2時間で描くスピードペインティング「かつての都市」
コンセプトアーティスト Serg Souleiman氏 が、 スピードペインティング「かつての都市」のメイキングを紹介します
はじめに
制作の初期の段階では、最終的にどのような絵にするかは決定できないものです。たいていの場合、イメージは、アーティストが制作しながら時間と共に発展していきます。このテーマへのアプローチで使用したプロセスは、面白い形を探すところからはじまりました。
何を描く場合でも、必ず何か参考になる物を用意すると良いのですが、今回は、特定のリファレンスを使わずに、2時間というスピードペインティング(早描き)でどこまでできるかを試してみることにします。早速やってみましょう...
01 色調
この絵には、まず サイズ13 の標準の円ブラシを用いて、筆圧の設定をオフにして、不透明度を75%に設定して使いました。雑草が生い茂った街というテーマを踏まえて、選んだ色はすべてくすんだ大地のような色調です(図01)。
図01
02 構図
初期段階では、できるだけ、物の形と その周りのスペースの部分の形に意識を集中して、この絵のパースがこれらの形を追求していくにあたって邪魔にならないように努めます。ある時点までは都市の風景でしたが、3つの垂直な建造物を配置したことにより、屋内のショットになりました。そういうわけで、屋内ショットという方向で行ってみることにしました。
私は、イメージを制作するときは、パースラインを引かないようにしています。できるだけ自由に形を追求できるようにしておきたいからです。この時点で構図を決めました。そして、これからペイントする空間は建物の土台部分で、今回のテーマで示されているように、草木に埋もれているという設定にすることにしました(図02)。
図02
03 光と影
構図が決まったら、光と影について考えます。画面左下からの補助光源を追加すると、色に変化を付けることができるので、瓦礫(がれき)を思わせる赤を使って、影の色に暖かみをもたせました(図03)
図03
04 明暗
この段階でパースラインを追加すると、繰り返し配置された物を描いたり、「01 色調」で発見した形の輪郭を定めるのに役に立ちます。そろそろこのあたりでイメージの明暗もチェックしておいた方がよいでしょう。この作品では明度は、前景(ライトが床にあたっている領域)の値を10、中景の値を4、背景の値を6としました(図04)。
明暗について考えるときは、明、暗、明、暗(以下略)の順番にすると良いです。暗のとなりを暗にすると、境界が分からなくなります(時にはそうしたいこともありますが)。
図04
05 幻想の世界
スケールを設定するために人物を追加したところで、このキャラクターに対して不安そうな感じを作ってみたくなりました。イメージ内に垂直な物があると安定感が作られるので、垂直だった物を左に傾けて全体の明度を暗くすることで、目指していた幻想の世界を表現できたようです。それから、もう少し希望のような感じを与え、繰り返しの印象を抑えるために、中央にあった柱の一部を無くしました(図05)。
図05
06 仕上げ
この段階で、すべてをまとめる作業に入ります。標準のブラシを使って、さらにディテールを追加します。ブラシは、テクスチャオプションにチェックマークを付け、イメージのパースに合わせてブラシの角度を設定して使いました(図06)。
図06
ここでの主要な変更は、遠くの空間にあるものほど物の明暗の差が少なく見えるという空気遠近法に従って、イメージの明暗を区別して付けていったことです(図07)。
図07 最終イメージ
おわりに
最初に描きたいと思った雰囲気、環境、スケール感が出せたので、この時点で私はイメージに満足しました。このイメージをコンセプトアートとして使った場合は、3Dアーティストの作業の良い出発点となるのではないかと思います。また、これがマットペイントであれば、次の手順では、エッジをきれいにしたり、選択ツールを駆使したりしながら、写真のようなテクスチャを使う作業になるでしょう。
※このチュートリアルは、書籍『Digital Painting Techniques 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。
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