伝統的なアートの制作方法に学ぶ、制作&スケッチの秘訣

オーストラリアの 画家 Sean Layh氏 が伝統的なアートの制作プロセスやチャコール(木炭)を使う際の秘訣を紹介します


Sean Layh
画家|メルボルン、オーストラリア


私は、オーストラリアのメルボルンにアトリエをかまえる画家です。私にとって「コンセプチュアルなデザイン作業」「最終的なペイント作業」に費やす時間は、ほぼ同じです。準備段階(デザイン)においては、さまざまな開発段階が複雑に入り組んでいますが、それらがまとまって、完成作品となります。

 

私の作品は、主にデジタルでデザインした後に、ペイントや描画(※チャコールの場合)します

01. 準備段階(デザイン)

準備段階(デザイン)に含まれるのは、①スケッチ(※ラフな構図のスケッチ形式から、チャコールで細かく描いた明暗の絵に至るまで)、②リサーチ(※ポッドキャストや書籍からインターネットの画像検索に至るまで)、そして最後に ③長時間のデザイン(※今日では ほとんどデジタル)です 。

この段階は、作業の中で最も重要です。カンバスに描き始める前にアート作品全体を分析し、そのテーマへの取り組み方を明確にしておきます。とはいえ、ペイント段階でデザインを変更しないわけではありません。元のデザインに欠点が見つかったり、新しいアイデアを思いついたりしたときは、適宜追加・変更を行います

準備段階(デザイン)を終えたら、カンバスにグリッドを描いて、イメージをスケッチします

02. ペイントとデザイン変更

次の段階(ペイントとデザイン変更)は、準備段階よりも かなり流動的です。それらペイントとデザイン変更を同時進行で行えば、互いに良い影響を与えます。実際には、まず1日ペイントをします。その夜(または翌朝)にデザインを調整。頭を整理してから ペイントを再開します。このプロセスは簡単な落書きの場合もあれば、労力を要する修正の場合もあります。

要するに、これは「頭の中にあるアイデアやイメージをできる限り表現しよう」という試みです。私は直感的でも作業が速いわけでもないので、各段階の異なる手法や相互作用を校閲のように機能させ、作品が完成するまで 少しずつ修正と洗練を重ねます。

別々の色でカンバスにスケッチします。寸法や角度には赤、フォームのスケッチにはグラファイトや鉛筆を使用します

03. インスピレーションとアイデア

私のインスピレーションは よく、イメージのフォームから得られます。それは、これまで見たり読んだりした中で、強い視覚的な反応を引き起こすような要素です。概念的なアイデアは、後からついてきて、制作とともに発展します。具体的に言うと、私の作品の多くは、19世紀および20世紀初頭のヨーロッパの絵画から影響を受けています(特に構図やスケール)。大きく誇張された動物や自然的要素のように、自然界と人間がふれあっているナラティブ(鑑賞者が体験できるストーリー)のあるシーンを描写するのが好きです。面白いことに、音楽や映画から直接インスピレーションを得ることは滅多にありません。

最終的な絵の色と明暗の感覚を得るために、下絵(線画)の上に、油絵の具の薄い層を加えます

04. 画材

準備段階のスケッチで使用するのは、主に、圧縮したチャコールとコンテです。これは、最小限の労力で最大限の効果を得るためです(ペインティングのために労力を温存します)。これに加え、練り消しゴム、ブレンドツール(ぼかすための棒)、そして、当然ながら、指を使用します。油絵では、あらゆるサイズの平筆と細筆を均等に使用します。さまざまなサイズのブラシを交互に使うと、絵に成熟した感じが出ます。他の代表的な画材には、パレットナイフ(絵の具を混ぜて表面に塗るため)、良質のガラス製パレット、マールスティック(にじみや汚れを防ぐのに必要不可欠)があります。

下絵の上に、厚みのある複雑な層を何枚か重ねると見映え良くなります

05. スケッチテクニック

気に入っているスケッチ手法の1つとして、明暗の習作に(あるいは単に明暗を描く目的で)チャコールを使用しています。まず、圧縮したチャコールで紙を真っ黒に塗り、滑らかにして、均一な中間調の黒を作ります。次に、チャコールをこすって イメージを作っていくか(おぼろげな印象になります)、白いコンテでスケッチしていきます。白いコンテを使うと イメージ内の正確なディテールを微調整できます。そして、これら 2つの画材はきれいに混ざり合います。

圧縮したチャコールの層の上に、白いコンテで描きます

ヒント1:マールスティック(腕鎮)

マールスティックに最適な素材は、薄くて軽い木製の棒(バルサ材など)です。比率の測定や確認に使用する安くて軽いメートル定規はうってつけでしょう(図を参照)。先端にテープや輪ゴムで布などのクッション材を取り付けるだけです。この棒の最も重要な性質は「軽さ」「柔軟性」です。

にじみを防ぐためにマールスティックを使用します

ヒント2:計測する

具象画を描いてリアリズムを表現したいなら、プロポーション(比率)の計測は必要不可欠です。(面倒であまり面白い作業ではありませんが)その良い方法として、体のいろいろなパーツ間の距離を測ります。たとえば、太ももの長さは「頭」2個分でしょうか? それとも「首」1.5個分でしょうか? 私は測定点として「頭」をよく使います。これを使えば、厄介な短縮法を克服できることでしょう。

短縮法を測定します

ヒント3:よく見てから描く

これは「人体デッサン/ドローイング」にも「リファレンスを見ながらの描画」にも当てはまります。私たちは、プロポーションを誇張したり、見ているものを歪める傾向があります。これは特定のスタイルや絵にはもってこいですが、もし、リアリズムを追求するなら、まず、被写体をじっくり観察し、第一印象の奥にあるものを見ることが重要です。たとえば、鑑賞者が自然に引き付けられる「目」を誇張するかもしれません。自分の絵をチェックする良い方法が「3:1の法則」です。絵を1秒見るごとに、被写体を3秒見てください。このプロセスは、人物画を多く描くと上達するでしょう。

3:1の法則

 


編集部からのおすすめ:
スケッチについて学ぶには 書籍『デジタルアーティストのためのスケッチガイド』を、人体を描く/造る技術を学ぶには 書籍『コンセプトアーティストのための人体ドローイング』や 書籍『3Dアーティストのための人体解剖学』をお勧めします。

 


翻訳:STUDIO LIZZ (Atsu)
編集:3dtotal.jp