【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード39:人類のDNA – 真面目な まきぐそ検証(1)

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!(※今回は少々品のない表現が含まれています。ご注意ください)


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード39:人類のDNA - 真面目な まきぐそ検証(1)

皆さんは、この形を見て、何を想像するだろうか?

皆さんは、この形を見て、何を想像するだろうか?

そう。健全な日本男児なら、小学生の頃、誰もが1度は粘土で作った事があるであろう、まきぐそうんちである。自分の記憶では、それは、マンガ『まことちゃん』(楳図かずお 著)に始まり、『Dr.スランプ』(鳥山明 著)で大ブレイク。特に『Dr.スランプ』では人間の排泄物であるという概念を通り越し、人格まで持たせてしまった。

形を崩さない様にひっくり返し、下から小枝を突き刺す達人技や、お手玉うんち に おさんぽうんち。それらの技に挑戦した人も多い事と思う。まさに、うんちの表現の革命と呼ぶにふさわしい芸術作品である。おそらく、多くの人のうんちのイメージはアラレちゃん(※『Dr.スランプ』のキャラクター)の影響による物が大きい。と、この前までは思っていた。

それはある晴れた日の仕事中。私はふと思った。

そういえば、こんな形のうんちって実際に見た事がない。
あんな形を実際に創る事は可能なのだろうか?

そこで、早速、うんちがあの形になる条件を考えてみた。

  1. 地面が平らである事:現代の水洗式トイレの様に斜めだったら崩れてしまう
  2. 肛門から地面までの距離が適度な事:近すぎたら、けつと地面の間でつぶれてしまう。そして、遠すぎたら千切れてしまう
  3. 程よい硬さ:柔らかすぎたら、べちゃーっとなる。硬すぎたら、棒状になってしまう
  4. 手頃な長さ:3まわりくらい出来るほど。のばしたときの理想長さは 30cm ほどかと思われる
  5. 最後のしぼり方:ぶちっと切れたら、頂点が平らになってしまう。うまい事 尖る様にしぼらねばならない。ケーキをホイップクリームでデコレーションするときの最後にぴっっとやる技が必要かと思われる
  6. 奇麗なけつのグラインド運動:何よりこれが一番大事

このように、これらすべての条件が揃わないと出来ないのではないかと思う。どれか1つでも欠けたら、おそらく、あの形にはならない。まさに奇跡の一品なのである。

では、何故、そこまでレアなあの形を、我々はうんちと認識する様になったのか? おそらく、それは前述した様に『まことちゃん』の楳図かずお や『Dr.スランプ』の鳥山明 がシンボル化したおかげであろうと思う。しかし、そこでふと、ある疑問が頭をよぎった。

まことちゃんやアラレちゃんを知らないアメリカ人は、この形を見て、うんちであると認識するのかどうか? 疑問は晴らさないと気がすまない性格なので、さっそく、仕事で使っている粘土でうんちを造ってみた。製作期間15秒。プロになって最速である。

製作期間15秒。プロになって最速である

そして、そばにいたアメリカ人に見せて聞いてみた。「これは何に見えるか?」と。答えはすぐに帰ってきた。「うんちだ(※英語)」と。何の疑問もない。「これはうんち」だそうだ。そこですかさず、彼に「では、こんな形のうんちを見た事があるのか?」と聞いたら、見た事ないと言う。なおも、私は攻撃を続けた。

「では、何故、これをうんちだと思うのだ? 見た事がないくせに!」彼は、わからないけど、小さい頃から粘土をもったら、まず、みんな造る物は、こういう形のうんちだとのたまう。アメリカ人の貴様にまきぐそうんちの何がわかるというんだ。

さらに、もう2人のアメリカ人にも聞いてみた。答えは同じ。2人ともうんちと答えたが、やはり、こんな形の本物のうんちは見た事がないという。しかし、日本人と違う所は、アラレちゃんのように、この形をうんちと思わせる決定的な資料が存在しないという事だ。

もう、こうなると、この形は人間の潜在意識に.... いや! 太古の昔から人類の DNAにインプットされているのではないか? いや! あの螺旋形こそまきぐその形を表したものではないのか!! 人類の進化の歴史は うんちの歴史。猿から人間になった時、すでに、あの DNAを彷彿させるような美しい螺旋形は、うんちの形としてインプットされていたのではないか?

DNA = うんち

このセンセーショナルな発見を学会に発表しようとまで思い始めてきた。しかし、まだ証拠が足りない。私は辺りを見回した。もう1人いた!イギリス人(女性)だ! 私は、粘土のうんちを手に握りしめ、つかつかと一直線に彼女のもとに進む。そして、彼女の目の前に手を差し出すと、ゆっくりと手の中にある汗ばんだ黄金色のDNA... いや、うんち(粘土)を彼女に見せる。そして、聞いてみた。「これは何に見えるか?」

彼女はそれをしばらくじっと見て、そして、自信と確信に満ちた眼光で私の眼を鋭く見つめ返すと力強く一言発した。「うんち(※英語)」 イギリス女よ。お前もか!! そして、間髪入れず、アメリカ人にもした質問を彼女にもした。「お前はこんなうんち見た事があるのか?」と。さっきまで自信に満ちていた彼女の眼が突然曇る。悔しそうにうつむくと、ため息をつきながら、小さく言葉を発した。「ない...(※英語)」

どうやら、学会に発表する時は近づいたようだ。もう仕事どころではない。仮に、既に、この形の情報が人間のDNAに組み込まれているとしたら、小さい子供でも、この形をうんちと認識しなければいけない。その当時、彼女には 5歳の娘がいた。そして、自分にも同じ年齢の娘が。これを見過ごす手はない! 私は宿題として、彼女に、このうんち(粘土)を持たせて、娘に何に見えるか聞いてもらう事にした。

その日、彼女は、食べ終わった弁当箱にうんち(粘土)を大切にしまい、家に持って帰っていった。自分も新たなうんち(粘土)を造り、家に持ち帰ることにした。

食べ終わった弁当箱にうんち(粘土)を大切にしまい、家に持って帰っていった

今日は眠れないぞ!(つづく

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