【インスピレーション】アカデミー視覚効果賞を受賞したVFXスープが解説。映画『1917 命をかけた伝令』のVFX舞台裏

プラクティカル シューティング

本作では、バーチャルな瞬間が最小限に抑えられています。「カメラの動きに手を加えたのは、手ぶれ補正と編集の意見に基づいて再構成したときだけです」とバトラーは明かします。「カメラマンも役者も AD も、撮影を繰り返すことに慣れているので、2テイクを撮る頃にはモーションコントロール(レールにアームを取り付けて撮影する手法)に頼らなくなっていました。すべてがステディカム映像のように、自立して世界を移動しなければならなかったので、おそらくモーションコントロールでは不可能だったでしょう」

本作の VFX では、撮影監督ロジャー・ディーキンス(左上)の功績も大きい

それぞれの部門は、独立した形で作業しなければなりませんでした。「2人のコンポジターが隣り合って座り、1人は飛行機が墜落するAサイドのショットを担当し、もう1人は(カメラが回り続け)ブレイクとスコフィールドが立ち上がってパイロットを助けるBサイドを担当しました。エフェクトでは、その瞬間を覆う埃や破片の連続したシミュレーションを作成しますが、それは2つのフレーム範囲にわたります。そのため、両方のショットが終わるまで作業は終わりません。たとえば、片方のコンポジターがショットを引き立たせるために少しずつ火を加えると、もう片方のコンポジターもショットに火を加えなければならないのです」

それぞれのショットが異なるため、自動化は不可能でした。彼らは Nuke の作業アプローチを共有し、片方のショットが完成するまでやりとりを続け、その後、もう片方のショットを完成させました。

見えない継ぎ目

「継ぎ目と同じくらい大変だったのが、連続して撮影される内部の “見えない継ぎ目” でした」とバトラーは言います。「私たちは継ぎ目のない 3,000フレームの連続ショットを任されましたが、ビジュアルエフェクト パイプラインは、1,000フレームを1度に処理することに慣れていません(処理能力もありません)。そこで、600フレームに分割してさまざまなアーティストに配布し、それらをすべてシームレスにつなぎ合わせる必要がありました」

これらのショットを並行して作業することはできませんでした。想定外だったのは、簡単なショットでもドミノ効果でとてつもなく大変になるということです。誰かがショットの背景にシンプルな粉塵の要素を追加しただけでも、それはすぐに次のショットに影響するのです。

さまざまなカメラリグを安定させ、統合することで、流れるようなショットの印象にする必要があります。「いくつかのカメラリグには、異なるリズムがありました」とバトラーは言います。「あるショットから次のショットに入るとき、リグの振動が微妙に異なるなら、不自然にならないように滑らかにしなければなりません。興味深かったのは、スコフィールドが岩の後ろを泳いでいるときに、岩の反対側から出てきて、泳ぎが半ストロークずらされていたことです。そういう微妙な処理があちこちにありました。編集は、私たちが処理した調整済みのリタイムを使って、そういったことをするのが得意でした。劇中の目に見えないリタイムの量は重要でした。なぜなら、それはが映画のペースやリズムを調整(時には修正)するための唯一の手段だったからです」

カヌーのトレーニング施設や川で撮影された

本番撮影(プリンシパル フォトグラフィー)

「VFX と編集は、修正・改善・装飾で互いに依存しているため、その関係性には重要な意味があります」とバトラーは言います。「本作では、双方のツールの多くが取り払われていたため、テイクやカットではなく、リタイムやリポーズの話が多くなりました。そしてどんな理由であれ、テイクを変更することは滅多にありません。なぜなら、別のテイクになると継ぎ目も変更することになり、成立しなくなるからです」

毎日の本番撮影の終わりには、次の日の撮影を開始するためにヒーローテイクが選ばれました。「それは通常、ポストプロダクションまで決めることはありません。しかし、本作の短い意欲的なスケジュールでは、大規模なVFXでほとんど行われたことのない方法を試していきました。それが可能だったのは、撮影しながら同時にディレクターズカットが行われていたからです。撮影後のディレクターズカットでは、カットに影響しない範囲でリタイム調整するなど、多くのことを行なっていました」

農場

ブレイクとスコフィールドは、旅の途中である農家に入ります。「それは私たちにとって厄介なことでした」とバトラーは認めます。「このシーンの “前景のワイプ” は明確ではありませんでした。通常、1ショットのように見せる場合、前景のワイプが最も簡単な手法ですが、本作では控えめに使われており、前景のライトがあったとしても、フルフレームではありませんでした。そうしたことから、この農家に出入りする部分には、見えないブレンディングが施されています。また、このシーンの環境処理の多くは、ドイツ軍が破壊したことを示す煙の追加でしたが、死んだ牛の追加や、グリーンとセットの装飾も行なっています」

