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【インタビュー】『Star Citizen』の宇宙船のデザイン。コンセプトアーティスト Gurmukh Bhasin氏

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ゲーム『Star Citizen』の コンセプトアーティスト Gurmukh Bhasin氏が、その経歴と3Dデザインに関する見識を共有します


Gurmukh Bhasin
コンセプトアーティスト|ロサンゼルス、米国


Gurmukh Bhasin氏 は、米国 ロサンゼルス在住のコンセプトアーティストです。彼の伝統的なアートや建築での経験は、そのデジタルコンセプトデザインのキャリアに大いに役立っています。現在は、記録的なクラウドファンディングを経て開発された SFゲーム『Star Citizen』(制作:Cloud Imperium Games) に携わっています。

Q.自己紹介をお願いします

こんにちは、私は Gurmukh Bhasin です。カリフォルニア州ロサンゼルスで生まれ育ちました。現在ももロサンゼルスに住み、この素晴らしい街を故郷と呼んでいます。そして、コンセプトアーティストとして、建築・背景・プロップ・乗り物などの制作に熱意を持って取り組んでいます。コンセプトデザインでは、常に本物を制作しているように心掛け、あらゆるものが一体化して機能するようにすべてのディテールを分析します。私は建築での経験があるので、作品やコンセプトの限界を超え、物語を膨らませ、本物の乗り物・プロップ・背景を要素として展開しています。3Dデザインは、現実世界における制作に最も近いので、コンセプトデザインの大部分を 3Dで行なっています。

『Star Citizen』の宇宙船 Constellation Phoenix の船内

Q.アートに関する経歴や学歴について聞かせてください。昔から3Dを学びたかったのですか

2000年、高等教育を受け始めた頃は、コンセプトアートをつくるコンセプトアーティストという職業があるのを知りませんでした。私は建築を学び、仕事としていました。アリゾナ州立大学で学士号を、南カルフォルニア建築大学で修士号を取得。コンセプトアーティストになる前は、建築デザイナーとして 7年あまり働いてきました。

建築を学んでいた頃は、ほとんどのプロジェクトを手作業で行なっていました。鉛筆や直定規で描き、縮小したバスウッド(木材)でデザインのモデルを作りました。実は、当時は、デジタルツールや 3Dデザインに気後れしていました。そこで、2005年、大学院へ進学する際、建築形態やデザイン言語を検討する方法として Maya を使い始めました。言うまでもなく、Maya を使ったデザインのデジタル手法に、私は惚れ込みました。それ以降、オンラインチュートリアルや ビジュアルエフェクトスクール Gnomon のクラスを受講しながら、独学で Maya を勉強しています。

困難に直面したり、ストレスが溜まったりすることもありますが、ここ10年間でモデリングやデジタルデザインのスキルが着実に進化したことに、とてもやりがいを感じています。今日の私を育ててくれた すべての友人、指導者に深く感謝します。

「HEMTT-M1075」:Gnomon School of Visual Effects の講師 Max Dayan氏(書籍『Mayaビジュアルエフェクト』著者)の上級ハードサーフェスモデリングクラスで制作

Q.あなたにとって最もクリエイティブなインスピレーションは 何/誰ですか?

幅広くクリエイティブなインスピレーションがあります。デザインに興味を持ったきっかけは建築だったので、特に大きなものは建築から得ています。子どもの頃はスケートボードに夢中でした(15年以上滑っていました)。2005年、スペインのバルセロナに人生の転機となるスケートボード旅行にいきました。バルセロナの建築は圧巻でした。アントニ・ガウディサグラダ・ファミリア はとても感動的で、その空間に立つと、建築デザインの裏側にある思考過程がよく見えました。デザインの検討のために作成したモデルも複雑で素晴らしかったです。おそらく、ガウディの建築とバルセロナの街全体が、私にとって、最もクリエイティブなインスピレーションの筆頭でしょう。

世界中の宗教建築(特に、父の出身地であるインド)からも大きなインスピレーションを得ています。教会や寺院のデザインは実に美しく、情熱を持って 綿密に建築されているのは明らかです。私はあまり信仰深くありませんが、こういった建築物を訪れると、新しく美しいものへの創作意欲をかき立てられます。

