【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード37:思いは叶う – ミケランジェロとの出会い

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード37:思いは叶う - ミケランジェロとの出会い

20代前半の頃、ミケランジェロの造形に多大な影響を受けました。おこがましくも、私の今持っている造形に対する考え方は、ミケランジェロの彫刻の美しい流れの影響が大きな割合を占めています。おこがましいですが...

20代後半の時、「30歳になるまでにイタリアに行って、直にミケランジェロの彫刻が見たいなぁ」と漠然と思っていました。しかし、2001年、ニューヨークで同時多発テロが勃発。アメリカ全土が不景気になり、ましては、エンターテイメントビジネスなんて、一番景気に影響するビジネスのため、仕事が急になくなってしまいました。ちょうど私が29歳の時。30歳までにイタリア旅行なんて、もう無理だとあきらめていました。

そんな時に、私が長年続けている合気道の先生から「アシスタントとしてセミナーについて来ないか」と初めて誘われました。場所はベルギー。何とヨーロッパではありませんか! 飛行機、滞在費はタダとの事。もちろん二つ返事でオーケー。初のヨーロッパ旅行(旅行ではないけど)となりました。

そこで気になるのは日程の事。確認したら、出発は誕生日の一週間前。30歳前にとりあえずヨーロッパまでは行ける! せっかくヨーロッパに行けるので「ついでにイタリアまで行こう」と決めて、スケジュールをチェックしたところ、合気道のセミナーを終えて、その日の夜行に乗ったら、イタリアのミラノに着くのが誕生日の前日。つまり、20代最後の日に、なんと、ミケランジェロの彫刻が拝める事になったのである! なんという運命の面白さだろう!!

思いから夢は叶っていくと聞いてはいたが、これほど "思う" という事の大事さを実感した時はありませんでした。そして、30歳の誕生日はフィレンツェで。自分が一番影響を受けた彫刻、ダヴィデとメディチ家礼拝堂を見る事ができたのでした。

言わずと知れたダビデ像

メディチ家礼拝堂ロレンツォ

しかし、まあ、芸術に関して、イタリアという所はなんと素晴らしい所か。私が住んでいるロサンゼルスであちこちに道路標識があるように、イタリアでは、あちこちに普通に芸術作品がある。しかも、そのレベルも半端じゃない。この土地から、ミケランジェロ、ダヴィンチ、ラファエロ、ベルニーニなどが出てくるのも納得である。そして、フィレンツェでは美術館巡りに明け暮れる。美術館の質と量が半端ない。

ミケランジェロ最後の作品「ピエタ」の前で。本当に目の前で見れる! 触っちゃダメだけど、触ろうと思えば簡単に触れてしまう!

1つの美術館に一日中いれただろうが、他にも見たいところがいっぱいあるので無理矢理に移動。そして、次に訪れた街はローマ。そして、バチカンである。そこでは当然、ミケランジェロの最も有名なピエタを見る。しかしながら、昔、狂ったやつがピエタのキリストの像をハンマーでたたいて足の指を壊したという馬鹿な話があって、ガラス張りで遠くにしか見えない。これは非常に残念であった。

ガラス張りで遠くにしか見えない。

そして、ミケランジェロのもう1つのマスターピース、システィーナの天井画。

もう1つのマスターピース、システィーナの天井画

本で見ていた時はそれほど好きな作品ではなかったが、実際そこに行き、中央に立ち、見上げてみる。するとそこは、視界いっぱいの絵。本当に視界のすべてが彼の絵なのである。 かつて、これほどの衝撃は味わったことがないほど凄かった。芸術というのは、写真では絶対に判断してはいけないのである。それから、ベルニーニ美術館やら、コロッセオやら、ローマをとことん堪能。そして、イタリア最後の地、ヴェネチアに向かったのである。

イタリア最後の地、ヴェネチアに向かったのである

ヴェネチアは、これまた素晴らしく美しい街で、ここの雰囲気は、もう何とも言えないよさがあり、本当に異次元の街といった感じ。何処で何をするというより、ただ、ただ、街の雰囲気を堪能するだけでも素晴らしいところでした。その後、イタリアを離れ、フランス/パリではルーブルにオルセー、そして、ロダンミュージアムと主要美術館を制覇。それから、ドイツ/ミュンヘンを周り、オランダ/アムステルダムでは大好きなゴッホミュージアムと、本当に贅沢な3週間のヨーロッパ旅行を堪能したのでした。

この旅は確実に私の芸術感を大きく変えました。素晴らしい芸術作品の持つパワーというのは確実に伝わります。「そんな作品を産み出したい」と強く思ったのでした。そして、この旅で感じた事は、先にも書いたように "思う" ことの大切さ。 それに対して具体的に行動を起こせれば、なおいいのですが、根本に "思う" という事を据えていると、願いはかないやすいのだと思います。

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