最高のペイントをするための 5つのウォームアップ

書籍『世界のモンスター・幻獣を描く』にも その作品が掲載されている 米国のファインアーティスト&イラストレーター Jordan Walker氏 が、最高のペイントをするための 5つのウォームアップ、描くための準備の秘訣を紹介します


Jordan K Walker
ファインアーティスト&イラストレーター|アメリカ


はじめに

複雑なペイントは大掛かりな仕事であり、どこから手を付けたらよいか分からないことがよくあります。大事なペイントの前に、脳を活性化させ、クリエイティブなモードに入るため、練習を兼ねたウォームアップに少し時間を費やしましょう。このチュートリアルでは、ペイントに取り組む際におこなう アーティスティックな練習方法をいくつか紹介。そこから見事なペイント作品を完成させるまでの手順を解説します。

先史時代の森。ウォームアップとして行なった練習作品

01. 色調のバリエーション

アイデアを練るには、鉛筆でスケッチするのが良い方法でしょう。下の図のページの左上には、今回のペイントの着想となったオリジナルの絵があります。ただし、これだけでは、本格的なシーンを描くのに十分な情報とは言えません。大きなペイントやドローイングに集中的に取り組む前に、シーンを 3つのはっきりした明度(明るい/中間調/暗い)に単純化すると、構図の主要なフォームをよく理解できることでしょう。

色調のスケッチには、グラファイト、ペン、その他のモノクロのメディウム(媒体)を使っています。私はよく スケッチブックを使用しますが、どんな紙でもかまいません

図を見ると、ページの左下から描き始めたのが分かるでしょう。右側のスケッチでは、コンセプトがよりはっきりしていて、前景に暗い木の形状を、中景の森の地面に明るい色の恐竜を、そして、後景に中間調のグレーの植物を配置しています。このように練習すると、シーンが明確な領域に分かれ、焦点領域の位置を検討することができます。1番下のスケッチでシーンの主要な要素を肉付けしていますが、この構図では、暗めの中間調の木々を背景にした 明るい色の恐竜が焦点となります。

色調の練習を数時間行なったら、まだ記憶に新しい構図の情報を意識しながら、引き続き、最終ペイントのための下絵を制作します。

02:フォトスタディ

この世界には、ペイントに役立つ刺激的な多くのリファレンスがあります。私はよく、カメラを持って 自然の中へハイキングに出かけます。そして、面白いフォーム、ライティング、テクスチャなどのイメージを撮影して、スタジオに持ち帰ります。私は、この森のシーンを描き始める前に、その数日前に撮影した写真を基に、簡単なウォームアップを1時間ほど行いました。

このスケッチでは「若いヒマラヤスギに影がかかる様子」「暖色のハイライト領域と寒色の影の後景との違い」に着目しました。

ウォームアップは、誰に見せるわけではないので、きれいに描く必要はありません。あなたが学びたいことを学び、大きなシーンに進む準備ができるまで、じっくり描くとよいでしょう。

これはフォトスタディ(写真を基に描かれた習作)で、元の写真が後ろのモニターに表示されています。写真をプリントし、絵の近くや便利な場所に掛けてもよいでしょう

これらの木々のライティングとフォームは、フォトスタディで学んだことに大きな影響を受けています

03:マスターコピー

あなたが直面するアートの問題のほとんどは、おそらく、他の誰かが すでに解決しています。どんな分野でも、その道の「マスター (達人)」が制作した絵をダイレクトに模倣して、その作品から学びたい側面(構図・ブラシストローク・色の選択など)をじっくり観察することで、自分1人では思いつかないような解決法にたどり着けることでしょう。

このウォームアップでは、19世紀の卓越したロシアの画家 イヴァン・シーシキン の絵の一部を模倣しました。彼は「内陸の森林シーン」のマスターです。絵の暖かい光が地面や木の幹を照らす様子を理解して、その知識の一部を自分の森のシーンに適用しました。他のアーティストの作品をダイレクトに模倣することは奇妙に思えるかもしれません。しかし、これをおこなうのは、そのマスターの絵を忠実に自分の絵として再現するためでなく、問題解決の方法を学ぶためです。

このウォームアップは非常に楽しいものでした。ロシアの画家イヴァン・シーシキンのライティングや色の選択を研究した後、同じようなシナリオをわくわくしながら制作しました

前もって描いた「マスターコピー」の学びが、よく反映されています

04:テクスチャの練習

厄介なペイントの問題は、最終的な作品を描き始める前にウォームアップで解決しましょう。今回は、森を走るパキケファロサウルスの尻尾のトゲのペイント方法を検討しました。恐竜のポーズのラフスケッチを小さなパネルに描き、望みどおりの効果を得るため、複数の方法でペイントしてみました。小さな練習作品で何時間も失敗を繰り返した結果、最善策が見つかり、最終ペイントを楽に進める準備が整いました。

私は伝統的な油絵を描きますが、こういった原則はすべて デジタル作品にも当てはまります。使用するものが PhotoshopZBrush、あるいは、色付きの粘土と変わっても同じです。ウォームアップの目的は、大作へのインスピレーションとなるような習作に 短時間取り組むことです。

この小作品は、特定のテクスチャの描き方を理解するためのウォームアップです。もし、絵の特定の領域を描写する方法が分からないとき、このような練習を行えば、最終イメージで失敗するリスクを冒すことなく、解決法を見つけ出せることでしょう

テクスチャを練習したおかげで、恐竜を楽に描くことができました

05:実物をモデルに描く

3次元でフォームを観察して その構造を理解すれば、写真で見るよりも本物に近い色や明度が分かります。このウォームアップでは、林の中で見つけたヒマラヤスギの葉の構造を数分かけてスケッチしました。私は、ディテールよりも全体のフォームに着目して、絵画調に描きました。これで、大きなシーンで同様の構造をペイントする準備が整いました。

実物を模写するときは、描くオブジェクトを手元に置いておきます。回転させ、さまざまな角度から観察して、フォームの理解を深めます

大掛かりなプロジェクトに応用する具体的なテクニックの習得目的であれ、単に想像力をかき立てるためであれ、こういった簡単なウォームアップを最初に行うと役立つことでしょう。また、ここでは触れてない多くの練習法があります。あなたの作品を改善するための新しい解決法や手段を探し求めてください。周囲の世界からインスピレーションを得て、勉強をし続ければ、あなたが創造できるものに限界はありません。

一連のウォームアップのおかげで、白亜紀のヒマラヤスギ林を走り抜ける パキケファロサウルスの絵に 生命を吹き込むことができました


編集部からのおすすめ:スケッチについて学ぶには 書籍『デジタルアーティストのためのスケッチガイド』を、人体を描く/造る技術を学ぶには 書籍『コンセプトアーティストのための人体ドローイング』をおすすめします。また、恐竜やモンスターを描く/デザインする秘訣を学ぶには、Jordan K Walker氏 の作品も掲載されている 書籍『世界のモンスター・幻獣を描く』をおすすめします。

 


翻訳:STUDIO LIZZ (Atsu)
編集:3dtotal.jp