【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード26:この1杯のために – パイレーツ・オブ・カリビアン
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード26:この1杯のために - パイレーツ・オブ・カリビアン
映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』に登場する人魚の制作責任者として南の楽園ハワイ、カウアイ島にやって来た片桐さん、地獄の原型制作&プレゼンテーションを越えた その先に見えたものは...
>>エピソード24:キャプテン カタギリと囚人たち のつづき
人魚の原型のプレゼンテーションも無事に終わり、ここでようやく日曜日に休んでみる。それは、カウアイ島に来てから2週間半後の事でした。そして、毎日見てたけど、存在しているように思えなかった海にようやく入る。この日は、午前中はブギーボードを買ったり、日用品を見て回ったりとたらたらしてしまい、あまり休日を満喫できなかったのが心残り。そして、その晩、仕事のスケジュールを計算してみて、思わず凍りつく。もしかして、休んでる場合じゃなかったんじゃないか?
これから、人魚の原型の型取りを始めるわけなのだが、全身を一気にとるわけではなく、頭、胴体、両手、髪の毛、尾びれ、胸びれ、その他のひれと、かなりの部分を切り取って、別々に型を取っていく。
髪の毛を外した顔の造形を仕上げているところ アンジーをモデルにしています
スタッフが胴体の型を取っている間に、次々と他の部分の彫刻を終わらせていかねばいけない。スーパーバイズもしているので、型の取り方とかも、いちいちすべて指示しなければいけないので、原型彫刻に普段の倍以上の時間がかかる。その後、粘土原型が全て終わるまでの3週間毎日が締め切りである。
尾びれの造形を仕上げてるところ
18歳でアメリカに移住したが、この国では21歳までは身分証がないと酒は買えないし、バーにも入れない。元々、酒の味も好きではなかったため、そのまま、酒はほとんど口にせずに年齢も30歳がすぎていた。しかし、ここでの仕事以外の唯一の楽しみは、ゴージャスで、ダイナマイトで、リッチで、セレブなプールサイドのバーで酒を飲む事。しかも、現地のパイナップルとラムを原料に使ったピニャコラダがめっちゃおいしい。
とにかく、仕事があまりにもきついので、何と30代半ばを過ぎて、生まれて初めてストレス解消のために酒を飲みだしたのである。もう てやんでぇべらぼうめである! 飲むのは週末の夜だけと決めて(土日も仕事してたから関係ないのだが、けじめとして)、「この1杯のために生きているなぁ」という世の中の親父どもの気持ちを、生まれて初めて理解したのである。ちょっぴり大人になれた気がした。(つづく)
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