【インタビュー】建築デザインの知識を基に:コンセプトアーティスト Samantha Kung氏

「3Dを使わず、テクスチャブラシと写真だけで絵を描くマットペイントは初めてだったので、3dtotal で取り上げてもらえたのは予想外でした」 Samantha の描いた『Night』は、とても映画的で刺激的な作品です


Samantha Kung
コンセプトアーティスト|シンガポール


コンセプトアーティスト Samantha Kung氏 は、想像力豊かなクリエイターです。プロジェクトに応じて、あるときはダークで雰囲気のある環境を、あるときは鮮やかで深いディテールを持つ環境を作り出しています。

2D作品に3Dモデルを活用し、ペイントオーバーで正確なパースを描くこともありますが、建築デザインを学んだ彼女にとって、それは自然な流れでした。そして、ある映画のメイキングでセットデザインを見たときに、彼女の将来の目標は定まったそうです。

「Catsle (城)」

それ以来、彼女はアニメーションからコンセプトアートまで、自分の興味のあることを探求してきました。エンバイロメント コンセプトアーティストになるために、3Dプログラムの習得やさまざまなテクニックを駆使した2Dドローイングのスキルアップを目指し、さらに自分を追い込み続けています。

「Cave (洞窟)」

「私は現在、ゲーム業界でフリーランスとして働いています。モバイルゲームやAAAゲームの経験があり、さまざまな画風やテーマの探求を楽しんでいます」と Samantha は言います。

しかし、彼女がセットデザインのインスピレーションとして思い浮かべるのは、映画『レ・ミゼラブル』(2012年)と『007スカイフォール』(2012年)です。

「Medieval Marketplace (中世の市場)」

「私は『レ・ミゼラブル』のメイキングを描いたドキュメンタリーを観て、映画制作プロセスの複雑さを知りました。小道具・衣装・メイクアップのデザインにも、コンセプトから最終結果まで、多くの思考と議論が必要なのです。また、この映画を見て、クラシック音楽を習っていた頃を思い出しました。私はオーケストラのコンサートやバレエ、オペラを見るのが好きな子供でした。オペラやバレエのセットデザインには、その時代の社会的、文化的、政治的側面を反映した独自のストーリーがあります。これにとても惹かれ、建築を勉強するきっかけになりました」

★映画『レ・ミゼラブル』特別映像(4分41秒)

Samantha がインスピレーションを受けた2つ目の映画ドキュメンタリーが『007スカイフォール』とそのシネマトグラフィー(映画撮影)でした。

「私はこのメイキングを見て、建築学科からアニメーション学科に変更することにしました。『007 スカイフォール』のシネマトグラフィーでは、ストーリーを素晴らしくするため、カメラや照明の技術を使って脚本にうまく合わせています」

★『007 スカイフォール』 Vlog01:"Shanghai"(1分32秒)
★『007 スカイフォール』 Vlog06:"TURKEY"(2分12秒)

Samantha が描いた「Night」は、とても映画的で刺激的な作品です。

「3Dを使わず、テクスチャブラシと写真だけで絵を描くマットペイントは初めてだったので、3dtotal で取り上げてもらえたのは予想外でした。3Dソフトでモデルを作り、その上にペイントオーバーをするのが、私の普段のワークフローです。しかし、それとは違った作業工程にチャレンジし、行き着いたのが「Night」です」

【チュートリアル】 マットペイント:『Night -サムライの復讐』のメイキング

「Night (その夜)」

「本作の背後にあるストーリーは、私の好きなピアノ曲の1つ、ピアノソナタ第17番“テンペスト”にインスパイアされています。これは、ベートーヴェンが進行性の難聴に苦しんでいるときに作曲されたもので、悲しみや不安といった気持ちが控えめに表現されています。哀愁漂う降下から感情の爆発までは、嵐の前の静けさです。この悲壮感を「Night」で表現するため、エネルギッシュな感じではなく、優しさのある悲しいムードを作りたいと思いました」

★ベートーヴェン - ソナタ テンペスト 第3楽章 (Beethoven - Sonata No.17 “Tempest” 3rd Movement)(7分)

コンセプトアーティストの仕事で、Samanthaはワークフローをプロジェクトごとに使い分けています。

「絵には、それぞれ課題があります。スタイライズされたものから写実的なものまで、さまざまなスタイルやテーマに適応させなければいけません」

「Spaceship (宇宙船)」

それを念頭に置いて、彼女は初心者に次のことを勧めています。

「常に好奇心を持ち、学び続けてください。私はエンバイロメント デザインに重点を置いているので、さまざまな建築構造を理解し、自然界をよく観察しています。テクノロジーの急速な発展に伴い、コンセプトアートでも3Dワークフローが取り入れられ、より効率的な方法でさまざまなアングルやアイデアを提供できるようになりました。その結果、コンセプトアートの意義が高まっています。3Dプログラムの学習だけでなく、伝統的な絵画や映画も分析し、巨匠から学びましょう。彼らがどのように絵を構成し、色を使っているのかを理解してください」

「Street (ストリート)」

現在も、Samanthaは向上心を持って働いています。

「ドローイングの基礎を固め、ゲームのトレンドを追いかけるために、私はこれからも学習を続けていきます。3Dモデリングは生産性を向上させますが、特にドラフトやプリプロダクションを行うときは、確かな2Dの手描きスキルも不可欠になるでしょう」

 


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編集:3dtotal.jp