「勇気」というテーマで:『Courage』のメイキング

07 明度

すぐに色を塗りを始める人もいますが、明度を簡単かつ正確に表現するため、私は必ずグレースケールから始めます。白いカンバスに黒で「描きこまれた」絵に色を塗るだけでは、きれいな色の表現になりません。この段階では、描き過ぎないように気をつけます。絵の小さなバージョンをもう1台のスクリーンに表示して、形状が正確に見えることを確認します(手描きの場合は 1歩後ろに下がって、離れたところから見ると良いでしょう)。この時点の最重要課題は、正確な形状と明度を表現することです。

図07:グレースケールでペイントを開始

08 中間調から始める

明度の設定では、必ず中間調から構築していき、光の中にあるものと影の中にあるものを分離します。真っ白や真っ黒から始めることはありません。

白が 10、黒が 0 としましょう。まず、明るい部分を 7(図08 のオレンジの部分)、暗い部分を 3(青と赤の部分)にします。次に、5~10 を使って明るい部分の内部を描画し、1~5 を使って暗い部分の内部を描画します。暗い部分で 5 を超える明度、明るい部分で 5 より低い明度は使用しません。これは、Sijum Forums でデジタルペインターの Craig Mullins から学びました。

図08:明度を理解して、一貫性を保ちます

09 パレットを選ぶ

色の選択は、昔からペインティングで最も苦手な手順の1つです。デジタルペインティングでは、あらゆる色を選択できるので、完全に迷ってしまうことがあります。お勧めの方法は、カラーホイール(色相環)の上に三角形を描いて、その中にある色相のみ使用することです。こうすると、類似する主要な 2色と、1つの対比色ができます。まず、この 3色を使ってください。後で色相はいつでも追加できるので、ベースカラーのスキームをシンプルに保つことが、良いバランスづくりの秘訣です。

図09:パレットを選択します

10 ベースカラー

先に進む前に、グラデーションマップやカラーレイヤーで、パレットに基づいた基本的な色相を適用します。このステップでは明度を正確にして、透明で落ち着いたトーンを保ちましょう。上に淡い色を塗るようにしてグレーを取り除き、上にペインティングを重ねていけるようにします。

図10:この時点では下塗りしているだけなので、あまり没頭し過ぎないようにします

11 色と構図でストーリーを形作る

先ほどのパレットを用いて、絵の上をペイントしていきましょう。大事なのは、どの色をどこへ塗るか決めることで、ここからストーリーをさらに考慮していく必要があります。私はバイキングから、海・雪・山などを連想するので、主人公と村には青系を、モンスターにはその対比色を使用すると理想的です。これを行うには青を影の色に、オレンジを太陽光の色にします。

図11:色の計画を練って、ストーリーを伝えます

12 ストーリーを膨らませる

モンスターは村を攻撃しているので、この場所が危機的状況にあることを示さなければいけません。これを行うには、モンスターが太陽光と炎につつまれた村の色を「引き継ぐ」一方、影の領域をはっきりした青にとどめ、村がまだ辛うじて「陥落」していないことを示します。

西洋社会では左から右へ読み書きを行うので、左側を「故郷」と考えます。このバイキングは故郷に帰る途中で、まだ到着していません。そこで、モンスターを構図の左側に、バイキングを右側に配置すると、帰還が阻まれている感覚が強まります。

図12:描画を開始します

13 背景はあいまいに保つ

バイキング対モンスターの切迫した戦いにすべての焦点を当てたいので、後景はあまり目立たせず、むしろ、ストーリーを強調するさりげない舞台として使います。最も顕著なノルウェーの建築様式の1つに「Dragestil:ドラゴンスタイル」があり、これはノルウェーの至る所で見られます。シーンの建物にこの特徴を誇張して、さらに分かりやすくすることに決めました。あまり人目を引き過ぎないよう、印象派のようなラフなスタイルを用います。

図13:背景をラフなスタイルにすると、焦点からあまり注意がそれません

14 エフェクトとストーリー要素を追加する

ひたすら描画だけを行う段階まできたら、私はストーリーを伝えるのに役立つ要素を探し始めます。このシーンでは、さらに混沌とさせるために煙柱や炎を追加。また、左奥の後景には、戦闘に向かってくる小さな人々がいます。

バイキングのヒーローには毛皮のマントを着せて、旅から帰還していることを示唆するとともに、角のついた兜も与えます。バイキングは実際にこういったものを着用しませんでしたが、今では最も分かりやすいバイキング風の衣装になっているので、ファンタジーの世界でも利用する価値があるでしょう。これにより、バイキングはより屈強に見え、「勇気」というテーマが強調されます。

図14:ディテールはストーリーを伝えるのに役立ちます

15 イラストを仕上げる

自分のストロークが絵の全体的なルックに影響を与えていないと感じたら、スタイラスを置き、翌日までイラストを寝かせます。新鮮な目ほど間違いに気づきやすいものはありません。ここでシーンを描き過ぎていないか目を通します。

作品を仕上げるときは、すべての形状が意図したとおりに解釈され、ストーリーテリングの要素が際立っていることを確認します。そのために、いくつかの要素が犠牲になるかもしれませんが、必ず見映え良くなります。通常、この段階で何人かの信頼できるアート仲間に作品を見せ、土壇場での絶妙な批判がなければ、それで絵を完成とします。バイキング戦士の上手い配置とポーズによって、戦闘に直面したときの勇気が伝わり、色・構図・ディテールなどがシーンのナラティブを高めています。

 

図15:完成イメージ

※本チュートリアルは、書籍『続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 -感情、ムード、ストーリーテリング-』からの抜粋です


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翻訳:STUDIO LIZZ
編集:3dtotal.jp