【特別寄稿】造形家 / 映画監督 片桐裕司の いろいろあっていいんじゃない?|エピソード7:行け!おやじんザボーガー!
ハリウッドで彫刻家、キャラクターデザイナー、映画監督として活動。日本で開催する彫刻セミナーは毎回満席の片桐裕司さんのエッセーです。肩の力を抜き、楽しんでお読みください!
エピソード7:行け!おやじんザボーガー!
質はひどいけど、あの頃の「面白いものを作りたい」という気持ちは大切にしたいと思う今日この頃である
高校のとき、私は演劇部に所属しておりました。そして、2年生のときの定期公演で私の役は「スーパーマンの格好をして "お父さん" と呼ぶ等身大のダミーと一緒に空を飛ぶ事を夢見る誇大妄想狂の変態キャラ(本当)」であり、その "お父さん人形" の制作をする事になったのである。そのとき、すでに今の造形の仕事をしようと思っていた訳ではないが、こういう事は大好きなので「よっしゃ、やってみっか」という事でテキトーに始めました。
等身大のダミーなんて、どうやって作ればいいのか?
まず、とりあえず家に「お面の作り方」という本があったので、それを参考にする事に。「板の上に顔を粘度で造形し、その上にちぎった和紙をボンドをつけながら重ねていき、それが乾いたら、粘土から外して出来上がり」という単純なものであった。へたくそながらも前半分の顔がなんとか出来上がり、同じ要領で頭の後ろも作り、2つをつなげて頭部の完成。紙なので、色も絵の具かなんかで塗ったと思う。やってみるとなんとかなるもんである。
それから体の制作。友人の父親からもらった親父くさい古着の中に肩から足までの長さの園芸用の棒を2本突っ込み、あとは適当にスポンジを切って、服の中に詰め込む。なんとか人の形はできたが直立不動で手もついてない。まぁ、設定があからさまな人形という事なので「これでいいだろう」と自分に言い聞かせつつなんとか完成した。
しかし、その直後に、思いもよらなかった大問題が自分を襲うのである。
そんな事を知らずに高校2年の青二才の私は満足げに、自作のしょぼいダミーを眺めてしばしの達成感に浸っていた。その達成感の最中に恐ろしい事に気づいてしまったのである。
どうやって学校に持っていこう?
そう。ここは自分の家。作ったものを学校まで持っていかなければならないのである。その当時、自分の通学手段は電車か自転車。通勤通学ラッシュの中、親父人形を抱えて、その中に飛び込むなんて事はできない。女装して乗るのと同じくらい恥ずかしいと思う。その恥ずかしさがいずれは快感になるのだろうけど、高校生のうぶな私には、まだ、その経験はなかった... その時はまだ... いや、この話はやめておこう。
残る手段は自転車。しかし、等身大の人形をどうやってのせよう? 試行錯誤の結果、なんとかそれが可能な姿勢を発見。図解するとこう(図01)。
図01:図解するとこう
こ... これは...電人ザボーガー...(図02)
図02:こ... これは... 電人ザボーガー...
子供の頃に夢中になったヒーローに自分もなれた!!
とりあえず急遽、そのときだけ "おやじんザボーガー" とこのマシンを名付けた。しかし、当然これでもかなり恥ずかしいので、その日はいつもよりもずいぶんと早く出る事に。
行け!おやじんザボーガー!
気合いを入れて肌寒い冬の朝、いざ出動したのであった。
そして、すぐにある事に気づいた。
親父が邪魔でハンドルがきれない。
そう。親父がしっかりハンドルの上に乗ってるのでハンドルを曲げられないのである。普通の運転ではカーブは曲がれないのである。方法はただ1つ。親父とともに自転車を傾けて曲がるのだ。図解するとこうだ!(図03)
図03:図解するとこうだ!
肌寒い冬のきれいに晴れた青空の下。風を切りながら感じる自転車と親父との一体感。
ああ、今、僕は親父と一体になっているんだ!
ああ、もう少し、もう少し、このままで。
おやじーーーーー!
気がつくと、もう、そこは学校。無事にたどり着いたのでした。
今から思うと、これが今の仕事の第1号なんだろうなぁ。残念ながら、写真をぜんぜんとってなかったので見せる事はできないが。質はひどいけど、あの頃の「面白いものを作りたい」という気持ちは大切にしたいと思う今日この頃である。
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