【インスピレーション】原作の世界観を忠実に再現。ドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』の VFX 舞台裏
シモン・ストーレンハーグの美しいアートワークを基に制作されたドラマ『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』。VFXスーパーバイザー Andrea Knoll が、制作で直面した課題と達成したことについて語ります
はじめに
アーティストでデザイナーの シモン・ストーレンハーグ は幼少期の原風景に触発され、スウェーデンのムンソ島に建設された巨大な粒子加速装置をめぐる物語『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』(日本語版:グラフィック社)を描きました。この SFビジュアルブックでは、荒涼とした風景の中に、放置されたロボット・車・機械・放浪する子供・恐竜が登場します(こちらでチェックできます。※サイトは重いので注意)。その自然と先端技術の並置は、脚本兼プロデューサーの ナサニエル・ハルパーン(代表作に『レギオン』)とアマゾン・スタジオの想像力をかきたて、原作にちなんだ Amazon Prime Video シリーズのベースとなりました。
8つのエピソードごとに監督が異なり、『ストーカー』(2002年)のマーク・ロマネク、『ファインディング・ニモ』(2003年)のアンドリュー・スタントン、『リトルマン・テイト』(1991年)のジョディ・フォスターなどが参加しています。そして、シーズン全体のVFXプロデューサーを『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の Andrea Knoll が務めました。全体を統括する VFXスーパーバイザーは 3人体制で進められ、パイロット版(エピソード1)は Ashley Bernes、エピソード6はインハウス コンポジット スーパーバイザーの Eduardo Anton、残りのエピソードは Robert Bock が担当しました。
俳優に指示を出すマーク・ロマネク監督
重力の影響に反する雪(エピソード1. ループ)
プリプロダクション
本作では 1,300 のVFXショットを制作するため、ポストプロダクションに 4〜5ヶ月費やされました。「プリプロダクション、プロダクション、ポストプロダクションが同時に進行していました」と Knoll は明かします。「すべてのエピソードにVFXショットが存在し、パイロット版に 300、エピソード8 も 200 近くありました」。
そして、そのスケジュールはタイトでした。「今回のプロジェクトがいつもと違っていたのは、プリプロダクション段階でほぼ変更のない8本の脚本があったため、一定の計画を立てられたことです。各エピソードには(それぞれユニークな映画のように)独自の課題があったので、先を見通すことができて助かりました」。
ループの地下にある「エクリプス」(エピソード1. ループ)
原作の世界観を大事に
ストーレンハーグのアートワークは重要なビジュアルリファレンスであり、イメージを安定させる役割を果たしています。「彼の本から伝わってくる感情を大切にしたいと思いました。本作の VFX はストーリーを盛り上げるためにあります。なぜなら、このドラマの核心は “町に住む人々の個人的なストーリー、そしてループ(宇宙の謎を解明するために作られた機械)との交流” にあるからです」。
ストーレンハーグのアートワーク
「ナサニエルは明確なビジョンを持っていて、シモンの仕事と深く結びついていました」と Knoll は言います。「彼はすべてのエピソードを書き、私たちにいろいろなことを試してほしいと願う、尊敬すべき共同制作者でした。私たちの目標は、すべてのショットとフレームを1つの絵のように扱い、その質感を各エピソードで維持することです。当初から明らかだったのは、すべてをフォトリアルにしすぎて、VFX がストーリーから浮いてしまうのを避けることでした」。
マーク・ロマネク、アンドリュー・スタントン、ジョディ・フォスターの3人は、VFXに対してさまざまなアプローチをとっていました。「彼らは監督であると同時に、オープンな共同制作者でもありました。私たちはクリーンなプレートを用意し、ショットのフレーミング方法と、ポスプロで何をするかについて話し合いました。マークはパイロット版を担当し、ナサニエルは他のエピソードの最終デリバリー(配信)までを担当しました」。
島に取り残された少年は「怪物」と遭遇する(エピソード7. 怪物)
コンセプトアート
コンセプトアーティストの多くはアート部門で働いていました。パイロット版はプロダクションデザイナーの Philip Messina、残りのエピソードは Michael Wylie が指揮を取りました。
「プリプロダクション段階ではインハウス コンセプトアーティストが1人いて、パイロット版に参加していました。彼は “家の崩壊” を実現する方法について、最初のコンセプトアートを手伝ってくれました」と Knoll は言います。「また、VFXベンダーにもコンセプトアーティストが常駐しており、さまざまなコンセプトアートに取り組んでいました。私たちが唯一作成したのはパイロット版の家のプリビズのみで、MPC がそのショットを担当し、最終的に Rodeo FX がパイロット版の家のエフェクトの全ショット、そしてシーズン全体のCGとアニメーションのほとんどを担当しました。MPC はエピソード1、6、8 を担当し、BOT VFX はエピソード6、7、8 のクリーンアップとペイントアウト(※1)の作業を担当しました」。
俳優に指示を出すアンドリュー・スタントン監督
※1:映像から不要な要素を削除し、別のものに置き換えること