木・茂み・道路など、時代にそぐわない要素はペイントアウトされました。「サムは環境を荒々しく見せたかったので、多くのものを取り除きました」

いくつかのシーンでは、前景のワイプを入れてカットをつないでいる

ドイツ軍が破壊した跡を示すために煙を加えている

決して黒くしない

破壊されたフランスの街(エクスト=サン=メン)のシーンでは、マグネシウム照明弾が夜空に向けて発射され、スコフィールドは130フィートの距離を22秒かけて進みます。「街のセットは8割完成していたので、このシーンのデジタル拡張は少なくて助かりました」とバトラーは言います。「デジタルで追加された建物は、近くの建物のライトのタイミングを利用して、キーをオフにするだけで済みました。しかし、スコフィールドが最初に街に入ってきたときに、影のブレンドを隠す作業は大変でした」

「シーンのつなぎを暗くするのは便利な手法ですが、本作では “決して黒くしない” というルールがありました。そのため、スコフィールドが意識を失うとき以外に、フレームが黒くなって何も見えなくなることはほぼありません。構成上の理由もありますが、観客に “ごまかした" と思われたくなかったので、視線誘導し、遷移部分でもごまかしのない “何か” を継続させる必要がありました」

ドイツ兵に追われて川に飛び込んだスコフィールドは、滝に遭遇します。「滝は映画の中で最も難しい場面の1つでした」とバトラーは明かします。「最終的に、デジタルダブル俳優のプレート要素水のシミュレーションAサイドの水の投影を組み合わせ、撮影はカヌーのトレーニング施設や川で行われました。ドラマチックな滝にするための拡張も行いましたが、当初は川のスケールに合っておらず、“スコフィールドが落ちて助かるとは思えない” というのが、全員の意見でした。とはいえ、巨大な川や100フィートの落差とは言わないまでも、危険な感じを出す必要があったので、少し距離を縮めて、45フィートの落差で対応することにしました」

落下するシーンの高さもポスプロで調整しています

激しい戦場

軍の攻撃を中止させるという緊急の命令を伝えるため、スコフィールドは激しい戦場をショートカットして駆け抜けます。「最大のポイントは、特殊効果の機材やスタッフ、そして意図しない余波をすべて隠したことです」とバトラーは語ります。「サムが重視したのは、映画に出てくる初期の塹壕(泥だらけで、何ヶ月も兵士たちが生活していたもの)と違い、ここは “白亜の新鮮な塹壕” であるということでした。そこではまだ何も起きておらず、私も実物を見たことはありません。そして、兵士たちが初めて塹壕から飛び出すとき、新鮮な緑の芝生の上を駆けることも重要でした」

「最初のリハーサル撮影が始まると、芝生がマットになり始めます。さらに特殊効果では1回の爆発に対し、4つの穴を開けなければなりません。こうして、地面に26以上の穴が空き、それぞれのテイクではそれらがむき出しになるため、隠したり、偽装したりする必要がありました。スコフィールドを演じるジョージ・マッケイは、意図せずに何度か倒れましたが、撮影はそのまま続けられました(誰もが最大4回のテイクまでで、後戻りできないことを理解していました)。最終的にどのテイクを使ったのかはわかりませんが、倒れても立ち上がり、自力でカメラに追いつくところは素晴らしかったです」

地面の穴やわだちは塞がれ、煙が追加されている

ファイナル ラン

「私は塹壕に沿って最後に走るシーンが好きです。長い間、大変な目にあってきた主人公がついに挑戦し、作戦の成否を観客が目撃することになるからです」とバトラーは言います。

「爆発・物音・音楽、そしてその瞬間に得られる強烈な効果は、最も満足のいく出来栄えになりました。私たちの作業がなければ、主人公は特殊効果の地雷原の中を走っているようなものですから。これは私のキャリアの中で、多くの部門をサポートするためにデザインされた “目に見えない視覚効果の最高例” であり、これまで見た中で最もレベルの高い作品です(本当は話したくないのですが、そうしないと私たちの努力が伝わることはないでしょう)。映画のレビューでVFXについて書かれないのは嬉しいことですが、同時に緊張もします。VFX が話題になるということは、何か間違ったことをしたからなので、普通は話題にならない方が嬉しいです。あくまでも映画作品が第一であり、VFXが目立ってはいけないのです」

『1917 命をかけた伝令』<異次元の没入感はこうして出来上がった!>11分超え豪華特別映像
MPC Film - 1917 VFX Breakdown

編集部からのおすすめ:TV、映画、映像制作における特殊効果について学ぶには、書籍『映像制作のためのVFX教科書』をおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp