2Dイラストを 3Dで再現:「Swordfish Shack」のメイキング
3Dキャラクターアーティスト Alsu Rakhimova が、2Dイラストを3Dで再現する手順とヒント、そして、作品「Swordfish Shack」のメイキングを紹介します
はじめに
こんにちは、Alsu Rakhimova です。Think Tank Training Centre でゲーム用の3Dキャラクターを専攻し、現在は Firewalk Studios で働いています。
3D への旅は、2020年に 友人から この分野でのチャンスについて聞いたときに始まりました。それ以来、YouTube で Tobias Koepp や Yulia Sokolova といった多くの才能あるアーティストのチュートリアルを見て、定期的に 3D の勉強を続けました。その後、3D に専念することを決意し、Think Tank Training Centre のオンラインプログラムに登録しました。
01 アドバイス
この記事では、Rebecca C. Chan の美しいイラストを基にした作品「Swordfish Shack (メカジキ小屋)」の主要な制作段階について説明します。これは Darrell Abney の指導のもと、基礎課程の最終プロジェクトで取り組んだものです。計画、モデリング、テクスチャリング、ライティング、レンダリングの各段階について詳しく解説していきます。
モデリングから最終レンダリングまで
02 計画&リファレンス収集
このイメージには約70個のオブジェクトと2人のキャラクターが含まれています。そのため、作業を始める前に、以下のようないくつかの疑問を明確にする必要がありました:
• プロジェクトの山場は?
• ハードサーフェスオブジェクトのモデリングとテクスチャリングをどの程度スタイライズするか?
• X-Gen を使ってリアルな毛皮を作るか、それとも Mudbox を使って猫の毛皮をスカルプトするか?
これらの質問に対する私の答えは以下のとおりです:
• 毎日の大まかな計画を立て、予期せぬ作業やトラブルシューティングのために数日確保しておく
• ハードサーフェスのオブジェクトは、イラストよりもリアルにし、ディテールまで作り込む
• 時間を節約するために、Mudbox を使って猫の毛皮をスカルプトし、V-Ray の毛皮を追加する
初期プロジェクト計画
さらに、イラストに描かれた各アイテムの様々なリファレンスを集めるため、1日かけて Google と Pinterest を調査しました。これらは、オブジェクトをリアルで詳細にモデリング、テクスチャリングするために必要です。集め終えたら、Pureref を使って、アイテムごとにすべての画像を整理します。リファレンスがあれば、オブジェクトのデザインが不明確な場合にも重宝するでしょう。
イラストに描かれている各アイテムのリファレンスを集めます
03 ブロックアウトとカメラの位置合わせ
最初の数日間は Maya を使い、あとで詳細なオブジェクトになる予定の基本形状を作成しました。これらはコンセプトと同じ位置に、大きさの異なる球体や立方体を配置しただけです。また、新規カメラを作成し、そこに元のイラストを添付しました([アトリビュートエディタ]の[Shape]タブで[環境]>[イメージプレーン]に進み、[作成]ボタンをクリック)。
オブジェクトを追加する際に元のイラストと比較するために、すべてのオブジェクトを表示したり、非表示にしたりしました。このとき、すべてのオブジェクトを一度に非表示にできるショートカットを作成しておいたのが、とても役立ちました。(Maya でショートカットを作成する方法については、ヘルプ を参照)。
カメラの焦点距離とアングルもイラストに合わせて調整し続けます。ヒント:オブジェクトを追加していく際に、カメラを随時調整することを恐れないでください。誤ってカメラを動かしてしまった場合に備えて、カメラをロックし、FBXファイルとして保存しておくと良いでしょう。
この段階で、私はライティングの実験を始めます。そうすれば、イラストにおける光の働きと、どのオブジェクトがより多くの光を受けるかを理解するのに役立ちます。そして、後の段階でどのオブジェクトにより注意を払うべきかを把握することもできます。
ブロックアウト段階での主な課題は、カメラの位置合わせでした
04 モデリング
ブロックアウトに満足したら、個々のオブジェクトのモデリングを個別の Maya ファイルで開始します。シンメトリ機能を利用するため、すべての基本形状を原点(0,0,0)に配置し、オブジェクトの後ろのカメラにリファレンスを添付しました([ビュー]>[イメージプレーン]>[イメージの読み込み])。イラストの様々なアイテムの中には、ボウル、箱、段ボール皿、ガラス瓶のように形が似ているものもあります。これらはスケールツールで幅と高さを少し変形させるだけで、新しいオブジェクトにすることができました。
キャラクターのモデリングを終えた後、Aポーズでスカルプティングやテクスチャリングをする代わりに、すぐにポーズをつけることにしました。プロジェクトの目標は静止画のレンダリングだったので、この戦略によって時間を節約できると判断したからです。
モデリング
05 スカルプト
Mudbox で標準的な Wax、Knife、Grab、Crease などのブラシを使用して、毛皮を彫刻することにしました。シルエット(背中、頬の毛)に焦点を当て、猫の毛皮のような錯覚を生み出すために、毛皮のエッジをシャープではっきりさせています。その後、Maya のカーブツールを使ってひげを付け、そのカーブに沿って小さな円形の面を押し出しました。
次に V-Ray Fur ツールで非常に小さな産毛を追加し、ルックを補完しました(Length: 0.3、Thickness: 0.005、Gravity: -1.5、Bend: 0.4)。ヒント:V-Ray Fur は計算コストが高く、レンダリングに長時間かかるため、最終段階で追加し、テストレンダリング時はオフにしましょう。
