サードパーソン・シューティングゲーム『Gears 5』のメインタイトルシーケンス
VFXアーティスト Danka Chiang 氏 が、サードパーソン・シューティングゲーム『Gears 5』のメインタイトルシーケンスの制作ワークフロー&画像を公開します

はじめに
私は、ロサンゼルスを拠点とする、ライティングとルックデベロップメントを専門とする シニア3Dアーティスト/VFXアーティストです。2009年に Ringling College of Art and Design を卒業後、CM制作の3Dジェネラリストとしてキャリアをスタートさせました。その後も Psyop、Prologue、Elastic、Framestore、Buck など 多くのCM制作会社、そして、ロンドンとロサンゼルスの DNEG、映画・TV制作会社の CoSA VFX などに勤務してきました。私の仕事は Apple、Google、Lego、Facebook などのCMで見ることができます。最近携わったTVシリーズのプロジェクトは『スタートレック:ピカード』です。
Elastic のチームの一員として、カリフォルニア州サンタモニカで『Gears 5』のオープニングタイトルシーケンスの制作に携わることができたことを、とても光栄に思っています。この映像作品は「主人公であるケイトの悪夢についての物語」です。彼女の体内で変異するウイルスを追いながら、それが彼女の現実にどのような影響を与えるのかを見ていきます。そして彼女が悪夢から目覚めた瞬間、ゲームが始まるのです。
01 コンセプト
クリエイティブディレクター Noah Harris は、19世紀のイギリスの画家 ジョン・マーティン のポンペイの絵画(ポンペイとエルコラーノの壊滅)から着想を得て、映像美と豪華な恐怖が融合した世界を創造したいと考えていました。ミクロの視点から始まり、ウイルス感染とともに人体の一部が壮大に描かれていきます。マグマのような細胞からアンバー色の結晶が成長していく致命的なウイルスには美しさがあります。夢の終盤では、まるで ジョン・マーティン の絵画のように、沸騰し蒸気を上げる液体が彼女の体内を流れていきます。これは スタンリー・キューブリック の『シャイニング』に登場する有名な血の海のシーンに似た雰囲気があります。
「ポンペイとエルコラーノの壊滅」(※画像はパブリックドメイン)
02 ルックの実現
3Dアーティストの一人として、デザインフレームに基づいたドラマチックなライティングとルック制作を担当しました。CGライティングチームには 7人ほどメンバーがいて「プレイヤーの興奮を刺激するルックをどのように実現すべきか」について、多くの研究と開発が行われました。方向性は、美しさと恐怖を同じ世界に共存させることでした。1週間かけてマグマのような細胞を作り、7〜8種類の異なる溶岩のルックを試作。ベースカラーには Quixel Megascans の高解像度画像を使用し、その後 Photoshop に取り込んで細胞からマグマが噴出する熱の要素を作成しました。最も難しかった部分は、Houdini でシミュレートした溶岩の流れが自然に出るようにすることでした。
組織のルックについては、Substance 3D Painter を使って血なまぐさい内臓のテクスチャを作成しました。ライティングは、シンプルにすることを心がけています。常にモデルの微妙なディテールを引き立てながらも、デザインフレームの意図を忠実に再現することを目指しています。とはいえ、美しいリムライトや3/4ライトは常に素晴らしいアクセントを与えてくれます。この作品では、温かみのある光の設定で、体内に実際にありそうなライティングを観客に感じてもらいたいと考えました。
03 レンダリング
溶岩の流れ、結晶、肉、内臓、触手、器官など、多くの要素を扱いました。Elastic では社内プロジェクトに V-Ray を使用しており、各要素に複数のレンダーパスを出力しました。侵略するウイルスの変化は、ライティングチームが提供した V-Ray User Color アトリビュート(Houdini からのアニメーションマスク)を使い、コンポジットで実現されました。コンポジットチームは Nuke で最終ルックに磨きをかけ、この危険な環境全体に生命を吹き込みました。
編集部からのヒント:人型キャラクター制作のリファレンスには『アーティストのための人体解剖学ビジュアルリファレンス』を、制作テクニックを習得するには、書籍『3Dアーティストのための人体解剖学』 やおすすめします。