大学院時代の教授 Tom Wiscombe はお気に入りの建築デザイナーの1人です。過去10年間で彼が磨いてきた美的感覚とデザインの視覚表現は、とてもユニークで魅力的です。特に SFプロジェクトで行き詰まったとき、彼の作品をよく参考にします。また、建築家 ザハ・ハディド の作品も大好きです。彼女の建築形式は見ても感じても美しく、頭の中に無数のアイデアが浮かんできます。

デジタルアートに関しては、大好きな素晴らしいコンセプトアーティストが何人かいます。その1人は David Hobbins で、コンセプトアートのイベントで出会いました。後に 彼は良い友人となり、彼のおかげで初めてのコンセプトアートの仕事を得ることができました。最も好きなアーティストは Daniel SimonBen Procter です。言わば、棒の先にぶら下げられた人参のように、彼らは私に、努力する目標を与えてくれます。私は、まだまだデザインと技術を高め続け、新しく請け負うプロジェクトで腕を磨かなければいけません。彼らの作品を見るたびに勉強と練習を続けようという気持ちになります(いつか同じくらいの腕前になれるように)。そして言うまでもありませんが、シド・ミード(工業デザイナー、代表作『ブレードランナー』) と Ralph McQuarrie(コンセプトデザイナー、代表作『スター・ウォーズ』)からもインスピレーションを得ています。まるで夢やクリエイティブな瞑想に落ちるかのように、彼らのアートに没頭するのが大好きです。

自然や環境の美しさからも大きなインスピレーションを得ています。素晴らしい夕焼けはもちろん、歩道の割れ目・怪しげな路地の落書きを見ると、いつも創造力がかき立てられます。町が変化しながら自然と調和する様子、時間の積み重ねでできる層、そして、あらゆる要素に刻まれた歴史の寄せ集めに感服し、いつも刺激を受けています。

「Carrack (キャラック船)」(レンダリング協力:Chris Olivia)

Q.コンセプト制作に使うソフトやツールは何ですか? また、その理由は?

モデリングで使用した 3Dソフトウェアの中では Maya が1番のお気に入りです。このモデリングツールセットに慣れると、まるで自分の手の延長のように感じられます。ショートカットメニューは使いやすく設定されているため、頭の中で思い描いていたものをデザインするときに、プログラムが妨げになることは滅多にありません。まるで実物を扱うように、3Dで形状・ディテール・機能性をテストできるのは貴重です。私の目標は、パースや寸法を正確にして、あらゆる角度からデザイン/検討することです。

レンダリングには V-RayKeyshot を使用しますが、最近はもっぱら KeyShot です。KeyShot の場合、短時間で簡単に美しいイメージを作成できます。デザインコンセプトの正確な表現に専念しやすく、私の「アーティストモード」を技術的に妨げることはありません。

Photoshop はポストプロセスに最適のツールです。Photoshop と Wacom Intuos Pro Medium タブレット で、未加工のレンダリングにペイントストローク・キズ・埃・大気などを加え、品質を向上させています。

これらの素晴らしいツールが、日々のワークフローの99%を占めています。私は元々、ディテールの大部分をモデリングするので、KeyShotによるレンダーイメージは ほぼ完成に近い状態です。Photoshop の作業は、微調整を少し行うだけの最小限のポストプロセスです。

「Fantasy Mosque (ファンタジー モスク)」:建築は アブダビの シェイク・ザーイド・グランド・モスク にインスパイアされ

Q.大まかな 3D制作ワークフローを教えてもらえますか?

プロセスはいたってシンプルです。まず、アイデアが思い浮かぶように手描きスケッチから始め、すぐに Maya に移って 3Dでデジタルの肉付けを施し、コンセプトを作成します。Maya では多次元的にアイデアを検討できるので、メインのデザインツールとして使用しています。デザインでは実際に機能するように心がけます。クリッピングが生じないように気をつけ、オブジェクトが開いたり、プレイヤーが歩いたりするための空間を確保します。3D制作は、あらゆる要素を正確なサイズと配置でデザインする唯一の方法です。

