【インタビュー】制作活動の軌跡:コンセプトアーティスト Mert Genccinar 氏
トルコ出身のコンセプトアーティスト Mert Genccinar 氏 が 美術大学での学びからデジタルツールの独学まで、これまでの歩みを語ります

Q. 自己紹介と、アートの道を目指したきっかけ、初期に影響を受けたものについて おしえてください
はじめまして、Mert です。トルコ在住のフリーランス コンセプトアーティスト/イラストレーターで、長編/短編映画の開発、商業用マットペイント、ボードゲームやデジタルゲームのイラストなど、幅広いクライアントと仕事をしています。
アートとの出会いは、すべてのアーティストと同じように、幼少期に遡ります。一人っ子だったこともあり、紙と鉛筆が私の遊び場でした。ファンタジー小説の表紙や、ゲーム・映画のアートワークに魅了され、自分なりのアレンジを加えながら模写するようになりました。
当時のトルコではインターネットはまだ贅沢品だったため、主な情報源はゲーム雑誌でした。それはまるで 紙に印刷された SNS のようなもので、ファンタジーやSF小説から人気映画、カルト作品、最新のロック/メタルアルバムまで、さまざまな話題が詰まっていました。
その雑誌には、フラゼッタ、トッド・ロックウッド、ブロム、ギーガー といった巨匠たちの作品も掲載されていました。それは、まったく新しい世界の扉が開いた瞬間でした。今も昔も、彼らは私にとって灯台のような存在です。感謝してもしきれません。そして それは、さらなる出会いへの入り口に過ぎませんでした。12歳のときに ゴヤ の作品と出会い、すっかり恋に落ちてしまったのです。
「The Temple」
Q. 当初、どのようなトレーニングや学習をしましたか? 自分の成長を実感できましたか?
有名な画家やファンタジー/SFイラストレーターの作品に触れ、高校卒業後は美術大学への進学を決めました。試験を経て Hacettepe 大学 の美術学部絵画科に入学しましたが、すぐに「何かが足りない」と感じるようになりました。業界で求められるデジタルの考え方や、制作ワークフロー、パイプラインの知識が、そこにはなかったのです。少し失望しましたが、美術教育の性質上、仕方のないことだと理解し、在学中に独学で 3ds Max を学び始めました。
特別なクラスや講座には頼らず、とにかく自分で手を動かして試しました。3Dソフトでの実験を通じて、ジオメトリの面の概念、光の振る舞い、色の理論など、アートの基礎を多く吸収しました。自分の拙い手描きよりも、3Dビューポートのスクリーンショットの方がよほどマシだと気づいたとき、次のステップへ進む必要性を感じました。
地元のゲーム会社にいくつか応募し、小さなインディースタジオに無給のインターンとして参加。スペースを与えてもらい、才能あるメンバーたちと肩を並べて働けたことは貴重な経験でした。数ヶ月間、コンセプトアーティストのために 3Dモデルとベースレンダリングを制作しましたが、次第に疲れを感じ、またしても「何かが足りない」という感覚が戻ってきました。そこで、スタジオを離れ、コンセプトアーティスト/イラストレーターとして独立することを決意します。この分野なら、自分の持つあらゆる技術を自由に活かしながら、最初から創造性の余地が得られると感じたからです。
それ以来、完全な独学です。3dtotal の書籍 を購入して アーティストたちのインタビューを読み、SNS を通じて憧れのアーティストたちに連絡を取り、チュートリアルがあれば 迷わず購入しました。こうした行動が大きな転機となり、自分が本当に何を求めているのか、進むべき道かがはっきり見えてきました。
あとは簡単でした。安価なタブレットを購入してチュートリアルをこなし、尊敬するアーティストを見つけ、作品を発信し、ひたすら「昨日の自分より上手くなること」だけを考えました。批評に耳を傾け、失敗から学ぶ -- その姿勢は今も変わらず、大きな支えになっています。ありきたりに聞こえるかもしれませんが、これは真実です。アートとは一生をかけた探求と学びの道であり、自分の個性を理解し、心から楽しめることに集中し続けることが何より大切なのです。
「Shrine of the Dead God」
Q. 改善に取り組んでいることはありますか? 作品を新鮮に保つコツはありますか?
自分の人体解剖学の知識にはまだ満足していません。環境描写が得意で楽しんでいますが、キャラクターを描くことも大好きです。ただ、人体を深く理解するには生身のモデルを描くことが欠かせず、そのためのスペースやアトリエが必要です。時間ができたら、ライブドローイングのグループに ぜひ参加したいと思っています。
環境描写については、常にコンフォートゾーンの外に出るよう意識しています。「雪景色」を描いたら 次は「砂漠」というように。まだマスターしたとは言えませんが、さまざまな設定や構図に挑戦し続けることで好奇心と学ぶ意欲を保ち、プロセスそのものを楽しんでいます。
「Sandgate」
Q. これから「アートの旅」を始めようとしている読者にアドバイスをお願いします
機材は少し過大評価されています。手元にあるものを最大限に活用してください。私が憧れた巨匠たちも、当時は最高スペックの機材など持っておらず、今のスマートフォン以下の性能でした。制約の中で工夫すれば、あなただけの「個性」に繋がります。
毎日続けることが大切です。やる気が出ない日や、テーマが見つからない日でも、とりあえず机に座って過去の作品を眺めてみましょう。手は動かさなくてかまいません。ただ見て「どうすればもっと良くなるか」を考えるだけでも十分な練習になります。
「描けない」「やる気が出ない」と感じるときは、自分の興味が変化しているか、触れているものに飽き始めているサインなので、新しいことを試しましょう。同じゲームばかりやっていれば、視覚的な引き出しもそれだけになります。日常の習慣を思い切って変えてみてください。もちろん、休むことも忘れずに。
プロセスを楽しめないと、それは必ず作品に現れます。アートの知識がない人でも、情熱や努力は直感的に伝わるものです。自分に正直でいてください。そして最後に、忍耐と継続を大切に。「アートの旅」は短距離走ではなく、マラソンです。
「Pioneer Post Alpha」
Q. 3dtotal の書籍は制作に役立ちましたか?
何よりも役立ちました。以前『Digital Painting Techniques (デジタルペインティングテクニック)』シリーズを購入し、その中で トルコ人アーティストたちの作品に出会えたことで、目指す方向への希望と指針をもらいました。また、業界の達人たちによるヒントやチュートリアルも充実しており、今でも当時のインタビューやアドバイスを読み返しています。情報量が豊富なので、いまだに新しい発見や、今まさに抱えている問題の解決策を見つけられることもあります。3dtotal の出版チームには、本当に感謝してもしきれません。
「Eclipse」
Q. 近年の作品についてお聞かせください
ダークファンタジー と コズミックホラー(人知を超えた存在がもたらす恐怖)の大ファンで、最近は特に SFホラーにコズミックホラーの要素を組み合わせた作品に取り組んでいます。制作がとても楽しいので、これからもどんどん作り続けていくと思います。また、海外のクライアントとも素晴らしい仕事を進めていますが、NDA(守秘義務契約)があるため許可が出たタイミングで、共有したいと思っています。ぜひ、ポートフォリオもチェックしてみてください。
「The Whale」
「The Alligator - Cinematic Concept Art」
編集部からのおすすめ:グレッグ・ルトコフスキ、ネイサン・フォークス、デヴィン・エル・カーツ..。著名アーティストたちが、アートの必須知識、「構図」や「ナラティブ」を徹底解剖します! 書籍『構図とナラティブ:絵にストーリーを語らせる秘訣』




















