【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード41:人類のDNA – 真面目な まきぐそ検証(2)

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!(※今回は少々品のない表現が含まれています。ご注意ください)


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード41:人類のDNA - 真面目な まきぐそ検証(2)

ある晴れた日の仕事中、ふと思った疑問 "うんち=DNA"
そのノーベル賞級発見(?)に憑りつかれた 片桐さんは...

>>> エピソード39、検証(1)の続き

まきぐそうんちの形は、人生経験の浅い5歳児が見ても、うんちと認識するのか? おそらく、その若さで、本物のまきぐそうんちを見た事がある子供というのは、相当まれであろう。私は、はやる心を抑えつつ、5歳の娘の前に「これナーンだ?」と右手を差し出した。

普通の親なら、子供を喜ばせようと、おやつや小さいおもちゃでも差し出すものだろう。しかし、私にはそんな事よりも大切な...、人類とうんちの遺伝子レベルでの関連性の解明という重大な使命が...。 これほど大切な使命を、今まで、家に持ち込んだ事があっただろうか?

私は、全人類の夢と期待を込めた右手をそっと開いた。
娘は、手の中の汗ばんだ赤茶色の物体をじっと眺めると一言つぶやく。

「ねんど」

冷たい答えが心に突き刺さる。ゴングが鳴ると同時にいきなりストレートを食らった。そんな心境だ。そんな... そんな事はわかっている。でも... でも... 違うでしょ。こういう場合は! 自分の質問の仕方が悪かったのだろうか? もう一回わかりやすく聞き直すとしよう。

「この粘土の形、何に見える?」

娘は自分の手の上の粘土をじっと眺める。これで、娘が「うんち」と答えれば "うんち=DNA" の理論が証明される。私の頭の中でうんちコールがこだまする。「う、ん、ち ♪  う、ん、ち ♪」 頭の中で軽快なリズムに合わせて、うんち達が踊っている。全身にうんちを感じ、思わず我を忘れる。もう私の中では「うんち」という答え意外何も考えられない。私の期待はすでに確信に変わっている。さあ。もう何もかも解っているよ。でも、一応答えを言ってごらん。

「へび...」

な... なにを...? へび? そんな... そんな馬鹿な...。この色、このまき具合、誰がどう見ても、これはうんちじゃないか? ストレートのすぐ後にアッパーカットを食らってノックダウン。全身の力が抜けていくのを感じる。私はその場にがっくりと崩れ落ちた。私の... 私の理論が間違っていた...。まきぐそうんちは DNA には組み込まれていない。それは、後から擦り込まれた物だったんだ。ノーベル賞の夢がガラガラと足下から崩れていく。...もうだめだ。これ以上、この現実に耐えられそうもない。荷物をまとめて日本に引き上げよう。オバマさん(※当時)お世話になりました...。

しかし、その時、ある疑問が頭をよぎった。『Dr.スランプ』(鳥山明 著)を知らない、ここアメリカで育つ子供達は何を見て、この形をうんちと思う様になるのか? 私は新たにわき起こった疑問を解こうと調べてみる事にした。

調べる事2分

突如、目の前に現れた画像に私は自分の眼を疑った。

こ... これは...

私は夢を見ているのか...?

こんな事が、こんな事が現実にあるのか?

体の震えが止まらない。

皆さんごめんなさい。私は、まだまだ世間知らずの坊やです。明日から山にこもって、イチから修行し直す事にします。

フランスの版画家、ベルナール・ピカール(1673?1763)の作品『調香師』

舞台はアメリカではないけど、同じ白人文化。日本でいう江戸時代前期に、既にヨーロッパでは、まきぐそは存在していた! さらに調べていくと、また新たな発見が。

何と これは天下の大英博物館での写真だそうだ。

イギリス女め。すっとぼけやがって。ちゃんと故郷にこんな立派なもんがあるじゃないか! 明日会ったらおぼえてろよ! だんだん、自分が何を調べていたのかわからなくなってきた。もう寝よう。

次の日、私は仕事場で、イギリス女に、この写真を突きつけた。ほれ! お前の国にも立派なまきぐそがあるじゃねえかよ。しらをきってもすべてお見通しなんだよ。彼女は写真を凝視する。決定的な証拠を突きつけられてもう逃げられないと観念したのか、がっくりとうなだれた。そして、ぽつりと一言。

「I'm sorry...」

勝った。ついに私は勝ったんだ。おとうさん おかあさん、日本人に産んでくれてありがとう。これで堂々と故郷に帰れます。私はすべてに満足し、仕事に戻った。もう何も思い残す事はない。

ん?

あれ?

何か違うぞ...?

いったい、私は何をしようとしてたんだっけ? えーっと....

ああ、そうだ!

彼女に宿題を出してたんだ。アメリカ育ちのイギリス娘。彼女の5歳の娘は、あの形をうんちとして認識するのか? これで、もし「うんち」と答えたら "うんち=DNA" の理論は 50%で可能性が残るかもしれない。私はもう一度、彼女のもとに向かう。敗北感に打ちひしがれた彼女は、まだ立ち直れないでいる。そんな事はかまわない。私のノーベル賞がかかっているんだ。彼女の娘の出した答え。それは...

「貝」

わずかな希望も閉ざされた。この世に神はいないのか?

まきぐそや ああまきぐそや まきぐそや
 ひとりまきまき ただ臭うのみ(辞世の句)

凄まじい哀愁、悪臭漂う辞世の句を残し、私はその場に崩れ落ちた...。いったい、この国の連中は、いつ どうやって あの形をうんちと認識する様になるのか? 小学校に入ってか? 中学か? それとも、18歳の誕生日の朝、目覚めた瞬間悟るのか? 私のまきぐそ探求はまだまだ終わりそうにない......。

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