【インタビュー】悩む前に、まず行動してみる:3Dジェネラリスト Negro Elkha 氏
独学の 3Dジェネラリスト Negro Elkha 氏 が、その制作活動やインスピレーションなどについて語ります

Q. 自己紹介をお願いします
本名は Antonio、デジタルの世界では「Negro Elkha (ネグロ・エルカ)」という名前で活動しています。スペイン南部の小さな村の出身で、職種は 3Dジェネラリスト、あるいは 単に 3Dアーティストと言うのでしょうか、自分でもよくわかりません! 独学でアーティストになり、書籍やマニュアル、チュートリアルから貪欲に学びました。その成果は作品にも表れていると思います。目標とする結果を得るために独自のアプローチを試みる一方で、正式な3D教育を受けていれば 防げたかもしれない失敗も経験しました。
現在は、コンテンツ制作の分野とグラフィックデザインの分野で仕事をしています。CGIを使ってデザインを強化したり、クライアントの製品の3Dモデルを作成したりしています。
「Boat (ボート)」(Kevin Boulton氏 の作品にインスパイア)
Q. 制作ワークフローをおしえてください。アイデアはどこから得ましたか?
それぞれのプロジェクトには異なるストーリーがあります。インスピレーションを受けて完成させるものもあれば、単に自分の技術をどこまで高められるか試したり、誰も思いつかなかったような奇抜なアイデアを追求したりすることもあります。
ギャラリー公開している作品「Time to go (出発の時)」のアイデアは、自然に思い浮かびました。このキャラバン(移動式住居)と風景は実在し、その所有者は、私の親しい友人です。特に理由もなく、彼は文明から離れたところで数年間キャラバン生活をしていました。オッドアイ(左右、色の異なる瞳)を持ち、軍事関係で働くマッドサイエンティストタイプの人物です。
彼とつるんでいたころは、よくドキュメンタリー風のコメディ番組『古代の宇宙人』を一緒に見ていました。そして、幸運にもその付近は光害が少なかったおかげで、驚くような天文現象を何度も目にし、たくさんの風変わりな体験もできました。そのような瞬間から、「実は、この友人が別の惑星出身で、キャラバンは宇宙船だった」というアイデアが生まれ、それを、3Dビジュアルイメージにしてみようと思ったのです。
このプロジェクトのモデリングはすべて Cinema 4D で行いました(外観の一部アセットは Sketchup から取得)。テクスチャリングとレンダリングには Octane Render を、流体シミュレーションには TurbulenceFD と Realflow を使用しました。
「Time to go (出発の時)」
Q. 制作で苦労したことはありますか? 新しい学びはありましたか?
「Time to go (出発の時)」では明確なアイデアがあったにもかかわらず、実際に手を付けるまでに数カ月かかりました。というのも、私にとってパーティクル シミュレーションがまったく新しい分野だったからです。新型コロナウイルスの危機が始まったとき、仕事量が減少したため、「ついに挑戦する時が来た」と決意しました。
煙の作成に使えるソフトについて調べ、適切なプラグインを見つけました。その機能を学び、本当にリアルな感触の煙を作成できるかどうか、テストを行いました。結果は完璧とは言えませんでしたが、プロジェクトとして進めるのに十分だと判断しました。
「複雑すぎてできない」と思うとき、その考えは幻想にすぎないことが多いです。それは、未知のものに対する錯覚に過ぎません。私のアドバイスは「できるかどうかと悩む前に、まず行動してみること」です。忍耐強く続けていれば、思い描いたことは必ず形になります。
古いバージョンの Turbulence FDで作った煙(40GBのRAMでは、超フォトリアリスティックにはできませんでした)。流体は Realflow で作成
Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあればおしえてください
私はポートフォリオの扱い方についてアドバイスできる立場にはないでしょう。数年前、新しいクライアントを獲得することを念頭に置き、ポートフォリオを作成しました。死に物狂いで一ヶ月間作業して完成させ、さまざまな企業に送りました。結果的にいくつか返信はありましたが、高品質な作品を称賛するだけで、サービスに興味を示した企業はありませんでした..。
私のクライアントはすべて紹介や口コミによるものです。CGIやアニメーション業界では、多くの場合、正しいコネクションを持ち、それらの企業に営業することで仕事を得られると感じています。この業界を目指す人たちの幸運を祈ります!
「Legend Monza」
Q. 芸術的な目標はありますか?
いい質問ですね! たくさんアイデアはありますが、それらを始めるには時間が足りません。今はまだ夢物語に聞こえるかもしれませんが、私の目標は、人生のある時点で、他の誰かのために働く必要がなくなり、時間とハードウェアの制限もなくなり、ただ思いついたものを何でも創作できるようになることです! スペインには「勤労は人を高める」という意味のことわざがありますが、私はあまり好きではありません。
「Legend Etna」
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください
さまざまな背景を持つ多くのお気に入りのアーティストがいます。まず、シモン・ストーレンハーグ と Jakub Rozalski の想像力に溢れた独自の世界観が大好きです。Ash Thorp の洗練されたセンスや Edon Guraziu のパラメトリックモデルからもインスピレーションを受けています。より古典的な観点では、ピラネージ、デューラー、ドレ の彫刻や銅版画にいつも魅了されてきました。彼らの作品は「高度な技術の背後には緻密な努力の時間が隠されていること」を思い出させてくれます。シンプルな作品も良いですが、私には合いません。他に思い浮かぶアーティストとしては、光と影を崇高なまでに昇華させた巨匠、カラヴァッジョ と ベラスケス がいます。
この短い紹介の中で、素晴らしいアーティストの名前をすべて挙げることができないのは残念ですが、最後に言及しておきたい人物が、ロジャー・ディーキンス です。『ブレードランナー2049』『ノーカントリー』『007 スカイフォール』『1917 命をかけた伝令』のような映画で彼の仕事を見るたびに、私は無限のインスピレーションを受け取っています。彼の仕事からは、完璧さ、センスの良さはもちろん、仕事への深い愛情までもが伝わってきます。
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「Rockatansky is back」
Q. 近年の作品についてお聞かせください
先ほど述べたように、まだ多くの未完成のアイデアがあり、自由な時間にそれらを形にしていきたいと思っています。学ぶべきこと、やるべきことはまだまだたくさんあり、新しいことにも挑戦しています。それはアナトミーモデルで、新しいテクスチャリング技術を学び、リアルな髪の毛を作る方法を模索しました。最後に、このインタビューの機会を与えてくれたことに感謝します。
「Ibanez Jem Dark Matter」


「Broken Chord」
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