【インタビュー】『ファウンデーション』で SFの世界を構築:コンセプトアーティスト Wayne Haag 氏
コンセプトアーティスト Wayne Haag氏 が『ファウンデーション』(Apple TV+) の 3D と 2D を駆使した制作プロセスを紹介します
コンセプトアーティスト Wayne Haag(ウェイン・ハーグ)はオーストラリアの SFアーティストです。『ロード・オブ・ザ・リング』(監督:ピーター・ジャクソン / 2001年) から『ファースケープ』、最近では Apple TV+ のドラマ『ファウンデーション』まで、数多くの有名プロジェクトに携わってきました。
Q. 簡単に自己紹介をお願いします
「幼い頃から写真撮影に興味を持ち、6歳の頃から、ずっとフォトジャーナリストになるのが夢でした。ところが『スター・ウォーズ』(監督:ジョージ・ルーカス / 1977年) に出会ったことで、その夢は大きく変わりました。実は『スター・ウォーズ』以前から、SF小説の表紙アートにも興味を持っていたのです。そのときから考えるようになったのは「どうすれば絵画ではなく、写真技術を使ってあのようなファンタスティックな世界を創り出せるだろうか」ということでした。そこから私のクリエイティブな旅が始まったのです」
ニューヨーク宇宙港
空飛ぶタイ料理レストランのシーンに使われたニューヨーク市のマットペイント(『フィフス・エレメント』より)
「そして6年半の間、電子技術者として働いたあと、退職して学校に戻り、写真技法の学士号を取得しました。そこで Photoshop に出会い、デジタル技術を使えば、従来の写真技法よりもはるかに多くのことが創造できると気づいたのです。また、その頃には映画業界でマットペインターになることを目指し、ロサンゼルスへの進出を考えていました」
リールーがジャンプするシーン(『フィフス・エレメント』より)
ハーグがこの業界に入って得た最初の仕事は、映画『フィフス・エレメント』(監督:リュック・ベッソン / 1997年)のマットペインターでした。
「『フィフス・エレメント』に携われたのは、タイミングと場所が完璧だったからです! その後、シドニーに戻って『ファースケープ』というTVシリーズに参加し、最終的にはニュージーランドで『ロード・オブ・ザ・リング』の制作に参加することになりました。現在は、プリプロダクションでコンセプトアーティストとして活動し、プロダクションデザイナー(PD)のためにシーンのビジュアライゼーションを手伝っています。そして、時間の許す限り、自分のためにSFをテーマにした大型の油絵も描いています」
「Dust Devil」油彩
「Desert Wreck」油彩
Apple TV+ でリリースされた アイザック・アシモフ の『ファウンデーション』で、制作陣は見事に美しい世界を創り上げました。その成功にはハーグの仕事が大きく貢献しています。
「コンセプトアートの制作プロセスは、PD が求めるものや、解決すべき課題によってさまざまです。脚本から直接アイデアを膨らませる「青空構想」の段階もあれば、既存のロケ地やその一部を、より壮大なファンタジーのコンテクスト(文脈)でどう活用するかを具体的に示すこともあります」
「Trantor Library Final」(『ファウンデーション』より)
「美術部門全体にとって、コンセプトアートは何を作るべきか、そのコストはどれくらいかなどを把握するための重要な手がかりとなります。多くの場合、脚本の言葉を超えた、シーンの最初のビジュアルとなるのです。時には、初期バージョンが予算的に高すぎたり、ロケ地の使用許可が下りなかったりして、シーンを新たな視点で捉え直すこともあります」。
ハーグは、これらの多くの要件によってプロセスはさまざまに変化するため、型にはまった手順はないと説明します。
「コンセプトアートを始める際の一般的な出発点として、PD や助監督(AD)がロケハンで撮影した写真を活用することがあります。その写真を基に世界観を構築していくのです。この作業は 3D と 2D のソフトを組み合わせて行います。写真のカメラアングルに合わせて3Dカメラを設定し、そのシーンを作り上げていきます。時には 3D を使わず、2D で直接描くこともあります。全体的なルック&フィール(雰囲気やビジュアルの方向性)は PD が指示し、写真のように信憑性のあるシーンを描き出す細かな作業は私が担当します」
『ウルヴァリン:SAMURAI』では、東京の一部地域では撮影許可が下りず、急遽シドニーでロケハンを行い、東京の建物を描き直している( https://twitter.com/ankaris/status/1373767233516662784 )
