戦闘機の大空中戦「Furball」のメイキング

英国の 3Dアーティスト Wiek Luijken 氏 が、戦闘機の大空中戦「Furball」のメイキングを紹介します


Wiek Luijken
3Dアーティスト|英国

はじめに

昔からの航空絵画のアーティストがそうであるように、私もふと思いついたアイデアをきっかけにして作品作りを始めます。とはいえ、詳細なモデルが完成するころには、2か月あるいはそれ以上の時間が過ぎています。

ほとんどのアイデアは、薄められるか、膨大なアイデアの山の上に積み重ねられるかのどちらかです。この「Furball」(大空中戦)の場合、スピットファイアメッサーシュミット のモデリングは、他のモデル制作も間に挟みながら、合計 2年間ほどかかりました(図01-08)。

以前からやりたいとおもっていたことの1つが、大がかりな空中戦のシーンの作成でした。バトル・オブ・ブリテン(ブリテンの戦い)は、そうした作品の舞台としてはうってつけの歴史的瞬間です。何より、私は スピットファイア が大好きなのです。優雅なラインを持つ美しいデザインで、どのアングルから見ても最高です。

スピットファイア のモデリングを始めた時点では、いくつかの目標がありました。まず、正確なモデルにして、設計者である R・J・ミッチェル のデザインを忠実に表現しようと思いました。また、初期型スピットファイア(Mk. I)から 戦争末期のモデル(Mk. IX)までさまざまなタイプを作りたいと考えていたので、レンダリングには柔軟性を持たせてあります。さらにイメージ作成では、もう少し作業が必要でした。ブリテンの戦いでの メッサーシュミット との大空中戦、砂漠の滑走路からの離陸、マルタ上空での空中戦、ドイツ軍爆撃機とハリケーンが交戦している上空で護衛機 Me109 を攻撃するスピットファイア、V-1号の撃墜、B-17爆撃機の護衛、ディェップ上空での FW190 との戦闘、低空での船舶攻撃、航空母艦への着艦、といった具合で、きりがありません。そのため、優先度の高い順に、まず十分よい出来のモデルを作成し、空中戦のレンダリングしなければなりませんでした。

図01

図02

図03

図04

図05

図06

図07

図08

01 モデリング

スピットファイアのモデルは、Modo ですべてを作成しました。ディテールには、車輪を固定するピン、キャノピーを閉じるロープの結び目、リベット各種、独立したエンジンプレート、マシンガンの銃口などが含まれます(図09)。

図09

そのほとんどがサブディビジョンのままです。私はメッシュをフリーズするのが嫌いですし、こうした方が UV処理の手間が減るからです。最終的なモデルは 約10万ポリゴンほどで、これとは別にコックピットのダイヤルなどで 4万ポリゴンあります。レンダリングの時点では、これらの合計が 100万ポリゴン以上に達することもめずらしくありません。

リファレンスとして使ったのは、製造用の図面とそれを元にした詳細なスケッチ、それに大量の写真です。よくあることですが、図面は必ずしもすべての側面を網羅しているわけではないので、大部分は写真に似せて形状を作らなければなりません。毎度のことですが、最も難しい課題は全体の形状を正確にすることで、それができてしまえば後はもう簡単なことです。ディテールを加えればよいだけです。メッシュをフリーズせずにサブディビジョンを使う最大のメリットは、変更が生じた場合にも形状のコントロールがしやすい点にあります。ホイールハブのような複雑で有機的な形状は作っていて楽しい部分です。図10 は、レンダリングエンジンでサブディビジョンを処理したあとのモデルのワイヤフレームです。

図10

02 UVマッピングとテクスチャリング

UV については、私のいつものアプローチとは少し違う手順で作業をしました。平面マップや複数の UVセットで細部を処理する代わりに、たった1枚のマップをすべてのバリエーションを処理しようと考えたのです。こうすることで、新しいレンダリング用に新しいカラーやマーキングのセットを作るのがずっと楽になり、同じモデルを異なるレンダリングソフトウェアで簡単に使うことができます。

