【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード60:大いなる選択 -『バトルシップ』

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード60:大いなる選択 -『バトルシップ』

お待たせしました。エピソード58:幻のサム・ライミ版『スパイダーマン 4』のつづきです

幻のサム・ライミ版『スパイダーマン 4』の仕事が途切れて 数日後。すぐに、同じスタジオから、映画『バトルシップ』という映画の仕事の話が来ました。

『バトルシップ』(2012年)

『バトルシップ』の仕事は「プロダクションが いくつかのスタジオにマケット(※キャラクターの立体造形)の製作を依頼して、1番いいところに決める」というコンペみたいなものでした。よくある話です。その依頼を 3つのスタジオが受けたそうですが、なんと、私には、その3つ、すべてのスタジオからオファーが来たのです。

しかし、ありがたい話なのですが、体は1つしかないので、その中から1つを選ばなければいけません。その中のスタジオの1つが、ちょうど『スパイダーマン 4』をやっていたところだったので「そこでやれば、そのうち、そのまま『スパイダーマン 4』が復活するかもしれない」と思い、そこに決めたのでした。そこで数週間ほど、以下のエイリアンの造形をしました。



エイリアンのコマンダー。部下に命令しているところ


同じエイリアン種の科学者。知的さを出しました

完成イメージ:彫刻の写真をフォトショップで加工したもの。こんなこともします

そして、その間にとんでもない事件が起こったのです!

皆さんは『遊星からの物体X』(1982年)という映画をご存知でしょうか? 以前紹介した Robin R. Bottin(ロブ・ボーティン)というアーティストの衝撃的な作品です(エピソード54:『遊星からの物体X』『ロボコップ』.. 憧れのロブ・ボーティンの工房 参照)。私の人生に計り知れない多大な影響を与えた映画です。

『遊星からの物体X』(1982年)より

1982年公開の映画ですが、そのエフェクトは、今見ても すごいと思えるくらい、出来のいい、凄まじいものです。そんなすごい映画の「前日譚が作られる」という。そんな話は、随分前から聞いていました。しかし、『バトルシップ』で他の2つのスタジオのオファーを断った直後というタイミングで、この『遊星からの物体X』の仕事の話が来たのです。

『バトルシップ』と同じような状況で、いくつかのスタジオがその仕事を取るために製作するマケットの仕事です。そして、なんと、デザインは、まるっきりオープンで、好きにしていいとのこと! あの憧れの映画の仕事を自分の好きなように作っていいだなんて!! 

しかし、悲しいかな。自分は『バトルシップ』の仕事の真っ最中。『遊星からの物体X』の仕事は断らざるを得なかったのです。かつて、これほど仕事を断ることが辛かったことはあっただろうか?

『アバター』を断って『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』の仕事を選んでしまったときのように、またしてもこれは選択ミスなのか?(エピソード16:エイリアン vs プレデター vs アバター!? 参照)

しかし、私は沸き起こる悔しさを断ち切って、プロとして『バトルシップ』の仕事に集中したのです。そんな私を褒めてください。「いい子いい子」してください。「高い高い」してください。

そして、プロダクションが仕事を依頼するスタジオを選ぶ運命の日がやってきました。結果は...。残念ながら、私が働いていたスタジオは選ばれませんでした。そして、プロダクションで雇われたデザイナーと親しいスタジオが選ばれたのです。

ところが...です。当然といえば当然ですが、すぐに、そこのスタジオから、この映画の仕事のオファーが来たのでした。もうなんか、ややこしい恋愛ドラマのようですね。一体、私は何マタかけているのか...。

しかし、そこに仕事があり、自分の手が空いている以上はプロとして仕事を受けて当然。そして、こともあろうか、自分がすでに造形した同じキャラを、改めて新たなスタジオで造形することになったのでした(※デジタルスキャン用)。その仕事は1体の造形だけだし、写真もないし、すぐに、映画『グリーン・ランタン』の仕事に移ったので、この話は これでおしまい。

 

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