【インタビュー】ファンアートをモチベーションに。3Dキャラクターアーティスト Elizaveta Loseva氏
日本のスカルプターの作品やコレクターズアイテムに惹かれているという 3Dキャラクターアーティスト Elizaveta Loseva氏 が ファンアート制作やお気に入りのアーティストについて語ります
3Dキャラクターアーティスト Elizaveta Loseva がファンアート制作による自由と研鑽のインスピレーション、そして、ファンアートを取り巻くスティグマ(汚名)をどのように乗り越えたのかを語ります。また、ワークフローのコツやインスピレーションにも触れます。
Q. 自己紹介をお願いします
こんにちは、Elizaveta Loseva です。ウクライナ出身の 3Dキャラクターアーティストで、米国に住んで働いています。プロになって 4年、今はフリーランス アーティストですが、その前は Plarium Ukraine のキャラクターチームに所属し、『Sparta:War of the Empires』『RAID:Shadow Legends』などのプロジェクトに携わりました。
「Cardinal」:Plarium Ukraine のチームとともに作ったモバイルゲームのキャラクター(コンセプト:Gregory Vlasenko)
Q. 仕事や個人プロジェクトで他に使用しているソフトウェアはありますか?
よく使うソフトは、Maya、ZBrush、UVLayout、Substance 3D Painter です。個人プロジェクトでは大抵、Marmoset Toolbag をレンダラとして選択しますが、仕事ではプロジェクトによって使い分けます。
現在のパイプラインに組み込めるかどうか、余暇に、いろいろなソフトを試してみるのが好きですね。たとえば、最近は個人制作でも仕事でも、Marvelous Designer を使うことが多くなりました。パイプラインの定番にはならないかもしれませんが、特殊な作業を行える素晴らしいプログラムで、とても便利です。
「Wanderer (放浪者)」:個人制作プロジェクト。私の標準ソフトセット(Maya、ZBrush、UVLayout、Substance 3D Painter、Marmoset Toolbag)と Marvelous Designer で作成。『The Last of Us』の世界観で生きるキャラクターを俳優(ティム・ロス) で表現しました
Substance 3D Designer はエンバイロメント(環境・背景)向けのツールと言われていますが、キャラクターの「珍しい鎖かたびらの模様」や「モデルの美しいベース」を素早く作る場合にも役に立ちます。また、手描きのテクスチャや初期の作品には、3DCoat を多用しています。整理整頓の面では、リファレンス管理に PureRef、スケジュールやアイデア、プロジェクト、タスクのリストの管理に Notion を利用しています。
「Critical Role」に登場する Jester のコレクターズスタチュー。何年もかけて制作したファンアートの1つです
Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあればおしえてください
プロとして活動するアーティストなら誰しも、ポートフォリオを最新に保つことの大変さ知っています(特にプロのプロジェクトでは、2-4年かかることもあります)。私の解決策は、空いた時間にワクワクするようなテーマやIPに関連したアートを制作することです(暇なときにファンアートを作るのが大好きです)。
しかしそうは言っても、ほんの2~3年前までは懐疑的でした。長い間、「ポートフォリオにファンアートを含めるのはプロらしくない」と言われてきましたが、少しずつ変わり始め、個人的に良い方向に向かっていると思います。最近のソーシャルメディアを見ると、プロとして10年以上活躍しているアーティストが、3Dを始めたばかりのアーティストと同じように、好きなキャラクターのファンアートを頻繁に投稿しているのを見かけます。
また、丸1日仕事をした後、個人プロジェクトで何時間も ZBrush で作業するモチベーションを保つのに、好きなキャラクターや物語への情熱に勝るものはありません。私は、自分のポートフォリオに載せるファンアート プロジェクトについて、自分なりのルールを設けています。
1. 実物に忠実であること: あるテーマに対する情熱と人気のIPを混ぜて、誇大に見せてしまいがちです。特に今は、ソーシャルメディア上で多くの声に囲まれている時代です
2. 常にチャレンジや勉強の機会となるプロジェクトを選択: 翼の作り方を学びたいと思ったことはありませんか? そんなときは、飛行するキャラクターのモデルを作成します
3. ファンアートは誰かの作品へのラブレター: オリジナル作品について言及することを忘れないでください
ZBrush でモデリング、Substance 3D Painter でテクスチャリング、Marmoset Toolbag でレンダリング
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください
ずっとゲーマーだったので、いつもビデオゲームやその制作に携わったアーティストからインスピレーションを受けてきました。もちろん、ゲーム業界以外にも尊敬するアーティストはたくさんいます。近年は日本のスカルプターの作品やコレクターズアイテムに惹かれています。中でも、大畠 雅人 氏 と 森田 悠揮 氏 の作品が大好きで、いつも新作を心待ちにしています。
西洋のアート界でまず思い浮かぶのは、James W Cain と Simon Lee です。そして Maria Panfilova の作品も大好きです。彼女の彫刻は非常に流動的かつ有機的で、東洋と西洋のスカルプトスタイルの両方からインスピレーションを得ているように感じます。
2Dアーティスト、コンセプトアーティスト、イラストレーターについて、何人か名前を挙げておきます。Carlyn Lim は、超お気に入りの1人です。彼女のクリーチャーやキャラクターは、とてもユニークな雰囲気を持っています。ディテールまでこだわりがありながら、過度になりすぎず、常に目を休ませる場所があります。いつか、彼女のコンセプトを基にしたモデルを作ってみたいですね。
Qistina Khalidah、Irina Nordsol、Xi Zhang の作品も必見です。3人は、それぞれまったく異なるアートスタイルですが、どのアーティストも同じようにインスピレーションを与えてくれます。
顔のアップ。瞳に映る感情を捉えようとしました。顔は、さりげないものでも、ストーリーを語るべきです
Q. 近年の作品についてお聞かせください
個人プロジェクトとしてリアルなゲームキャラクターの胸像と、3Dプリント向けにスタイライズされた彫像を制作しています。どちらも他の余暇プロジェクトと同じように、学習目的のものです。私は常に新しいことを学び、個人制作でも技術を深めていきたいと思っています。
学習中は、技術の一面に集中することが大切だと学びました。そうしないと、2つの面倒なことが起こります。1つは、複数のトピックに意識が拡散して、ある側面を深く掘り下げる時間がなくなります。もう1つは、プロジェクトが巨大になり、何年も費やした結果、興味を失ってしまうこともありえます。私はどちらの状況も経験しているので、2度とこのような失敗をしないように心がけています。
もし、私のやっていることに興味があれば、Instagram のストーリーに作業中のショットを投稿しているのでご覧ください。
>> Elizaveta Loseva氏 の 3dtotal ギャラリー
https://3dtotal.com/ohpleasestopit
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