツもすごくかっこいい感じに仕上がり、オーディションも無事に済んで、ス−パーマン役も無事に決まり、撮影もオーストラリアに決定。いよいよ本格的に始まるか!? という時に、監督から「ボクちん怖くて飛行機乗りたくない」という爆弾宣言が飛び出したという真意のほどは定かではないけど、表向きにはそれが理由で、このスーパーマンの企画も消えてしまったのでした...。
この様なアンビリーバボーなエピソードの後にようやく『スーパーマン リターンズ』(2006)が世に出て、10年近くにわたるスーパーマンの戦いが、ようやく形になったのです。
個人的に、この映画自体はすごく好きなのですが、スーパーマンのスーツは、過去に造られてきた粘土原型のかっこいいスーツではなく、スパンデックスという1970~80年代を彷彿とさせるコスチュームとなり、我々の業界から一斉にため息が出るという残念な結果になったのであった。
いや〜... 映画って、本当に恐ろしいものなんですね。
というわけで、次週は『マン・オブ・スティール』のエピソードをお話しします。
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