【インタビュー】卓越したものを追い求め:3Dアーティスト Vikas Kumar Prajapati 氏
インドの 3Dアーティスト Vikas Kumar Prajapati 氏が、その制作ワークフロー、目標、インスピレーションについて語ります

映画『1917 命をかけた伝令』『ゴリラのアイヴァン』『白雪姫』、AAAゲーム『INSTINCTION』などを手がけてきた 3Dアーティスト Vikas Kumar Prajapati 氏は、現在 Hashbane Interactive に所属しています。その制作ワークフロー、目標、インスピレーションについて紹介します
Q. 自己紹介をお願いします
インドのジョードプル出身の Vikas Kumar Prajapati です。Lakshya Keywords Studio ではシニアキャラクターアーティスト、MPC ではキーアーティストとして働き、現在は Hashbane Interactive で 3Dアーティストとして AAAタイトルのゲーム制作に携わっています。
実はキャリアの初期にも MPC に3年(2017~2020年)ほど在籍し、映画『1917 命をかけた伝令』ではアカデミー視覚効果賞を受賞したチームの一員として働きました。また、『ゴリラのアイヴァン』『ラブ&モンスターズ』ではアカデミー視覚効果賞と VES にノミネートされました。これらの作品では、キャラクターやクリーチャーアーティストとして参加しました。
Q. 制作ワークフローをおしえてください。「Galad」のアイデアはどこから生まれましたか
『ロード・オブ・ザ・リング』を観ていたとき、「リアルなエルフのキャラクターをシンプルかつ有機的な方法で作る」というアイデアが浮かびました。同時に「自然や野生との関連性も持たせたい」と考えました。エルフの基本的な特徴を理解するために、インターネット上の画像を参考にしましたが「デザインはユニークなものになるように」心がけました。
このキャラクターの基本的なデザインとモデリングの全工程を ZBrush のみで行いました。これが ZBrush の素晴らしいところであり、創造の自由が妨げられることはありません。私は常にシンプルなアプローチを心がけており、初期段階ではフォームや特徴に多くの注意を払います。その後、ディテールをレイヤーに分けて仕上げていきます。
「Galad」:スカルプティングとモデリングに ZBrush を使用
すべてのディテールも ZBrush で一から作り上げました。特に、角やトゲ、損傷した肌の表現には、ミュータントやハイブリッドの肌のディテールを表現する VDMブラシを作成。これは、デザインで簡単な実験を行うのに役立ちました。その他のディテールには、デフォルトのブラシとアルファを使っています。スカルプトを終えたら、デシメート(ポリゴン削減)のため、モデルを Maya に読み込みます。
シェーディングには Arnold を使い、standardSurfaceシェーダを作成。その際、拡散反射には aiCurvatureノードを接続し、サブサーフェスマスクを追加して、キャビティ(凹み)やワックス感を表現しました。これにより、彫像のような質感を目指しました。最後に、メインライトとリムライトを配置して、ドラマチックな効果を加えています。この作品ではライティングが最も重要な役割を果たしています。ライトでフォームに明度とコントラストを与えるため、ポートレート写真のテクニックを学びました。焦点距離を 100〜130mm に設定し、遠くの被写体を引き寄せる効果を利用することで、キャラクターのボリューム感が強調され、重要な要素となっています。最後に Photoshop でハイライトと影を調整し、仕上げを施しています。
Q. 「Galad」の制作で苦労したことはありますか? 新しい学びはありましたか?
頭部のフォームと角のデザインを気に入ったので、これらのパーツのスカルプトに時間をかけました。この作品の見どころは「シンプルなデザインの中にある強いキャラクター性」です。それが私にとっての主な挑戦であり、とても良い経験になりました。数年前まではディテールにこだわりすぎていましたが、今では、フォーム、解剖学、形にも同じくらい注意を払うようになりました。
「Galad」
Q. 仕事や個人プロジェクトで他に使用しているソフトウェアはありますか?
PureRef は、リファレンスのムードボードを作成するのに役立っています。ZBrush はスケッチやスカルプトを始めるときの最初のツールですが、その後は必要に応じて、Maya、Substance 3D Painter、Mari、Arnold、XGen、Photoshop、Nuke などのソフトを使用しています。
「chimp "Patrick"(チンパンジーのパトリック)」
Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあればおしえてください
私は純粋な3Dアーティストでなく、モデリング、テクスチャリング、ライティング、ヘア、ゲームアートなど、あらゆる分野に精通しているわけではありませんが「そうなりたい」と思っています。そのため、制作過程で常に自分自身に挑戦し、毎回新しいことに取り組むようにしています。これまでに制作した作品はすべて、そのプロセスの副産物なのです。CGアートを作るのが好きなだけで、楽しめている限り、個人制作を続けていくつもりです。
プロのヒント:もし本当にアートが好きなら、その情熱を形にする方法を見つけ、自分自身を追い込み、とにかく行動に移してください。
「Sarcosuchus -Instinction(サルコスクス Instinction より)」
Q. SNS を使っていますか? お気に入りのハッシュタグをチェックしていますか?
SNSアプリを頻繁に使いませんが、インスピレーションを得るために Artstation、3dtotal、ZBrushCentral、Pinterest を定期的にチェックしています。
「Galad」
Q. 芸術的な目標はありますか?
アーティストとしての私の最初の仕事は「卓越したものを追い求めること」です。子供の頃から、視覚化することや絵を描くことが得意でした。2012年に観た『アバター』が、私にとって CGIとの最初の出会いでした。
キャラクターデザインで色々試してみたり、ZBrush で形やフォームを探求したりするのが大好きです。また、プロとしての仕事もインスピレーションを与えてくれます。なぜなら、自分のCG作品が数百万人もの人々に見てもらえるからです。しかし、最も重要なことは、それが芸術であれ何であれ、学びと知識を得ることに焦点を当てたマインドセットを持つことでしょう。私は、自分にとってユニークで、後で見返したときにインスピレーションを与えてくれるような作品を作るようにしています。
「rhinoceros(サイ)」
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください
お気に入りのアーティストは何人かいます。Zhelong Xu、Maria Panfilova、Ran Manolov、Peter Mohrbacher など。他にもたくさんいますが、ここで挙げたアーティストはユニークで有機的な作品を制作しています。彼らは純粋なアートを生み出し、その作品からはマインドセット、雰囲気、姿勢など、学ぶべきことがたくさんあります。とりわけ、Maria Panfilova のアートスタイルが気に入っていますね。
Q. 近年の作品についてお聞かせください
芸術的な観点において、私は気分屋で、常に何か新しいことに挑戦しています。特定のパターンやアートスタイルに縛られず、完成したイメージが(少なくとも自分にとって)良く見えることが重要なのです。今後も、3Dプリント用の作品やゲームアートへの取り組みを楽しむことでしょう。
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