【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード59:はじめてのシリコン -『キャッスル・フリーク』

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!(※今回は少々品のない表現が含まれています。ご注意ください)


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード59:はじめてのシリコン -『キャッスル・フリーク』

今や特殊メイク業界では当たり前に使われている素材、シリコン。しかし、私がこの業界に入った時は、まだ存在していませんでした

おそらく、はじめて、シリコンが使われた映画は ジャック・ニコルソン 主演の『ウルフ』(1994年)だと思います。この『ウルフ』に出てくるダミーを見て、業界中が衝撃を受けました。

ジャック・ニコルソン主演の映画『ウルフ』(1994年)

それは、今まで皆が使っていた素材では出せないリアルな質感だったからです。それを作ったのは ADI という工房。そう。このエッセーで何度もネタにした映画『ドラゴンボール・エボリューション』と『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』を制作した工房です。(※エピソード2、3、6、8、10:DRAGONBALL EVOLUTIONエピソード16:エイリアン vs プレデター vs アバター!? 参照)

その当時、私は違う工房で 『Castle Freak (キャッスル・フリーク)』(1995年)という映画の仕事をしていました。

『Castle Freak (キャッスル・フリーク)』(1995年)

「小さい頃から、城の中で鎖に繋がれて、虐待を受けて育った少年が成長して、フリークになって、人を殺しまくる」という映画です。その工房から「シリコンという素材を学ぼう」と私を含む何人かで ADIスタジオを訪ねました。そこで シリコンの質感に感動し、サンプルを手に入れました。

そこで「今 自分がやっている仕事のどこでシリコンを使えるかな?」と考えたところ、とあるシーンで、売春婦がフリークに出会った時に「殺されまい」と無理やり ムフフなことをしようとして フリークの股間に手をやると何かが変。そして、よく見てみると、フリークのあそこは切り取られなくなっており、袋だけがぶら下がっているのを見て、悲鳴をあげるというのがありました。

私は「これだ!」と思いました。私がシリコンをはじめて使って作った記念すべき第1号作品は キャンタマ袋。造形して型をとり、重さを出すため、パチンコ玉よりちょっと大きめのサイズの鉛のボールを中に入れて、シリコンで成型。固まったら取り出して、それを手に取り、「すげ~!!」と言いながら、みんなにぶらぶら見せていた22歳の嗚呼、青春の日々よ。ぶらぶらのプルプル。そして当時は、色の塗り方もよくわからないまま、いろいろ試してきました。

全く新しい素材なので、色の塗り方も自分で試すしかないのです。おかげで「人に頼らなくても自分でなんとかする」という能力がどんどん鍛えられたのではないかと思います。たとえ、その始まりがキャンタマ袋だとしても...。

今は、当たり前のものが当たり前でない時代。そこを通ってきたのは非常に貴重な経験だと思います。たとえ、始まりがキャンタマ袋だとしても...。(おわり)

次回は、映画『バトルシップ』のエピソードの予定です。

 

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