【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード64:緑のヒーローとニューオリンズの街 -『グリーン・ランタン』

ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!


片桐 裕司 / HIROSHI KATAGIRI
彫刻家、映画監督

東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。
東京生まれ、東京育ち。1990年、18歳のときに渡米。スクリーミング・マッド・ジョージ氏の工房で働きはじめる。98年にTVシリーズ『Xファイル』のメイクアップでエミー賞受賞。その後、『ターミネーター』『エイリアン』『ジュラシックパーク』のキャラクタークリエーション等で有名なハリウッドのトップ工房スタンウィンストン スタジオのメインアーティストとして活躍(2000〜6年)『A.I.』『ジュラシックパーク』『タイムマシーン』『宇宙戦争』等の制作に携わる。現在、フリーランスの造形家、映画監督として活躍中。

エピソード64:緑のヒーローとニューオリンズの街 -『グリーン・ランタン』

映画『バトルシップ』の仕事(エピソード60:大いなる選択 -『バトルシップ』 参照)が途切れてすぐに『グリーン・ランタン』(2011年)というDCコミックスの映画の仕事の依頼が来ました。

『グリーン・ランタン』(2011年)

それは、ロサンゼルスから はるか東、ジャズの街ニューオリンズでの仕事でした。「緊急で助けて欲しいので 明日から来てくれ」とのことで、次の日に、早速手配された飛行機に乗って、 ニューオリンズに飛び立ったのでした。そして、現地に着くなり、早速仕事です。担当するキャラクターのメイクアップテストがすぐにあるらしくて、着いた その日から長時間労働。前にやった人のが気に入らなかったからやり直しだったそうです。「だったら最初から雇ってくれよ」と思いつつ、速攻で、その Abin Sur(アビン・サー)と言われる グリーンランタン に力を与える重要なキャラの造形をしたのでした。

グリーンランタンに力を与える重要なキャラ、アビン・サーの造形

結果は上出来で、監督も気に入り、そのまま本編でも使われることになりました。あと、ついでに 彼の死体の造形も全て修正したのは内緒です。

アビン・サーの死体の造形

アビン・サーの死体の造形

そのあと 少し落ち着いたので、ニューオリンズの街を楽しむことにしました。ヨーロッパの人たちがアメリカ大陸に移住してきた時に栄えた街だけあって、アメリカで最も古いカフェやバーなどが残っておりました。街並みは、ディズニーランドそのものです。

ニューオリンズの街。街並みは、ディズニーランドそのもの

とにかく、街全体が「パーティーの街」といった感じで、賑やかな場所を歩いていると、平日の午前中から酒を飲んで酔っ払ってる人たちがいっぱいいて、2週間に1度は、何かしら理由をつけてパレードがある。そして、そのパレードでは、お姉ちゃんが時々トップレスになったり、馬に乗った警官が警備してたり、そこらじゅう酔っ払いだらけと、とにかく賑やかな街なのでした。食べ物も Cajan Food(ケイジャンフード)と言って、そのエリアで発達した南部料理で、ロサンゼルス(LA)では なかなか美味しいものが食べられないけど、さすがに本場では非常に美味しかったです。特に ザリガニ料理は もう癖になってしまいました。

安くて量がすごい!

ザリガニを食べまくって気づいたけど、エビよりロブスターに近いのでしょうか? 「小型のロブスター」といった感じで、独特の生臭さを Cajan(ケイジャン)のスパイスでうまく料理すると非常に美味しいものになり「エビよりもザリガニの方が美味しい」と思ったくらいです。忙しく仕事をしつつも、夜や週末は ニューオリンズの街を堪能して「何てありがたい仕事なんだ」としみじみ思ったのでした。旅行よりも仕事で違うところに行けるのが1番ですね。何しろ、お金をもらって行けるのですから。

さて、あとやった仕事といえば、Sinestro(シネストロ)というキャラのデザイン造形

Sinestro(シネストロ)というキャラのデザイン造形

あとは Hector(ヘクター)というキャラも、キャラになりきって造形したりしてました

Hector(ヘクター)というキャラも、キャラになりきって造形したりしてました

とまあ、このように ニューオリンズを堪能しながら、楽しく仕事をしたのでした。

ちなみに、この映画では、主役のグリーンランタンのコスチュームを とある工房で作る予定にしていました。しかし結局「CGでスーツを合成する」というするということになり、みんながっかりしていました。ところが、やってみたら その出来があまりにひどくて、何と公開2~3ヶ月前になって、スタジオが1500万ドル(20億円近く)をかけて、CG の大規模修正をすることになったのです。「その修正の値段だけの金をかければ、すごいスーツができただろうに..」と CGに対する悔しさを私たちの業界(特殊メイクアップ&造形)の人間は幾度も経験することになるのでした。

ちなみに 私は、別に CG が嫌いではありません。いいものはいっぱいあります。しかし、ものによっては 明らかにうちらの分野でやったほうがいいものができるのに、今まで多くの作品がひどい CG に取って代わられる経験をしてきました。そういう経緯もあって、私たち業界の人間は、手放しに CG の技術を喜べないのです。両方の良さをうまく使える監督になりたいですね。

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