人型戦闘ロボット「Echoes of War」のメイキング

CGアーティスト Alexandr Novitskiy 氏 が、人型戦闘ロボット「Echoes of War」の制作ワークフローを解説します


Alexandr Novitskiy
CGアーティスト|ウクライナ


はじめに

こんにちは。私は Alexandr Novitskiy、ウクライナのキーウ出身の CGアーティストです。この記事では、SF風の錆びた人型ロボットの制作プロセスを説明します。

01 アイデア

私は古いSF映画や本の大ファンです。アイザック・アシモフレイ・ブラッドベリロバート・シェクリイカート・ヴォネガットストルガツキー兄弟といった作家の本を読んだり、『ターミネーター』『ブレードランナー』などの映画もたくさん観てきました。

今回は、ハードサーフェスモデリングと高度なテクスチャリング技術を組み合わせる練習として、昔ながらのSFロボットを制作してみることにしました。

02 スタイル

このプロジェクトでは、1980-90年代の映画『ターミネーター』『ジャッジ・ドレッド』の古典的で重厚なデザインをベースに、独自のコンセプトを開発することにしました。それに加えて、『デウスエクス』『Dishonored』といったゲームシリーズで見られる、角張ったミニマルなポリゴンスタイルを組み合わせています。

古い機械装置らしく、このロボットは未加工の金属パーツ、シリンダー、ホース、配線などが乱雑に組み合わされており、錆に覆われた外観となっています。これは私好みの無骨なスタイルで、この錆びたロボットは悪役という設定です。

そこで皆さんに質問です:「戦争について何を知っていますか? どんな連想をしますか? 感情は? 死? 恐怖? 他には?」

「私たちの想像の中で、戦争は常に死と結びついています。そして、頭蓋骨は世界中のほとんどの文化において死の象徴となっています。そのため、古典的なSF映画では、人間に似た殺戮マシンやサイボーグの最も認識しやすい要素として、危険と恐怖の感情を増幅するために頭蓋骨が使用されるのです」

「意識を持った機械を作るというアイデアの参考になりそうなリファレンスを見つけました。『ジャッジ・ドレッド』の古くて錆びた ABC、『ハードウェア』の自己修復する M.A.R.K. 13、『ターミネーター』T-600『Dishonored』のコルヴォ・アッターノの粗く溶接されたマスク。これらはすべて、死の象徴としてキャラクターの核となる要素に頭蓋骨を使用しています」

Overwatch(オーバーウォッチ) / Dredd ABC(ジャッジ・ドレッドのABCロボット)
Darksiders(ダークサイダーズ)/ Dishonored(ディスオナード)

プロのヒント:リファレンスを「ムード」「スタイル」「構造」「フォーム」「シェイプのアイデア」といった異なるフォルダに整理してみてください。制作過程が大幅に楽になります。

03 モデリング

今回 作成する古い機械は、ただの錆びた戦車ではありません。古い人型の殺人マシンです。走ることも、捕まえることも、殺すこともできますが、それほど速くはありません。動きの多様性を最大限にするために、ボディは人体の構造に近い形で作られています。その一方で重装備となっており、装甲は銃弾を止め、小規模な爆発にも耐えられるようにデザインされています。

制作では、人間の骨格と筋肉をリファレンスとして使用しました。T-600 T-800 をはじめ、古いSF映画に登場する数多くのロボットを研究し、その構造を理解することで、しなやかな人間の形状と重厚な金属パーツをうまく組み合わせることができました。

プロのヒント:人型ロボットのデザインは人体解剖学に基づいているため、これを理解することで、説得力のあるモデルを作成することができます。

04 頭部(頭蓋骨)

まず 構造について説明しましょう。頭蓋骨はキャラクター表現の中核となる要素です。そのため、デザインと機能性を両立させることを心がけました。頭蓋骨(コンセプトではなく最終モデル)と胸部が最も困難な部分でした。

頭部には多数の穴とソケットがあり、下図で各穴とソケットの役割を確認できます。頭部はメインオブジェクトであり、陽電子頭脳 の格納庫でもあるため、頑丈で十分に保護されているように見せる必要があります。キャラクターにより生命感を与えるため、可動式の顎を採用し、専用の油圧システムをデザインしました。

眼窩(目のソケット)/ 前面 / 背面 / テックハッチ(生体機械接続ポート)

耳のソケット/ 前面 / 背面 / 首関節のソケット

咀嚼ソケット (噛むためのソケット)/ 前面 / 背面 / 脊椎ソケット / 首のソケット / 充電ソケット

プロのヒント:可動式の顎などの要素により、キャラクターがより魅力的になります。戦場では役に立ちませんが、ロボットを人間らしくするのは良いアイデアです。

05 胸部

この部分は、頭部、腕、骨盤を1つの構造に結合します。重厚で無骨な鋳造金属の塊であり、保護、動作、デザインという3つの主な役割があります。ロボットに必要なすべての機能を搭載しながら、デザインに荒々しさを表現することを目指しました。