『ウルヴァリン:SAMURAI』のコンセプトアート
Q. 本作のコンセプトアートでお気に入りのもの、誇りに思っているものはありますか? 自分のアイデアがスクリーンの中で命を吹き込まれるのを見るのはどんな気分ですか?
「『ファウンデーション』には素晴らしいロケ地がたくさんありますが、お気に入りを挙げるとすれば、最初に描いた Synnax(シナックス)という惑星の絵です。制作陣にも受けが良く、私が手がけた中で、最も忠実に画面に反映された絵になりました」
「Synnax」(『ファウンデーション』より)
「シーンに取り入れたアイデアの多くは、スクリーンで実現しないこともよくあります(一部は採用されますが、別のアイデアに取って代わられるものもあります)。コンセプトアートを提出してから実際に撮影が行われるまでの間に、現実的な制約が生じ、最初のアイデアがそのまま採用されないことも多いです。しかし、自分の絵が画面に登場しないからといって、落胆することはありません」
「映画制作は、毎日が挑戦の連続です。さまざまな制約の中で、あれだけの作品を作り上げること自体が、小さな奇跡みたいなものです。そのため、理想と現実の間で折り合いをつけることは日常茶飯事です。私の役割は、PD や AD、監督に選択肢を提供することです。彼らは私のアイデアに縛られる必要はありません。私はただ、スクリーン上で素晴らしく見えることを願うだけです!」
「Trantor Street」(『ファウンデーション』より)
「Trantor Library v1」(『ファウンデーション』より)
Q. あなたのSFの油彩作品はとても魅力的です。時間の制約がない場合や個人制作をする場合、油彩がお気に入りの手法なのでしょうか? また、筆を入れる前に緻密な計画を立てますか、それとも即興で描き進めますか?
「時間の制約がないときこそ、私が本当に愛しているSFをテーマにした油彩画に没頭しています」とハーグは言います。
彼の作品を見ると、60年代~70年代のSF小説の表紙を思い出します。それらは物語の一端を示しつつ、見る人の想像力をかき立てる力を持っています。
「これらの作品こそ、光、スケール、センス・オブ・ワンダー(神秘的な感動)を探求できる場所なのです。絵の具の感触も大好きで、その香りや触感にも魅了されています。私は綿密に計画する性格です。映画業界で学んだことはひとつも無駄にせず、すべて活かしています」
「Sky Burial #3」油彩
「特に構図とライティングにはこだわっています。カメラの視点が非常に重要で、レンズの焦点距離はなおさらです(聞き間違いではありません。油彩画においてもレンズの焦点距離が非常に重要なのです!)。3Dソフトを構図のツールとして使う場合、50mm や 28mm、あるいは 200mm など、レンズに正確な焦点距離を設定することができます。私は純粋な画家というより、写真的な視点で見る傾向がありますが、3Dソフトを使えば、それを正確に再現できるのです。これを大まかな指針として使い、最終的な絵画にするために上からトレースします。中には完全に手描きのものもあり、その場合はどんなレンズで描いているかを想像しながら進めます。そして、実際に絵を描き始めると、かなりの部分で即興的な創作を行なっています!」
「Salvor's Outpost」(『ファウンデーション』より)
「Maiden Moon」(『ファウンデーション』より)
▼ 関連記事
>> 【インタビュー】黄金期の英国SFアートにインスパイアされ:コンセプトアーティスト Wayne Haag 氏
編集部からのおすすめ: 「マジック:ザ・ギャザリング」や「ダンジョンズ&ドラゴンズ」などのイラストレーター グレッグ・ルトコフスキ をはじめ、著名アーティストたちが、アートの必須知識、「構図」や「ナラティブ」の理論と実践を徹底解剖します! 書籍『構図とナラティブ:絵にストーリーを語らせる秘訣』