写真と見紛うCGのロボット 「APEX」のメイキング

テクスチャペインター&ルックデヴアーティスト Alvaro Claver が、フォトリアルなCG作品、ロボット「APEX」のメイキングを紹介します(MARI、Maya、V-Ray、NUKE等使用)


Alvaro Claver
3Dアーティスト


ロボット「APEX」のメイキングを紹介する機会をいただき光栄です。このプロジェクトは、事前に明確な行動計画と献身を必要とする難しいプロセスになることがわかっていました! アーティストが時間をかけ、プロジェクトに専念するためには、自分のすることに情熱を持たなければいけません。私は、この「APEX」の制作を通して、規律を学ぶこと、学習への欲求を満たすことができました。さあ、前置きはこれくらいにして、始めましょう。

ステップ01:コンセプトとリファレンス

すべては、オリジナル(※彫像)の Apex を作ったアーティスト Dan Jones氏 と連絡を取ることから始まりました。Apex をデジタルで再現して、デモリールに使っても良いか尋ねたところ、快く許可をいただけたので、私は、米カリフォルニア州サンディエゴ に向かいました。そして、幸運にも、オリジナルの Apex を写真やビデオに収めることができたのです(大規模な制作プロダクションで働いていても、普通、お目にかかれない贅沢でした)。

MARI でディテールの投影用マスクを作成するため、写真撮影において 正しいレンズを選ぶことが極めて重要です。また、モデリングとルックデヴの資料になる さまざまな部品とマテリアルのリファレンスも収集しましょう。

リファレンスの使用は不可欠です

ステップ02:モデリング

リファレンスを収集したら、モデリングを始めましょう。ここでは至ってシンプルです。常に、理にかなったトポロジを心がけ、ボリュームや形状に目を配ります。

サブディバイドしても、メッシュの形状を保持して、ほとんど変形させません。変形によって適用したテクスチャが引き伸ばされると、戻っての修正が必要となり、テクスチャリングの貴重な時間が失われます。

クイックヒント:グレーの Blinn(ブリン)シェーダを適用して、モデリング中にスペキュラが目立つようにします。こうして作業を進めながら、おかしなポイントを見つけ出します

ロボットの腰部(クローズアップ)

ステップ03:UV

UV の作業中、私は紅茶を飲みながら、お気に入りの音楽を聴いています。大部分は私好みの機械的プロセスですが、たくさんの解決すべき問題もあります。これは時間をかけ、メッシュ上にテクスチャリングの準備を整える重要なステップです。必要な解像度(※スクリーンサイズによって決まります)、メッシュ間の整合性、UV空間の向きなど、多くの要素を考慮しなくてはいけません。私の場合、63個の UDIMタイルにすべてのパーツを配置、それらをマテリアルごとに並べました。マップはすべて 4k です。

クイックヒント:ボルトやナットのような小さな金属部品の解像度を倍にすると、最終レンダリングで、よりリアルに見えます

UDIM を整理する

ステップ04:テクスチャリング

テクスチャリングは、プロセス全体でお気に入りのパートです。私は、映画業界で最も幅広く使用されているテクスチャリングソフトウェア MARI を使用します。それは魔法のように動作し、組織的かつ非破壊的な方法で作業できます。

私のワークフローでは、ディフューズ・スペキュラ・光沢・バンプなどの各マテリアル用に複数のチャンネルを作成。シーン内のオブジェクト(メインのボディパーツなど)には、4つのレイヤーがあります(アルミニウムベース、その上の黒い緑青、さらにクリームと赤の2つのペイントレイヤー)。これを事前に計画することが重要です! リファレンスと同じような階層を実現するため、Photoshop で複数の白黒マスクを作成する必要があります。

クイックヒント:手元に Photoshop がないなら、GIMP でレベルを試し、色域選択でマスクを作成します。GIMP は素晴らしい機能を持ったオープンソースのソフトウェアで、しかも無料です。

MARI でマテリアルをリファレンスに合わせる

ステップ05:ルックデヴ

レンダラーには V-Ray を選択。これは、重くなるという技術的側面がありますが、実現できる品質には十分な価値があります。シェーダにマップを接続するため、シンプルなブレンド V-Rayマテリアルを使用。APEXには、金属・木材・プラスチック・布・ガラスなど、多くのマテリアルがあります。

ライティングでは、古典的なセットアップを使用します。撮影場所に似ている HDRI、特定のポイントを少し強調するエリアライトをいくつか追加。また、サンディエゴで写真撮影したときのように、ロボットの背後に光を反射させる白い背景を作りました。

クイックヒント:金属の BRDF(双方向反射分布関数)に GTR(GGX)を使用してください。これは最も正確なマイクロファセットモデルです。Blinn(ブリン)や Phong(フォン)で比較すると、大きな違いを生み出していることが分かります。

V-Ray でシェーダを設定

ステップ06:レンダリング

背景幕からバックライトがロボットの背面に当たっているので、GI(グローバル イルミネーション)が必要です。そこで、各カメラの最初のフレームでフライスルーパスをキャッシュし、シーケンスの残りの部分にロードすると上手く機能するでしょう! イメージサンプラーは Adaptive で進め、subdivision スレッショルド に注目します。 幸いにも複数のコンピュータを用意できたため、分散レンダリングによって、レンダリング時間をフレームあたり70分から10分に短縮できました。

クイックヒント:最終レンダリングを行う前に、Maya シーンでカメラのプレイブラストを実行して書き出し、最初のラフカットを編集してください。この手順によって、レンダリングした要素が必要かどうか確認できます。

レンダリングは魔法の瞬間です

ステップ07:コンポジット

レンダリングが完了したら、NUKE ですべてのパスを合成しましょう。僅かな色調整、デフォーカス、背景によって、シーンは完璧に仕上がります。Nukeでは適切なレンダリングパスで無限の可能性を引き出せるため、私はいつも楽しく作業しています。今回はマルチマップの OpenEXRファイルをレンダリングしました。Readノードで、すべてのパスを直接あちこちへ動かすことができます。

クイックヒント:レンダリングする前に、アトリビュートエディタで ZDepth パスの距離を必ず設定してください。そうすれば、Nuke で ZDefocus ノード が正しく動作します。

整頓されたノードグラフは読み取りやすい

ステップ08:編集

コンポジット後、Premiere でビデオ編集し、タイミングとリズムに注目します。私はすでに選曲したものから、このテーマにふさわしい曲を使いました。最後にタイトルを追加し、クレジットの簡単なアニメーションを作成します。APEX が生き生きとしているのを見ると、嬉しくなります!

クイックヒント:クリエイティブプロセスの最終パート(作品のプレゼンテーション)は、私にとってプロジェクトの 50%を占めます。作品をより早く発信、投稿したいからといって、物事を急いではいけません。時間をかけてください。

すべてを1つにまとめる

ステップ09:まとめ

自分の限界に挑戦するときに、最高の作品が生まれます。そして、職業的にも個人的にも成長できるのです。すべてのハードワーク、時間、トラブルシューティング、笑い、苦労には、大きな見返りがあります。また、素晴らしい友人や同僚の存在も、コンピュータの前で過ごす時間に大きな影響を与えるでしょう。

私を助け、支援し、信じてくれた皆さん、特に、相談相手の Justin HoltPaul H. Paulino に感謝します。そして、私の作品を紹介する機会を与えてくれた 3dtotal に感謝します!

APEX も読んでくれてありがとうと言っています!

メイキング映像:Alvaro Claver氏のリール

 

★Alvaro Claver - Texture painter & look dev demo reel(1分22秒)

 


翻訳:STUDIO LIZZ (TK)
編集:3dtotal.jp