私はモデリングを通じて 3Dデザインに高度なディテールを加えます(カットラインやボルトなどもモデリングします)。こういった要素は、最終レンダリングをより生き生きと見せます。また、これらはコンセプトモデルに過ぎないため、普段はあまりポリゴン数を気にせず、UV展開やテクスチャリングもほとんど行いません。Maya でデザインとモデリングを終えたら、V-RayKeyshot でレンダリングします。最後に Photoshop に移り、最終デザインのディテールをすべて統合し、キズを加えるなどの微調整を施して生命を吹き込みます。

コンセプトデザインを3Dで行うことのメリットは、ゲームアセット開発に最適化された完全な3Dモデルと最終レンダーを、ゲームモデラーに引き渡せることです。作業のベースとして完全な3Dデザインがあれば、開発の素晴らしい開始点となり、最終アセットをできるだけ意図したデザインに近づけることができます(※モデラーの都合で大きなデザイン変更が起こらないかぎり)。

「Forgotten Church (忘れられた教会)」コンセプトアーティスト James Paick氏 の作品からインスピレーションを得て制作

Q.あなたは『Star Citizen』の制作に関わっていますが、何が『Star Citizen』を特別なプロジェクトたらしめていると思いますか?

素晴らしいプロジェクトなので、携わることができ、本当に光栄です。『Star Citizen』を異色の存在にしているのは、その多種多様な側面です。まず、本作は最高額のクラウドファンディングを達成したゲームであり、8,500万ドル以上(※2016年の時点)の開発資金を調達。クラウドファンディング史上最高額の資金調達として、ギネスブックにも記録されています。

本作は「オープン デベロップメント プロジェクト」として進められました。つまり、個々の要素が完成するたびに、ゲームのサポーターやファンと開発中のものをすべて共有しました。これは一般的なゲーム開発の手法ではありませんが、面白くやりがいがあります。一生懸命働いた結果をすぐに公開し、ファンはそれを見て反応します。私の仕事がこのゲームに資金と関心を呼び込み、プロジェクトに息を吹き込んでいる様子を見ると、貢献している実感があります。このように、オープンデベロップメント プラットフォームを通じて『Star Citizen』の最高のファンと交流し、そのフィードバックや要求に触れられるのはとても楽しい体験です。これは、私のデザインプロセスにも確実に影響を与えています。デザインする船に、ファンの提案を取り入れられるか楽しく検討しています。

『Star Citizen』は完全にファンの資金提供で成り立っているため、従来のパブリッシャーのように「できる/できない」を指示されることなく、自由に好きなものを制作できます。創立者で CEO の クリス・ロバーツ は、これまで通りのゲーム制作、これまで通りのプロセス、長年のやり方に興味がありません。本当に好きなように『Star Citizen』を開発して、あらゆるルールを破り、あえて大きな夢を掲げて 実現しようとしています。彼は良いものを作るのに楽な道は選びません。ものすごく格好良いもの、ゲーム業界を良い方向へ変えるものを作るために困難な道を選びたいと思っているのです。クリス・ロバーツ と一緒に仕事をすると、若かりし頃の スティーブ・ジョブズ や マーク・ザッカーバーグ と仕事をしているように感じることが多々あります(スティーブやマークと仕事をした経験はありませんが)。それは かなり大胆な道ですが、自分の仕事が完成したときに、素晴らしい結果になるという強い確信があります。

「Vanguard (ヴァンガード)」:Chris Olivia と Elwin Bachiller の協力に感謝を込めて

Q.『Star Citizen』の制作にどのように関わっていますか? 手掛けた仕事の一部を説明してもらえますか?

私は『Star Citizen』のコンセプトアーティストです。具体的には、宇宙船をデザインしています。通常は、ゲームに登場させたい新しい宇宙船のアイデアをいくつか提案し、追加するものをファン投票で決めます。次に、創造している世界の役割に基づき、その宇宙船に必要なもののリスト・大まかな寸法・メーカーなどをデザインチームが考えます。その後、私が 3種類の宇宙船を 3Dで素早く描いてデザインします(スクリーンショット上にスケッチして、最初からラフに描きます)。それぞれの方向性を クリス・ロバーツ に提案し、彼がどれを完成させるか決めたら、再び制作に取り掛かります。ハイディテールで調整後、たくさんのレンダーやアニメーションを制作して、コンセプトを完成させます。

