【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード82:大事件発生! -映画『アンドリューNDR114』
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード82:大事件発生! -映画『アンドリューNDR114』
ロビン・ウィリアムズ 主演、アイザック・アシモフ 原作の 映画『アンドリューNDR114』(原題:Bicentennial Man)の仕事をしました。
原題の「Bicentennial Man」は 2世紀の男、つまり「200年生きた男」という意味です。科学の粋を集めて作られたロボットが、人間に恋をして、改良を重ねて、人間になり、最後に 年老いて死んでいく物語です。
この映画には、ロビン・ウィリアムズが演じる「アンドリュー」、そして「ギャラテア (ガラテア)」という女性ロボットの 2種類のロボットが出てきます。そして、登場人物が年老いていくところも見せるために、数多くの老人メイクもありました。
確か1999年。もう20年近く前になりますね。この映画では「ロボットを作るスタジオ」と「老人メイクを作るスタジオ」で大量の仕事がありました。そして私は「ロボットを作るスタジオ」で働きました。この仕事は、この当時の最高技術を集めたであろうほどのクオリティで、映画史上、それまで出てきたロボットの中では最高傑作だと思います。
ちなみに、ロビンは、彼の演じた映画『ミセス・ダウト』(原題:Mrs. Doubtfire / 1993年)の主人公そのもののような人で、四六時中、人を笑わせるためにジョークばっかり言ってるような楽しい人でした。自殺してしまったなど未だに信じがたいのですが、非常に残念な出来事でした。
映画の中で、ロボットもどんどん改良されていくので、3段階くらいのデザインがあり、当時、スタジオでは 150人くらい働いていたでしょうか。手を作るだけのチームなんかも編成されました。そのチームは 8人くらいで、彼らは、ひたすらロボットの手を、2ヶ月くらい作っていたかと思います。何しろ すべての関節がちゃんと動くのですから、すごいクオリティです。
私は ひたすら、ロボットスーツの造形をしておりました。粘土をめちゃくちゃ綺麗にする技術は、この時に上達したと思います。当時、今まで作られたことがないようなものを作る時は、ハリウッド映画というのは結構時間をくれたのです。今では、制作に時間をかけられなくなってしまいましたが、昔は、それで実験できたり研究できたりしたので、本当にいい時代に仕事をできたと思います。
アンドリュー。映画の中でどんどん改良されていくので、3段階くらいのデザインが..
その仕事の最中にとんでもない事件が起こりました。「スタジオで作られたパーツがなくなる現象」が頻繁に発生していました。そして、なくなるパーツがどんどん増え、ある時など、メカの仕込まれた撮影予定の頭部までが紛失してしまったのです。そのため、そのメカを作った人が徹夜して、撮影に間にあわせるように作り直したりしたのですが...。
ある日、仕事中に警察官が 2人やってきました。そして、そこで仕事をしていた仕事仲間を逮捕したのです!
アメリカの逮捕は容赦がありません。周りの人たちに配慮するなんてことはしません。その彼を、後ろ手に手錠をはめ、外に連れて行ってしまったのです。その時わかったのですが、そのスタジオに長年勤めていたモデル部署のチーフが全てを盗んでいたのです!
出来心なんてもんじゃありません。彼は数年前から盗みを続けており、彼の倉庫から、映画『スピージーズ』のパペットの全身とか、その他の映画のプロップが大量に出てきたのです。今回のロボット「アンドリュー」に至っては、全身揃っちゃってたのです。彼は、長年 そのスタジオに勤めながら、盗みを繰り返していたのでした。
スタジオがあったのは、バーバンク市。ディズニー や ワーナーのスタジオがあるところで、この手の盗みの罰則は非常に厳しいかったようです。スタジオの社長は、それを気の毒に思い、今まで盗んだもの全てを返すことを条件に彼を不起訴にしました。もちろん、その後、その彼は業界には戻ってきていません。まあ、長年 業界にいると、いろいろありますよね。
さて、「アンドリュー」がだいぶ完成した頃、それによって学んだ知識から改良して、女性ロボット「ギャラテア (ガラテア)」が作られました。これも、人が着るスーツで、動きのスムーズさは、もう「アンビリーバボー」です。今でも、今まで関わった映画の中でも誇りを持てる作品の上位になりますね。
ところで、ネットで若かりし頃の私が写っている写真を見つけました。27歳だったかな?
当時、27歳頃(?)の片桐さん(右上)
この仕事の後に伸び悩んで「業界をやめよう」と思ったくらい、思い詰めたのですが、今となってはいい思い出ですね(※エピソード21:私に芸術の才能はない 参照)。
でも、今から思うと「ロボット」というのは、ひたすらキチッとした造形をしなくてはならなくて、割とチャチャっとインパクト重視で細かいことを気にせず造形してしまう自分の性格に合ってなかったんだろうなぁと思います。
そんな経験を生かして、私の 彫刻セミナー では皆が自信を持てるような指導をしております! 心の持ちようは、作品のアウトプットに大きく関係してるんですよ~
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