【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード6:DRAGONBALL EVOLUTION その3

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!(※今回は少々品のない表現が含まれています。ご注意ください)


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード6:DRAGONBALL EVOLUTION その3

私の戦闘力はどんどん下がり、この時点ではたった2のゴミ野郎状態。ラディッツどころかウーロンにすら瞬殺されるであろう

前回の その2 に載せた "Fulum Assasin"(ピッコロの細胞からつくられた、映画オリジナルキャラクター)の写真は、マケットといって、「デザインがこれでいいか」を検討するためのミニチュアです。実際に映画で使うのは、人間が着るスーツで、その造形は等身大になります。

右の造形が、初期段階。左の造形は両手がすごいことになってたり、中央は折りたたみ式の剣が腕の下について、背中にも変なツノが生えている

右の造形が初期段階。左の造形は両手がすごいことになってたり、中央は折りたたみ式の剣が腕の下について、背中にも変なツノが生えている。もっといろいろなバージョンがあったのだが、記憶とともに写真も消してしまったようだ。さあ!いよいよ等身大の造形が始まる!

嫌な予感しかしない!

ドラゴンボールに携わるワクワク感など微塵も感じないまま、日本の偉大な文化を汚す非国民としての生き様に拍車がかかっていく!

人間が着るスーツ(※等身大の造形)を制作中の片桐氏

いざ出陣!
どうやらオラの気はまだ残っていたようだ

しかし、前回のその2 で書いたとおり、この直後、ツノの数や位置が変わり、剣を持つための手を作るか、それとも手を剣にするのかも決まらず、果ては、違う部位が剣になったり変なところからツノが生えてきたりと、どんどん変わっていく。

もう第何形態だかわからない...

クリーチャーの戦闘力は変貌のたびに上がるのかもしれないが、私の戦闘力はどんどん下がり、この時点ではたった 2 のゴミ野郎状態。ラディッツどころかウーロンにすら瞬殺されるであろう。

本来はデザインを決定させるためマケットという小さい造形物を作ってから大きいものを作るのだが、あまりの決まらなさに、遡って、もう一度マケットをいじることに...。これは、設計図を基に家の建築を始め、随分経ってから設計図を書きなおすようなもの。

終わりが見えない...

これ、何のプロジェクト? ドラゴンボール?
ドラゴンボールって何? ドラゴンのボール?
龍のキンタマのこと? キンタマなのこれ?
キンタマプロジェクト?

頭の中に「これは私の大好きなドラゴンボールじゃない」と否定するもう1人の自分がいる

本来の私はキンタマなんてお下品な言葉は使わない

おキンタマと、ちゃんと呼んでいる

この証拠写真は、スタジオのオーナーが、プロデューサーやディレクターの意見を伝えているところ

魂の抜けた顔とは、このようなものなのであろう

この少し前に AKIHITOくんという もう1人の日本人アーティストがここに雇われる。そして、こともあろうか彼が造形するのは、あの "オザール"。デザインは決まっていたので、彼は実際に撮影に使われる "オザール" の原型を作ることに。なんと、この映画のメインキャラとメイン敵キャラを日本人2人の手で作り上げる羽目になったのである!

これはアメリカの陰謀なのであろうか?
日本人の魂をズタズタに引き裂くための策略...
トランプの仕業か?
いや... あの頃はブッシュだったか...?

スカウターで感知できないほど戦闘力が下がった私は、同時に携わっていた 映画『X-Men Origins: Wolverine (ウルヴァリン: X-MEN ZERO)』(2009年公開)の造形の仕上げをせねばならなくなり、この『DRAGONBALL EVOLUTION (ドラゴンボール・エボリューション)』の仕事から運良く撤退することに。

こうして、私の非国民生活は突如、本当に突如、終わりを告げることになったのでオザール。次回は、失うものしかなかったこのプロジェクトから得た教訓と、自分が編み出した対処法についてお伝えします!

>>> その4 につづく(★バックナンバーはこちらから)

 

■片桐裕司さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/hollywoodfx/

■ハリウッドで活躍するキャラクターデザイナー 片桐裕司による彫刻セミナー
http://chokokuseminar.com/