説得力のある外観を作るには、たとえそれが単なるデザイン要素であっても、各ディテールの意味を理解することが重要です。例えばハッチを作る際は、そのハッチが何を隠すためのものなのかを明確にする必要があります。

前面: 首のヒンジソケット / 首のワイヤーソケット / 腕のボールヒンジ / 腕のヒンジソケット

背面: 肩のシリンダー / 肩甲骨ソケット

プロのヒント:このようなパーツを作成する前に、どのように動くかを考えてください。まず簡単なブロックアウトを作成し、それをアニメートしてみましょう。

06 骨盤

骨盤は、鋼鉄の悪役にとって3番目に重要な部分です。下図を見ると、脚がボールヒンジによって骨盤にどのように接続されているかがわかります。背面には、すぐにメンテナンスができるよう、また骨盤の鋳造部品内部に簡単にアクセスできるよう、いくつかのハッチを設けました。

頭部と胴体の主要な形状に合わせて、粗野で荒々しいラインを持つデザインにしました。胸部と比べて重厚感を抑え、より鋭角的でシャープな仕上がりにしています。

前面: シリンダーソケット / 脊椎ソケット / 脚の球形関節 (2箇所)

背面

骨盤

プロのヒント:ディテールをより面白くするために、関節のタイプを使い分けるとよいでしょう。例えば、このロボットは関節部分にサイレントブロックがあり、さまざまなタイプの関節を採用しています。

07 腕と脚

装甲を着けていない手は、下の図のように骨格に見えます。装甲を装着することで、より頑丈で重厚な印象を与えることができます。装甲は単なるデザイン要素に見えてはいけません。本来の機能は、戦闘中に手を損傷から保護することです。

脚部のデザインは、体の他の部分と統一感を保ちながら、生々しく、鋭角的で危険な印象を与えるようにデザインされています。ここで採用された油圧システムは、映画『ターミネーター』に登場する T-600 のものによく似ています。

プロのヒント:足部をモデリングする場合、ロボットがどのように歩行するかを考えてみてください。かかとにダンパー(ショックアブソーバー)を追加し、ロボットの重量をどのように支えるかを考えましょう。

08 マテリアル

ここで使用されているマテリアルは「この機械がどのような環境で、どのように使用されてきたか」という歴史を示しています。私は、テクスチャが語るストーリーが好きです。それはまさに、そのオブジェクトが歩んできた物語なのです。

Mari で BRDFシェーダーを使用し、PBRパイプライン(Spec/Gloss)で作業を行います。マスクスタックを作成し、各マテリアルのすべてのチャンネルで共有することで、ワークフローを柔軟かつ快適にしました。このモデルには合計6つのマテリアル(鋼鉄、コーティング、塗料、錆、汚れ、油)が使用されています。

主要部分を強調するために、アルベドでグラデーションを使用しました。脚部から頭部にかけて黒のフェードアウト効果を作り、各部分の上端にはカラースポット付きのオレンジのグラデーションを適用しています。

カラースポット / グラデーション

鋼鉄 / 塗料 / 汚れ / コーティング / 錆び / 油

消えかけたマーク / 傷

アルベド

アルベド / グロス / スペキュラ

プロのヒント:すべての傷は異なるはずです。ロボットは複雑なメカニズムなので、パーツごとに消耗具合が異なります。一部の場所はより傷つき、一部はそうでもありません。傷の種類にも変化をつけることができます。

09 メッシュと UV

優れた最終結果を得るためには、メッシュが極めて重要です。私は「正確なトポロジー」「クリーンなメッシュ」が好きです。モデルが正確で、自分自身で理解できるものであれば、UV作業がずっと簡単になります。すべてのUVに同じテクセル密度を作成し、適切にパッキング(UVアイランドを限られたテクスチャ空間に効率的に配置)することを忘れないでください。

プロのヒント:美しいメッシュは芸術作品になり得ます。追加のスタイライズされたレンダリングに活用することができます。

10 レンダリング

すべてのレンダリングは Marmoset Toolbag で行いました。ここでのライティングは、キャラクター表現の鍵となります。私は以下のライティングスキームを選択しました:

上部:スポットライト(メインライト)
背面:2つのディレクショナルライト
前面:雰囲気作りのためのオムニライト

レンダリングごとに、ライトを個別に移動させて最適な配置を見つけます。基本的には HDRI を使用しないことをお勧めします。ただし私の場合、光沢のある金属を使ったスタイライズされたレンダリングでは、反射を強化するために HDRI を使用することがあります。

この記事がお役に立てれば幸いです。皆さんの成功を祈っています!

プロのヒント:すべてのライトを同じ色と温度にしないでください。少し変化をつけると、最終結果がより生き生きしたものになります。前面には暖色系、背面には寒色系を使用しましょう。

 


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編集:3dtotal.jp