この時点で、宇宙船用に作成したコンセプトアートやアニメーションを利用し、宇宙船とそのステータス、宇宙での任務をコンセプトセールとして販売します。このセールの期間(10日間)で、ファンは将来の販売よりも安価に永久保証(lifetime insurance: LTI)で宇宙船を予備購入して、ゲーム制作に貢献できます。作品のコンセプトセールは、数か月間にわたって取り組んできたものをファンに初めて見せる 素晴らしい機会となります。そして、彼らが宇宙船を気に入るかどうか分かり、『Star Citizen』の開発にもたらされる資金も確認できます。私がこれまでデザインしたのは「Constellation Phoenix の内部」「Mustang variants」「Carrack の外部」「Vanguard」などです。

「Windmills (風車)」:David Luong の「Photoreal Matte Painting」コースの課題用に制作

Q.このプロジェクトに取り組み、何か貴重なことを学べましたか?

今回はビデオゲーム業界での初めてのフルタイムの仕事だったので、多くのことを学びました。最も重要なことは、業界全体の競争の激しさです。一旦 この世界に入ったら、成功を維持するためにさらに努力し、最高の作品を制作しなければなりません。あなたは、一流しか通用しない最高品質の一部となります。私がまだ建築家で、エンターテインメント業界のコンセプトアーティストへの転向を試みていた頃は「きっかけさえつかめれば!」と心の中で思っていました。私にとっての目標は「業界に入ること」であり、その後は、簡単に考えていたのです。しかし、本当に難しいのは「入った後」でした。幸いにも、素晴らしい先輩や指導者に恵まれ、これまで『Star Citizen』で制作したものはすべて成功を収めています。

ビデオゲーム業界で働くのはとても楽しいです。人生でこれほど熱心に仕事をしたことはありません。そして、幸運にも大好きなものに携わっているので、まったく仕事のような気がしません。

「Vanguard (ヴァンガード)」:『Star Citizen』の宇宙船。協力:Elwin Bachiller

Q.次の目標を教えてください。将来の仕事のために向上させたいツール、テクニック、スキルなどはありますか?

将来の目標は、映画業界のコンセプトアーティストとして働き、自分のコンセプトデザイン会社を設立することです。そして、ゲームや映画のためのコンセプトアートに加え、実際の建物、大規模開発、実際の乗り物・製品・ファッションなど未来のコンセプトを制作したいと思っています。私はすでに、デザイナーとして 建築とエンターテインメントの垣根を超えているので、その先を目指したいのです。将来の自分が、現実から架空まであらゆるものをデザインしている姿が目に浮かびます。

腕を磨きたい技術はいくつかありますが、時間ができたら、おそらく ZBrush の知識を深めるでしょう。実用的な基礎知識はあるものの より技術を高めるには、もっと時間をかけ、実際に本格的なプロジェクトに取り組む必要があります。また、3Dモデルのテクスチャリングをさらに行い、近いうちに MARI も学習する予定です。

「The New Venice (未来のヴェニス)」:モデリングした建築物とマットペインティング テクニックを組み合わせた3D作品

Q.最後に、最も大事なことですが、余暇はどのように過ごしますか

家族やガールフレンドと一緒に過ごします。家族の多くは ロサンゼルスにいるので、少なくとも週1度は会うようにしています。また、ガールフレンドと遊んだり、サッカー観戦したり、単にだらだらとリラックスしたりするのも好きです。仕事から離れて楽しむ趣味もいくつかあります。8歳からやっているサッカーは、週3回ほど異なるチームでプレイしています。13歳からやっているスケートボードも楽しんでいます。最近はご無沙汰でしたが、今は復帰して週1度は友人と滑りに行きます。仕事でストレスが溜まっても、こういった趣味のおかげで、健全で楽しくいられます。そして、アイデアを思いつけるように、頭をスッキリさせるのにも役立っています。

インタビューの機会をありがとう。私自身と『Star Citizen』についてお話するのは面白かったです。このインタビューを楽しんでいただけたら幸いです。

「Carrack (キャラック船)」:Star Citizen の宇宙船。斜め45度と正面のビュー

 


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翻訳:STUDIO LIZZ (Atsu)
編集:3dtotal.jp

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