【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード25:エミー賞をもらったらしい

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード25:エミー賞をもらったらしい

エミー賞 とはTV界のアカデミー賞とも呼ばれる権威ある賞です

1999年のある雨の朝。ふと、外に出てみると、玄関に何やら郵便物が置いてあった。何か書類のような物がはいっているようである。おもむろに拾い上げ、中を開けてみると、中身はなんとエミー賞受賞の証明書ではありませんか! 数日前に、仕事をしたスタジオから「なんか送る」というお知らせがあったが、ちゃんと聞いていなかったため、「まあ届けば何かわかるだろう」と思っていたが、まさかこんなものとは...。

エミー賞受賞の証明書

授賞式に行かずに、こんなモンもらえるとは...。しかも、ノミネートされてたのも知らなかったのにと思いつつ読んでみると、どうやら『X-ファイル』の仕事でとったらしい。エピソードのタイトルを見ると、そこには "Two Fathers / One Son"とあった。いったい、どのエピソードなんだろう。覚えていない。それどころか、『X-ファイル』の仕事を1年近くしたにもかかわらず1度も見たことが無いのである。

『X-ファイル』:1993~2002年にかけてアメリカで製作されたSFテレビドラマ。2016年1月にアメリカで シーズン10 にあたるミニシリーズが放送された現在、FOX は シーズン11 の製作を始めている

その頃 働いていたスタジオは、やたらとTVシリーズをやっていて、『バフィー ~恋する十字架~』とか『チャームド~魔女3姉妹~』とか複数のテレビシリーズを同時にやっていたので、エイリアンやクリーチャーを作りつつ、「あれ? これは何の番組のやつだっけ?」ということが多かったので、特に意識していなかったのである。「そんな人がこんな物をもらってもいいのだろうか」と思いつつ、くれるモンは病気以外だったら何でももらう事をモットーにしている私としては、とりあえず部屋の飾りにもらって置く事にした。

ここで少し、アメリカの特殊メイクの仕事の仕組みを説明しておきたい。アカデミー賞とかエミー賞とかを実際に授賞式にいって表彰されてトロフィーとかをもらえるのは「実際に現場に行って、役者にメイクを施した人」。これは大概、ユニオン・メイクアップ・アーティストと呼ばれ、メイクの組合に入っている者だけである。ハリウッドでは、この組合の規制がうるさくて、ユニオンじゃない人は、それまでの準備をすべてやっても、現場でメイクをさせてくれない事が実に多いのである。

そして、いわゆる「特殊メイク」と呼ばれるものは、まず、役者の顔の型を取り、それをもとに変形した顔や老人の顔や怪物の顔などを粘土で造形し、さらに、それから型を取り、薬品を流し込むといったような色々なプロセスをえて、最終的に出来たものを、撮影当日、役者に貼るといったものである。したがって、それを作るものにメイクの組合の人がいないと、当日、役者に貼る仕事だけは、誰か組合の人に頼まなければいけないことになってしまうのである。実際、こういうので表彰される人は「作る方の苦労は特にしないで、撮影当日、役者に貼るだけの人が多い」のが現状である。

自分自身はユニオンには入っておらず、メイクもあまり興味ないので、こういうものとは無縁だと思っていただけに、受け取ったときは少し意外でした。まあ「たまたまやっていた仕事が、たまたま受賞した」という感じで、たいした価値は感じないが、いい部屋の飾りになったのである。

 

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■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/

映画『ゲヘナ 死の生ける場所 (Gehenna Where Death Lives)』予告編 (2分8秒/ 監督:片桐裕司 / 日本語字幕)