そのため、リベットを含むありとあらゆるオブジェクトについて、ストレッチせずに展開した UVマップを作成することが目標となりました。さらに、テクスチャリングをさらに高い詳細レベルで処理できるようにするため、各パーツごとに専用のマップが必要でした。このため、まずパーツごとに専用の展開マップを作り、そのあとですべてのマップを1枚の巨大な UVマップを新たに組み合わせることになりました。このマップには、スピットファイアの他のバージョンで追加する新パーツ用の空きスペースも含まれています(図11)。

図11

モデルを完成させ、UVをすべて展開したあとはテクスチャリングに取りかかりました。飛行機のテクスチャリングで 3Dペインティングを使ったのはこれが初めてでした。テクスチャペインティングはすべて Modo で行い、最後の微調整は Photoshop で加えています。個別のパネルを扱うことから考えると、この処理はとてもうまくいきました(図12)。

図12

パネルを一度に1枚だけ取り出すことができるからです。最初にすべきことは、スピットファイアで標準的な機体全体の迷彩パターンを描くことで、そのあとで泥や汚れのマップとスクラッチのマップを作成しました。すべて各パネルごとに3Dで処理してから、1枚の大きなUVセットにベイクして Photoshop で処理しました(図11)。

各種のペイントしマップをスペキュラ、反射、ディフューズ、バンプ、カラーといったマップにさまざまな形で使い、Photoshop の古きよきブラシと組み合わせ、最終的なテクスチャセットが完成しました。このテクスチャセットは個々の機体に合わせて簡単に調整可能で、モデル全体に均等なディテールが施されます(図13)。

図13

03 イメージ

モデル、テクスチャ、シェーディングの作業が終わったら、大がかりなレンダリングに取りかかります。視線が集中する先は、苦境にある僚機から離れた メッサーシュミット 2機を追跡している、単独の スピットファイア です。作品全体に戦闘を描き、すべての機体が過酷な状態にあることを示す必要があります。まず、最も重要な 4機(主役である手前の スピットファイア、2機の Me109、奥のスピットファイア)を設定しました。望むようなアングルが定まったら、今度はそれに合う環境を見つける作業に入ります。画面上でさまざまな動きが進行している作品の場合、見る者の目をそれほど引きつけず、それでいて史実に合った面白い背景を選ぶと役立ちます。飛行機の中から自分で撮影したイギリス上空の写真がかなりの枚数あったので、その中から分厚い雲と青い空という、よくあるイギリスの空を選びました(図14)。

図14

この上にたくさんの戦闘を描くにしてもこのままではあまりに退屈なので、構図に合わせて背景を回転させ、格安チケットの空の旅ではなく、戦闘機乗りと一緒に飛んでいるような気分を出そうとしました。さらに、3Dで主役の機体の周りに空中戦を加えました。ここからは、長いポストプロセッシングの作業が始まります。マーキングは歴史の専門家に相談して書籍と比較対照しながら変更し、飛行機雲をペイントし、マシンガンの薬莢も描きました。この作品で最も判断が難しかったのは、戦闘のダメージを描くべきかどうかという問題でした。最初は遠くの スピットファイア が攻撃を受け、煙をたなびかせているという場面にするつもりでした。そのうち気が変わり、メインの Me109 を炎上させてみたのですが、そうすると最前面の スピットファイア の輪郭が煙によって隠れてしまい(図15)、視線はすぐに炎の方に引き寄せられてしまいます。結局、見る者の視線が逸れないように、煙は全く描かないことにしました。

図15

おわりに

この作品の後に、スピットファイアを描いた作品をさらにいくつか作りましたが、やはりこの作品の出来は際立っています。スピットファイアをうまく描けたとか、制作に手間暇がかかったといった面よりも、むしろこの作品に描かれた戦闘が一番の理由だと思います。ここに描かれているのは混沌であり、避けがたい死の危険です。こうした戦闘は、イングランド上空で戦いを繰り広げた戦闘機乗りに多大なる恐怖、ストレス、悲しみをもたらしたに違いありません。彼らは多くの人間から尊敬と感謝の念を集め、現代人(私を含む)の想像の中で今も生き続けているのです。

 

完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。

 


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編集:3dtotal.jp