【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード30:悲劇の撮影 – パイレーツ・オブ・カリビアン
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード30:悲劇の撮影 - パイレーツ・オブ・カリビアン
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』に登場する人魚の制作責任者として、ハワイ、カウアイ島で仕事をつづける片桐さん。やがて、撮影の時が...
>>エピソード28:全力で休む! のつづき
人魚を製作した場所は、ハワイのカウアイ島でした。そこで他のメイクのクルーは撮影に行っておりましたが、私はひたすら内にこもって、人魚を作っておりました。余談ですが、途中、ジョニー・デップ が見にきたりしました。つくづく思いましたが、"スター" という人たちは皆、感じのいい人たちばかりです。「そういう人たちしか、長い間、君臨できないんだろうな」とつくづく思います。彼もにこやかに、私たちの製作物をしっかりと見て、ちゃんと褒めてくれました。やはり、こういうことは嬉しいものですね。
そして、なんやかんやでようやく、人魚も3体完成し、この人魚の撮影場所であるオアフ島に送りました。オアフ島はホノルルが有名ですね。カウアイ島の人たちからは「ハワイのラスベガス」と呼ばれているそうです(笑)。カウアイと違って、随分と栄えた観光地ですが、撮影するところは郊外のビーチになります。さて、オアフ島の撮影が始まりました。
ふたを開けると、そこには人魚の死体が!
シリコンはめっちゃ重いので4人がかりで運搬です
海藻のような髪の毛で顔を隠しています。バルボッサの部下がそれをめくって、人魚の顔を確認するためです
砂に埋もれてると本物っぽくなります
まあ、こんな感じで撮影をしたのですが、撮影前半は、ずっとバックグラウンドに転がっていていましたが、午後になり、いよいよクロースアップの撮影になりました。しかし、それは、結構あっさりと終わってしまいました。あまり、ちゃんと撮らない。実は後で判明したのですが、最初の設定では、人魚役のこの子は恐ろしい人魚に変身する予定で、顔に CGメイク用のトラッキングのシールを付けていました。
人魚役のこの子は恐ろしい人魚に変身する予定で、顔に CGメイク用のトラッキングのシールを付けていました
ところが映画を見てみたら、そのシールはなくなって、彼女も全く変身しませんでした。この映画に出てくるどの人魚も、上半身は変身しません。私が作った人魚は、変身した後の人魚の姿をしています。すべての人魚が普通の人間の顔のままになってしまったので、私が作った人魚とは合わなくなってしまったのです。理由は予算なのか、ストーリー上の都合かわかりませんが、あれだけ苦労して作った人魚がほとんど映らずじまいになってしまったのは、非常に残念です。いやぁ、映画ってホンッとに恐ろしいいものなんですね! というオチで終わらせようと思ったけど、悲しいので、もうちょい書きます。
あれだけ苦労して作った人魚がほとんど映らずじまいになってしまったのは、非常に残念です
最初に人魚を砂浜に置いた時は潮がだいぶ引いていた時だったようで、撮影が進むにしたがって、だんだんと潮が満ちてきました。そして何と! この人魚が波にさらわれかけたのです! シリコンの皮膚の内部はスポンジのような素材が入っているので、重たくても水に浮くのです。というのもその時知ったのですが...。大慌てで人魚を追っかけて回収しましたが、これがもし、流されて行ってしまったら、どこの国でどんなニュースになったのでしょうか? 考えただけでもワクワクします!
ちなみに、この人魚の写真がインターネットに出回った時、映画にはほとんど映らなかったため、出所がなかなかわからずに「人魚が見つかった!」みたいな記事があちこちででまわりました。話に背びれ尾ひれがついて、なぜか「ブルガリアで人魚が見つかった」という話に落ち着いたようです(笑)。まあ、作り物を本物に見せるという仕事をしているので、この成果は成功だと言えますが、出回るなら、映画にちゃんと出て欲しかったと思うのである...
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