魚のうろこには、シンプルなうろこステンシル/アルファ透明マップを使います。オブジェクトのスカルプティングを終えたら、 Akin Bilgig のチュートリアルを参考にディスプレイスメントマップをベイクし、これらのマップを Maya にエクスポートしました。
スカルプト:魚、猫、米袋、ほうきを複数のブラシで作成
06 テクスチャリング&シェーディング
テクスチャリングは、オブジェクトに多くのディテールを加える上で最重要パートの一つです。私の一般的なワークフローでは、Mari ですべてのオブジェクトにディフューズ、リフレクション、バンプチャンネルを作成します。バンプチャンネルがあれば、傷やひび割れといった表面の不完全さをスカルプトする必要がありません。時間を節約するために、同様のマテリアルを持つ複数のオブジェクトを一度にテクスチャリングします。今回はマテリアルに基づいていくつかのプロジェクトを作成しました:生木、塗装された木材、猫の毛皮、魚のうろこ、金属オブジェクト、布地など。
Mari でバンプチャンネルを作成すれば、法線マップで表面の凹凸を追加することができます
カメラから遠く離れた小さなオブジェクト(小さなガラス瓶や調理器具など)には Mari を使わず、シンプルな V-Rayマテリアルを使い、そのプロパティ(色、反射、屈折、屈折IORなど)を調整してテクスチャを作成します。
Pureref に実際のオブジェクトのリファレンスを用意していたので、それらを模倣し、できるだけリアルにマテリアルの経年劣化を表現しています(引き出しの塗装のはがれ、キッチン表面の傷や水滴、エプロンの汚れなど)。
いくつかのオブジェクトでは、ディフューズチャンネルに実際の写真を使っています。例えば、魚のテクスチャを作るとき、モデルにメカジキの写真を投影し、コンセプトに合わせて色を調整。反射チャンネルには、角度によってハイライトが違って見えるように、緑と黄色の色を加えました。これらのマップをシンプルなV-Rayマテリアル(Reflection Glossiness(反射光沢度):0.85、Refraction IOR(屈折IOR):1.6)に接続し、ひれの端が半透明に見える不透明度マップも適用します。
魚マテリアルのテクスチャチャンネル
Maya の[ハイパーシェード]ウィンドウの魚マテリアルの例:Mari からエクスポートしたすべての TIFFチャンネルを、シンプルな V-Rayマテリアルのプロパティに接続して、魚シェーダを作成
07 ライティング
ライティングでは、HDRI(スカイライトの役割を果たす)と、それを支える長方形の光源を組み合わせようとしましたが、うまくいきませんでした。理由は、光がコンセプトに描かれている時間帯と合わなかったためです。そこで、私は長方形のライトのみを使い、ライトの色、指向性、影響を与えるチャンネル、影響を与えるオブジェクトなど、ライトプロパティを調整しました。
特定のオブジェクト(醤油差し、天井のライト)の反射のみに影響し、拡散には影響しない小さな人工照明を作りました。これにより、特定の形や色の反射を作り出すことができました。また、1つのオブジェクトにのみ影響するライトも用意し、シーンの他の部分を台無しにしないように光を調整しています。人工的な影(下図の黒い面)をつけるのも、効果的でした。
シーンには40個の長方形の光源と5つの人工的な影の平面があります
08 レンダリング&ポストプロセス
V-Ray でプロジェクトのパスをレンダリングします:sRGB(V-Ray 環境フォグなしのビューティパス)、大気パス(環境フォグあり)、深度パス。
Photoshop でポスト処理する前のビューティレンダー
大気パス:コンセプトからいわゆる 「ゴッドレイ (神の光)」効果を再現するために、長方形ライトの1つに「Environment Fog」プロパティを割り当て、フォグのプロパティを調整します(Fog Distance(霧の距離):900、Fog density(霧の密度):0.4、Fog height(霧の高さ):200で望ましい効果になりました)。この画像を書き出し、Photoshop で「スクリーン」レイヤーとして、ビューティレンダーレイヤーの上に不透明度50%で配置します。
大気パスをスクリーンレイヤーとして使い、「神の光」を表しました
深度パス:カメラから遠い部分をぼかすため、マスクとして使います。まず、ビューティパスをコピーして「ぼかし(ガウス)」を適用し、深度パスをマスクとして追加します。このぼかしレイヤーは、元のレンダーパスの上に配置します。
深度パスは、遠くのオブジェクトをわずかにぼかすためのマスクとして使用します
最後に Photoshop でほこりの粒子と煙を加え、色相/彩度、明るさ/コントラストの調整で色補正を施します。非破壊的な方法ですべてを調整するのに、マスクは大きな助けとなりました。
最終レンダリング。タイムラプス動画 を見ることができます
プロのヒント1:毎日シンプルなレンダリングを作成する
進捗を確認するために、毎日レンダリングを作成してください(高品質である必要はありません)。これにより、作業を続けるモチベーションになり、進捗動画のための良い素材になります。
プロのヒント2:定期的にフィードバックをもらう
恩師である Darrell Abney と私の家族は、率直なフィードバックと提案をくれました。それがこの作品を改善する上で大いに役立っています。
プロのヒント3:ノンリニアワークフローもOK
ワークフローが順番どおりに進まなくても恐れることはありません。初期段階の些細なミスを修正したいなら、戻りましょう。ただし、あまり時間をかけないようにしてください。大抵の場合、鑑賞者が些細なミスを目にすることはありません。
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