「怒り」をテーマに:『竜の巣の侵入者』のメイキング

07 構図を見直す

同じ絵を長時間にわたって見ていると、素晴らしい芸術的センスがあったとしても、急激に衰えていきます。これを解決するため、時々カンバスを反転させてみましょう。

こうすると新しいものが見えてきて、基本的な間違いに気づくことができます。もし構図のバランスが悪ければ、反転したときに不自然に見えるはずです。進行中の作品に対する新たな視点を得るには、休憩をとってから絵に戻ることをお勧めします。

図08:イラストに没頭してしまいがちなので、立ち止まって見直しましょう

08 必要な変更を行う

反転した絵を新たな視点から見ると、(反転後の)右側がマザードラゴンの頭から注意がそれているように感じたので、暗くしてコントラストを下げてみました。背景にいるファーザードラゴンに少し注目を集めるとともに、光がマザードラゴンの翼を通過するように、(反転後の)左側を明るくします。これによって「サブサーフェス スキャタリング」の効果が生まれます。これは、光が半透明の媒体と相互作用したときに起こります。たとえば、濁った水に光が当たると強い緑や黄色を帯びます。また、皮膚は下層の血管によって暖色に見えています。このイメージでは、光がドラゴンの翼の血管を通過して、彩度の高い赤になります。

図09:大きな変更を加えるときは気を遣います

09 描画を始める

しっかりした明度のスキームを確立し、パーツに一体感が出てきたら、ディテールを考慮しながら粗い領域を描いていきましょう。私のスタイルでは、ラフで表現豊かなブラシストロークを好みます。対象物を連想させるようなストロークを描くようにしています。岩を描くにはラフで塊状のストロークを使います。一方で、翼や筋肉を表すには大きくて勢いのあるストロークを使い、より有機的な感じを出しています。

ブラシストロークは非常に表現豊かです。あらゆるアーティストは、ストロークによるマークマーキングに関して独自のビジョンを見つけなければいけません。目標は、できるだけ正確にすべてのディテールを捉えることではありません。私はペインティングを「ストロークで対象物を表すこと」だと考えています。これを行うため、対象物の本質を考慮し、それを捉えようと努力します。

図10:ドラゴンの翼と筋肉、そして、岩に加えたブラシストロークのディテール

10 補助的なフォームを分離する

たくさんパーツがあるため、それらを1度に扱うのが難しいこともあるでしょう。そこで、ラフでシンプルなフォームから始め、それらをさらに小さい補助的なフォームに分割します。イラスト全体を評価するときに、ラフなフォームはプレースホルダの役割を果たします。強いビジョンを確立したら、フォームをさらに定義して磨き上げます。図11を見ると、大きなフォームを小さな二次フォームに分割していく様子が分かります。

図11:必ず、大きなフォームから小さなフォームへと順番に作業します

11 他の手段を検討する

プロセスを通じて、絵の中で満足のいかない場所があれば、より優れた解決法が求められている兆候です。ここでは、尻尾が大き過ぎて、不自然な配置に見えたので小さくします。多くの時間を費やしたパーツをペイントし直すのは残念ですが、気になっている問題を解決すると全体の勢いが改善されます。乱雑さを減らすため、イメージ左側に空間を作ります(後でこの変更は行わないことにしました)。

図12:作品が上手くいっている場合でも、常にその上を目指しましょう

12 ストーリーの要素を仕上げる

卵とキャラクター(卵泥棒)は中心的な焦点ではないので、プロセスの最後の方で気楽に追加できます。卵のペイントは比較的簡単で、卵泥棒も小さいので、しっかりとしたライティングスキームを確立していれば、問題なく描けるでしょう。この時点でピンクの背景が、私の求める荒々しい雰囲気を醸し出していないと判断しました。それよりも、鋭くとがった岩だらけの霧がかった渓谷の方が、求めている危険で近寄りがたい雰囲気を放ち、この絵に必要な怒りの感覚を伝えてくれそうです。

図13:卵を加え、手前のキャラクターを描き始めます

13 最終ディテールと大気

描き込み過ぎたイラストは精彩や個性を欠いているように見えることがあります。このため、毛や鱗のテクスチャ、岩のひび割れなどの最終ディテールを選択的に加え、大部分がラフであるにもかかわらず、細かく描きこまれたイメージのように見せていきます。

大気の追加は、いつも完成直前の最終ステップです。こうして作品全体をまとめ、空間に奥行きを出します。霧や埃を加えると要素を簡単に遠方に下げることができ、パーティクル(粒子)を加えると風を表現できます。ここで、すべての要素をまとまりのある1つのシーンに結び付けます。

図14:霧を加えて、イメージの要素を後ろに押し下げ、大気を作り出します

14 絵の完成

完成です。ディテールが多過ぎるとどうでもよい部分に不要な注意を引いてしまうので、描画するときは必ずイメージの構成を頭に入れておきましょう。

 

図15:最終イメージ

※本チュートリアルは、書籍『続 デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則 -感情、ムード、ストーリーテリング-』からの抜粋です


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翻訳:STUDIO LIZZ
編集:3dtotal.jp