【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード71:多摩墓地での恐怖体験 – 光と影

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード71:多摩墓地での恐怖体験 - 光と影

それは以前、日本に帰ったときの出来事である。私の実家は多磨墓地(多磨霊園)のそばにある。そして、近くにお気に入りのラーメン屋があって、昔は、日本に帰るたびに高校の頃の友達と行っていた。しかし、お互い なかなか時間がなく「自分で行かなきゃ 今回は行けそうにない」という事で、その夜は、自転車で 1人で行く事にした。

そのラーメン屋へ行くには 多磨墓地を突っ切っていくのが 1番の近道なので、何の迷いもなく、その経路で行く事に。暗いせいもあり、道順の記憶も定かではなく、知り合いと携帯で話しながら、墓地に侵入。「あれ、こんなに暗かったっけ?」と思いつつ、話しながら進む。そして、電話を切った途端に 自分のおかれている状況を認識する事になる。墓地のまっただ中に たった1人でいるという事を..。 

怖い..。とにかく、街灯が全くなく、自転車の明かり以外何もない。しかも、道もよくわからない。ここで何かが近づいてきたら間違いなくちびるだろう。いや、たとえ、ちびらなかったとしても、軽くうんこくらいはもらすだろう。いや、たとえ、軽かったとしても、それが かなり緩かったりしたら...。何の話かわからなくなってきた。

近くにありながら、もう15年以上も この道を通った事がないので、確か中央の道1本でいけると思っていたのが..。入った場所から違っていたのか、何度かロータリーに遭遇し、その度にどっちに曲がるか選択しながらの恐怖のサイクリング。もう既に、入り口からも出口からもほど遠い。本当に真っ暗闇。こんな怖い経験は今までした事がない。

何か... 何か楽しい事を考えなきゃ! 必死にあれこれ思索する。

ガッツ石松の女装!

ガッツ石松の女装!

だめだ... よけい怖い...

さだまさしの歌う宇宙戦艦ヤマトのテーマ!

「さらば? 地球ぅよ? ...(高音)」
... なんだか さらに怖くなってきた。

顔がケンシロウで 体がクレヨンしんちゃん

顔がケンシロウで 体がクレヨンしんちゃん

だめだ... よけい怖い...。もうだめだ..。早くこの場所から脱出せねば立ち直れない。そこへ 前方に明かりが! 汗をたらして スピードを上げる。出口が見えた! そして脱出!

なんとか 無事通り抜けたが、どうやら、横の方に出てしまったようだ。そのまま墓地を迂回して、目的地であるラーメン屋へ。ああ。やっとついた。このために こんなに苦労したんだ。さあ入るぞ!

 

 

私はその場に崩れ落ちた。そう。その日は月曜日であった...。一体、この苦労は何だったのか? 頭の中のステージでは、さだまさしが「宇宙戦艦ヤマト」を歌っている。それにあわせて、女装したガッツ石松が腰をくねくねして踊っている。ケンシロウが みさえの肛門の秘孔を突いている。まさに この世の地獄。You are shock!!

しょうがないので引き返す事にした。さて、また、墓地の入り口に止まり、ちょっと思案。考えてみると、こんな怖い思いなんか体験した事がない。仕事柄、お化け屋敷なんかに行っても、ホラー映画を見ても、こんなに怖いと思う事はない。もしかしたら これって貴重な体験?

ホラー映画を作る者として、怖さの正体というものを知りたくなり、もう1度、墓地を突っ切っていく事に。中で迷いたくないので、入り口の地図をきっちり確認。脳に焼き付ける。すると、後ろの方から がやがやと人の声がする! ギクリとして振り向くと、高校生くらいの若者が 3人、自転車で墓地に入ってきた。そして「やっぱ怖えーーーー!」と叫びつつ、ちょっと入って、引き返していった。

「おいおい。君たちは 3人じゃないか。こっちのが怖えーよ」 そして、ふと辺りを見ると、タクシーが 2台ほど停まっている。中に車は入れないので、おそらく、中にいる人を待っているのだろうけど「それって こんな真っ暗な中に人がいるってこと? それが歩いてるのを見たら、めっちゃ怖いんじゃない? 遭遇したらどうしよう?」と不安を感じつつ、勇気を出して ペダルをこぐ。 

中を進み、あれこれ想像する。「ここでこんなのが こう出てきたら怖いぞ」とか「あそこに あんなのが見えたら怖いぞ」とか。そういう事を考えていると、なんか全く怖くなくなってしまった。状況が変わらないのにである。そこで、ふと「恐怖とは与えられるものではなく(まあそういう恐怖もあるが)自分で作ってるもんだ」という事に気づいた。それを体感したのである。

それから、自転車のライトを消して見たら、なんと、よけい怖く無くなった。光と影の対比というやつであろうか? 光があるから 影がよけいに怖くなるので、影だけだったら、逆に怖くなくなってしまうのである。

これは 大きな発見だった。今後、いろいろな事に生かせそうだ。そして、冷静に墓地を脱出。何とも貴重な経験をしてしまったのである。無事に家にたどり着き、本来の外出の目的であった晩御飯にありつく。それは、帰り道のセブンイレブンで買ったカップスター。切ない...。

 

★バックナンバーはこちらから

■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/