中東風のロボット「Sherbetcibot」のコンセプトデザイン
コンセプトアーティスト Emrah Elmasli 氏 が、中東風のロボット「Sherbetcibot」のデザイン過程を紹介します
はじめに
このメイキングでは、ロボットのキャラクターの描き方を取り上げ、テレビゲームのキャラクターデザインにも少し触れます。これまでにデザインしたキャラクターを作業方法のサンプルとして取り上げながら、コンセプトデザインについてお話したいと考えています。このキャラクターは、私が長い間作り続けている東洋風のSF世界に登場するもので、数あるロボットの1つ「Sherbetcibot (シャーベットサイボット)」です。
ストーリーは単純で、オスマン帝国の時代に時間の重複が発生したという設定です。つまりパラレルワールド(平行世界)にある技術の進歩したロボット文明が、18世紀のオスマン帝国に「重ね合わせ」されてしまうのです。大災害が発生し、数百万もの命が失われます。やがて時間が経ち、すべての傷が癒えたころ、2つの文明が調和した生活を営み始めます。しかし、これほどまでに違う2つの世界が融合したら、生まれ出るのはどのような文明でしょうか?
私が作ってきた物語のコンセプトは、すべてこの考えがベースになっています。ここでデザインしたロボットは、オスマン文化に影響されたロボット文化の一部です。主にキャラクターの過去と未来について考える必要があったので、キャラクターをデザインするときには広い視野で検討するとうまくいきました。また、そのキャラクターがいた時代の歴史的事実を必ず念頭に置かなければなりませんでした。コンセプトは複雑であると同時に、とても楽しい作業です。
どんなデザインの要素を使うべきか? 色や形は? これらは、はっきりとさせておくべき重要なポイントです。こうした要素が見る人にアイデアを伝えるに足るものでなければ、私のコンセプトは成功とは言えないでしょう。
01 情報収集
まず、オスマンの「Sherbetcibot」というキャラクターを作るために情報を集めなければなりませんでした。着ていた服や使っていた道具は、私にとって、非常に大切なデザイン要素です。このキャラクター用に、写真や情報をさまざまな本やインターネットから集めました。オスマン朝時代の装束を表す装飾や彫刻は、実際にこの目で確かめ、自分のデザインでもぜひ使いたいと思っていました。さらにセルジューク朝やオスマン朝のテクスチャも使いたかったので、セルジューク朝(11世紀から13世紀にかけて小アジアを支配したトルコの王朝の1つ)のカーペットのデザインもいくつか探し出しました。どのテクスチャもタイリングできるようなタイプであることが大切でした。タイリングできれば、キャラクターにテクスチャを被せる作業がぐっと簡単になるからです。
02 スケッチ
キャラクターに関する情報を十分蓄積してそれを消化してはじめて、スケッチに着手することができました。スケッチを描く前には、いくつかのアイデアと大まかな形を頭に浮かべておかなければなりません。最初に小さなサムネイルスケッチを描き、まずキャラクターのシルエットを決めます。紙と鉛筆以外にも、デジタルでの作画も行いました。最も重要なのはアイデアであり、作画を始める前にアイデアを練る作業を終わらせておくことが肝心でした。自分の心を紙の上にぶつける必要があるのです。大まかな形ができたら、それをロボットに見えるような姿にしていきました。キャラクターを描くときには、パース線を使うことを忘れてはいけません。「奇妙」な具合になってしまうことがあります。
準備段階のスケッチが完成したら、Photoshop と Painter を使ったデジタル処理に入ります。私は、この2つのソフトを切り替えながら仕事を進めるのが好きです。スケッチをデジタル処理する最大のメリットは、スピードにあります。複製して編集するだけで、数多くの色や形のバリエーションを簡単に作り出すことができます。
このあともラフスケッチを細かく改良していきました。スケッチは、最終的なデザインとできるだけ近い形にしなければなりません(図01)。このスケッチの中から1枚を選んで発展させていくわけです。コンセプトデザイナーとして、私はこれらのスケッチの中に、中東風のロボットデザインに変えられるような最高のデザインを見つけ出したいと考えていました。スケッチは最終的なキャラクターのおおよその形にすぎないので、さらに手を加えて洗練させる必要があります。
