【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード66:H・R・ギーガーと『スピーシーズ』

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード66:H・R・ギーガーと『スピーシーズ』

SFホラー映画『スピーシーズ 種の起源 (Species)』(1995年)のパート2、『スピーシーズ2 (Species II)』(1998年)の仕事をしました。

『スピーシーズ 種の起源 (Species)』のストーリーは、どこかの星のエイリアンが DNA情報を地球に送り、自分たちの種族を地球人によって作らせ、その生まれたエイリアンが とても美しい女の姿をしていて、男をたぶらかしまくって 地球で繁殖しようとするというものです。その美人エイリアンをデザインをしたのは、あの映画『エイリアン』(1979年)のエイリアンをデザインした(ややこしい?)スイスのアーティスト H・R・ギーガー です。

映画自体がひどかったために『スピーシーズ 種の起源 (Species)』はあまり注目されませんでしたが、エイリアンのデザインと出来はとても素晴らしいものでした。透明な素材をふんだんに使ったパペットは、自分が今まで見た造形物の中でも群を抜いて素晴らしかったのですが、悲しいことに、そのパペットはほとんど映画には映らず、その代わり、その当時の めちゃくちゃ酷いうんこレベルのCGが取って代わったのは本当に残念でなりません。今でも悔やまれます。

 

『スピーシーズ 種の起源 (Species)』のパペット。とんでもないクオリティです!

そんな映画のパート2、『スピーシーズ2 (Species II)』のお仕事です。私がやった仕事は、オスのエイリアンの一部造形とペイント、そして、透明な繭。エイリアンが繁殖するんで、透明な繭がやたらと出てくるのですが、その繭をペイントしまくっていました。この繭は パート1 で登場したのですが、この繭を作った人物は なかなかクリエイティブなアーティストで、なんと、ビニール袋を使って、ふわふわと動く繭を考えたのです。

この素材はビニール袋。普段使うようなゴミ袋なのです

振り返ると、この時代は いろいろ新しいものが生まれてきて「業界がとてもクリエイティブな時代だった」としみじみ思います。さて、そんな仕事の最中、なんと あの H・R・ギーガー がスイスから訪ねてくるというじゃありませんか! 映画『エイリアン』に影響を受けた世代としては、ギーガー は尊敬すべき憧れのアーティストです。

尊敬すべき憧れのアーティスト H・R・ギーガー(1940~2014年)

その ギーガーが トレードマークの黒い服でやってきました。スタジオの社長が 彼にいろいろ見せていると 後半ぽつりと言いました。「I'm sorry to say this but I hate everything I saw here.(言っちゃ悪いけど ここで見たものどれも好きじゃない)」と言いながら「こうしてくれ」とデザインを殴り書きするのだけども、どれもめちゃくちゃで、判別が非常に難しい。巨大なクリーチャーの中身に人を2人肩車状態で入れて動かせとか、まぁ、いろいろと無茶なことを言っていました。そんな彼の腕には注射の跡が...。多くは語りません。

少なくとも、若い頃あこがれていた偉大なアーティストに会い、その仕事に携われたのは、やはり、嬉しいものがありました。しかし、出来上がった映画はとてつもなく最悪な映画でした。よくある話です。残念っ!

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