【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード62:『世界侵略: ロサンゼルス決戦』での悟り
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード62:『世界侵略: ロサンゼルス決戦』での悟り
映画『キャビン (Cabin in the woods)』の仕事が終わる頃(※エピソード38:クリーチャー祭り - 映画『キャビン』参照)、ゲーム『Bioshock (バイオショック)』をもとにした映画の製作が、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の ゴア・ヴァービンスキー監督で始まることになり、その映画のメイクの造形部門のスーパーバイザーとして雇われることになりました。
ゲーム『Bioshock (バイオショック)』
ところが、始まって2週間で、予算があまりに膨らみすぎて、打ち切りになってしまいました。今まで何度も経験してきたこととはいえ、やはり 突然仕事がなくなるのは、まさに バイオショーック!! しかし、それと同時に『世界侵略: ロサンゼルス決戦 (Battle: Los Angeles)』(2011年)という映画の製作に他のスタジオから雇われたのでした。
『世界侵略: ロサンゼルス決戦 (Battle: Los Angeles)』(2011年)
さて、『世界侵略: ロサンゼルス決戦』で何を造形したかといえば、エイリアンの CGスキャン用の原型です。デザインは、プロダクションが雇ったデザイナーのものにほぼ決まっていて、私はそれに基づいて、粘土で原型を作りました。
後ろに見えるのがプロダクションからのデザイン画です
しかし、結構忠実に作っているにかかわらず、造形の写真を送ると結構な数の修正要求が送られてくる。そして、その項目を全てチェックして、修正して、再び写真を送ると、翌日に また同じくらいの数の修正項目が...。「その監督はなかなか意思を決められない」というので結構有名らしくて、それが 3回くらい続いた時、「もうあかん」と思って、スタジオの人と相談して「監督のオフィスで造形しよう」ということになり、ソニー・ピクチャーズ の監督のオフィスに通うことになりました。そこで 監督と初めて対面し、話を聞いてみたら「なぁんだ!こうして欲しかったのね!」ということがあっさりわかったのです。
監督と初めて対面し、話を聞いてみたら「なぁんだ!こうして欲しかったのね!」ということがあっさりわかったのです
この一件で大いに学んだことは「言われた指示を そのままこなすのではなく、なぜ この指示をしたのか、その根本を考える」ということです。
監督やプロデューサーは、造形やメイクなどのプロではありません。素人です。しかし「こんな風にして欲しい」という 何となくのアイディアは大概持っています。そこで「もっとこんな雰囲気にして欲しい」という漠然としたことを言ってもらえれば、こちらはプロなのだから「どこをどういじればいい」というアイディアが出てきます。しかし、具体的に「ここをこう変えてくれ」とか言われたとしても、それは 素人考えで、その通りに変えたとしても、結果として 彼らが欲しい雰囲気が出ない可能性も出てくるのです。そこで「永遠の変更ループ」に陥ったりするのです。
監督が欲しい雰囲気を具体化するのはプロの仕事です。プロが考えるべき「やり方」を素人が指示してくることでうまくいかなくなることが多いのだと思います。何はともあれ、今回は 監督と直接会話して、目の前で造形を見せたので、その後は かなりスムーズにことが運びました。
しかし、事件が起こりました。私を派遣した特殊造形スタジオでは、私の造形している このミニチュアバージョンを作った後に、等身大の(2mくらいある)エイリアンを製作する予定でした。
ミニチュアバージョンのエイリアン
私が 監督のオフィスで仕事をしていると、別の特殊造形スタジオのオーナーが訪ねてきました。彼とは顔見知りなので、お互い「久しぶり!」って感じで挨拶を交わすと、彼は会社のポートフォリオを持って、監督のオフィスに入って行きました。
何か仕事をもらうようです。そして、彼が去ってから 1時間くらい後でしょうか? その久しぶりに会った彼から、私の元に電話がありました。そして、何と「彼のところで、今 私が作ってるエイリアンの等身大を作ることになったから 私を雇いたい」と言ってきたのです。
私は一瞬、何が起きたのかわからずに、言葉を出せずにおりました。派遣元のスタジオで 自分が等身大モデルを作る予定でいたからです。薄々感じていたことですが、その後、すぐに悟りました。私を派遣したスタジオは 割と質が高いところだったので、等身大のエイリアンの製作費もかなり高かったようです。ところが、その日に来た別のスタジオのオーナーは、かなり安い値段で引き受けることにしたようです。そのオーナーは「私が他のスタジオに雇われて ここにいる」ということを知らずに「プロダクションに直接雇われている」と思ったのでしょう。
事情を説明すると、先方も「やばっ」って感じになったけど、私は「まあ これもビジネスの常だから、今話したことは発覚するまで黙っておくよ」と伝えて、監督のオフィスでの仕事を終えたのでした。そして、派遣元のスタジオに戻って、別の映画の仕事をしながら、皆が『世界侵略: ロサンゼルス決戦』の仕事が始まるのを待つ間、自分だけが「等身大のエイリアンは ここでは作られない」という事実を黙ってなきゃならないという複雑な事情になってしまったのです。
結果的に、私は そこの特殊造形スタジオに残り、映画『ダーク・フェアリー (Don't Be Afraid of the Dark)』(2011年)の仕事をして、別のスタジオでの『世界侵略: ロサンゼルス決戦』の仕事は断ることになったのでした。
『ダーク・フェアリー (Don't Be Afraid of the Dark)』(2011年)
会社を持って仕事を継続することの大変さが身にしみると同時に「フリーは やはり気楽だなぁ、選択肢が死ぬほどあるぜ」という軽い考えも身にしみるという体験をしたのでした。
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