図01
そうしてスケッチの決定稿を選びました。一番好みだったのは 1つ目のスケッチです。私が求めていた曲線と安定したラインが含まれていたからです。また、トルコの帽子「フェズ」を使いたかったので、このデザインが最も理にかなっていました。
次に必要な手順は、選んだスケッチを切り抜いて、新しいドキュメントにペーストすることでした。このスケッチの解像度はとても低かったので、300dpi に上げなければなりませんでした。その結果、ファイルのサイズは 2,000 ピクセル以上になっています。さらにスケッチの不透明度を25%に下げました(図02)。これをリファレンスとして使い、その上に再びキャラクターを描いていきます。
図02
03 線を描く
ここからは、標準の細いブラシで線を描いていきました。線画の段階ではディテールをすべて描き込む必要はありません。ディテールは、形を決める段階で処理できるからです。線画を完成させてから、レイヤーのプロパティを乗算に設定し、その下に新しいレイヤーを開きました。そこから、キャラクターを形作り始めます。私は形を決めるときにはモノクロで描くのが好みですが、最初から色を使って描いてもかまいません。これは好みの問題です。キャラクターのハードなエッジやソフトなエッジといった全体の形を決めていきます(図03)。
図03
03 テクスチャ&マテリアル
また、テクスチャやマテリアルの情報も加え始めました。この段階はコンセプトデザインではとても重要です。こうしたマテリアルやテクスチャの情報は、3Dモデリングやテクスチャリングの作業でとても役に立つからです。3D モデラーやテクスチャ担当のアーティストは、自分たちの作業のリファレンスとしてこうしたコンセプトアートを使います。そのため、コンセプトアートではすべてのディテールをとても慎重に決める必要があります。この段階が終わったら、線を上書きしてキャラクターの形をさらに整えていきます。
すべきことはただ1つ。新しいレイヤーを開き、ソフトなものからハードなエッジまで、さまざまな種類の揃った自作のブラシセットで直接描くことです。また、線画にテクスチャを適用するために写真を使うこともできますが、その場合はスタンプツールを使うと便利です。写真を使う場合は、単純に新しいレイヤーを開いてレイヤーのプロパティをオーバーレイに変更します。
次に、スタンプツールを使って写真の中で使いたい部分を ALT キーを押したままにして選択し、それを線画に適用していきます。それだけです。オーバーレイのレイヤーの不透明度を変更して、テクスチャを少し弱めることもできます。彩色を始める前に、背中の容器や肩のストラップといった道具をロボットに加えました(図04)。彩色の作業をはじめるにあたって、新しいレイヤーを開き、ブレンドモードをカラーに変更しました。このようにして、キャラクターに基本色を加えることができました。この例の場合、イエロー系とレッド系が基本色になっています。
図04
04 ディテールの処理
キャラクターのイラストを仕上げる最後の段階は、ディテールの処理とさらなるテクスチャリングです。新しいレイヤーを作成し、キャラクターにディテールを加え、写真テクスチャを弱めることで、さらに絵画風の仕上がりを目指しました。背中の容器にディテールを加えてもっとリアルな感じを出すことと、クロムめっき風の仕上がりを目指しました。最後の段階ではテクスチャをロボットに適用し、チョッキを着ているような印象にしようとしました。スタンプツールを活用し、ロボットの下に影を描いて作品を完成させました(図05)。
図05
このキャラクターを 3Dモデリングする場合は、キャラクター設定用のモデルシートも必要とされます。これは正射投影図とも呼ばれます(図06)。このような設定図があると、モデラーは形状や構造を楽に理解できます。
図06
おわりに
私がキャラクターをデザインするときは、通常はこのような具合に作業が進みます。テレビゲーム、アニメーション、劇場用映画でも作業方法は同じです。しかし、最も大切なのはアイデアです。そのアイデアを論理的かつ使える形にまとめあげるのがデザイナーの責務なのです。
コンセプトイメージ
※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。
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