【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード42:半魚人の水芸 – 映画『キャビン』(2)

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード42:半魚人の水芸 - 映画『キャビン』(2)

様々なクリーチャーが総出演、ホラーファンにはたまらない映画 『キャビン』(原題: Cabin in the woods)。その映画に登場する重要なキャラクターの1つ、マーマン(半魚人)の造形も終わり...

>>>> エピソード38:クリーチャー祭 のつづき

自分の担当したマーマン(半魚人)とエイリアンの造形も終わり、次は、Fabrication(ファブリケーション)という "別々に型取りしたものをくっつけたり、中にメカを仕込んだりする" プロセスに移ります。

マーマンの役者にクリーチャースーツの試着をしてもらっています。スーツの素材は フォームレイテックスといって、スポンジのような素材です。背びれはシリコンで別素材で成型しているので、それを、どう背中につけるか検討しています。(※後ろの人のアフロは本物です)

そして、スーツは、このようにあらかじめペイントします。この時点で撮影場所であるカナダのバンクーバーにいたので、仕上げ作業は撮影所内の一角でしました。そして、いよいよ明日撮影という段階になって、ものすごい大事なことを忘れていたことに気づきました。"髪の毛" です! そう。デザイン画にはしっかり髪の毛が付いていて、監督も「髪がある半魚人などオリジナルでいい」と言っていたのを思い出したのは撮影前日!

デザイン画にはしっかり髪の毛が付いていて

「さあ どうしよう」と思っていてもやるしかない。その晩は、ホテルの枕を涙で濡らしながら、髪の毛を植える作業に没頭したのでした...。

さて、いよいよ撮影の日、撮影スケジュールは夜なので、夕方から役者にスーツを着せる作業開始です!

まずは、役者にスーツを着せます

それから、頭をかぶせます(※後ろのアフロは本物です)

そして、下まぶたのピースを接着し、

本人の肌が見えるところに色を塗って、周りと合わせます

ちなみに、この時点では、役者は上半身だけスーツを着て、スーツのお腹から自分の下半身を出して(※いやらしい意味ではない。お腹から下という意味です)椅子に座っています。背びれがあるため、全部着てしまうと椅子に座れないのである。ずっと這いつくばっているキャラクターのため、お腹に穴を開けても映らないのである。

そして、魚のキャラなので当然足がなく、スーツを全部着てしまうと、立つことができないし、背びれもあるので、椅子に座ったり仰向けにもなれない。役者の選択肢は「うつ伏せ」か「横になるしかない」という、とても悲惨なスーツなのである。

休憩はこんな感じ

このキャラは這いつくばって、倒れている男に襲いかかるのだけども、こともあろうか、床は荒い絨毯。そして、スーツの素材はスポンジみたいな素材。ぬるぬるの液体を全身に塗って滑りを良くするのだが、テイクのたびにどこかが削れていく...。そして、何より、夜なべして頑張ってくっつけた髪の毛が、前進するたびに抜けていくのである...。ハラハラしながら、波平の気持ちを理解できたのである。

そして、いよいよ、撮影のクライマックス。このマーマンの背中には、鯨の潮吹き穴が付いていて、人を襲いながら、その穴から血の潮を吹くという設定

腹を捌いて、血が吹き出るチューブを仕込みます。この時点で、役者はしゃべる気力もなく、まさに "まな板の上の鯉" 状態。「もう好きにしてくれ」って感じです。そして、最後のショット。SFX の人たちが血の入ったタンクをチューブにつなげ、いよいよ、血の潮吹きの始まりです! 血だらけになるので、ぶっつけ本番になります。周りの人は皆、ビニールをかぶって待機。緊張が走る。そして、監督の「Blood! (ブラッド!)」という掛け声とともに、血しぶきが!!

って、水芸かよ...

すごい水芸だぞ...

まだ出るんかい...

と、こんな感じで、血を噴き出させる役は、うちら、メイクアップ FXの人たちでなく、SFXの人たちなので(※違う部署なのである)血の出し方のコントロールがこちらではできず、このような嘘くさい噴水状態になってしまったのである。しかし、最後の最後にタンクから血を出し切った時に、実際のクジラのように霧状に血が吹き出ててきて、映画では その部分が使われたのである。100リットル以上の血を吹き出した後に...。

それにしても、他のキャラを作りながらだけども、このマーマンを仕上げるのに約3ヶ月ほどかけました。しかし、撮影は一晩。そして、さらに、映る時間は10数秒。ハリウッド映画というのは贅沢なものですね。

そんなわけで次の日。ゴミ箱の横に転がっている謎の生き物を見つけた瞬間を演出してみました。(もうちょい つづく

 

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