似顔絵を作ることに情熱を:キャラクターアーティスト Robert Smith 氏

『FIFA20』『Need For Speed Heat』『The Last of Us』シリーズなどの AAA ゲームタイトルを手がけた キャラクター アーティスト Robert Smith 氏 が語ります


Robert Smith
シニア キャラクターアーティスト|米国


Q. 自己紹介をお願いします

オーストラリア出身のシニア キャラクターアーティスト Robert です。ゲーム業界に入り、 『FIFA20』(Electronic Arts)、『Need For Speed Heat』(Electronic Arts)、『The Last of Us』(Naughty Dog) といった大作ゲームシリーズの制作に携わってきました。リアルなキャラクターを作るのが得意で、「似顔絵 (ポートレート)」を作ることに情熱を傾けています。それらを作成することによって、常に多くのことを学んでいると感じているのです。

 

個人プロジェクト「ジョナサン・イングラム」(『ポリスノーツ』より)

★『Need For Speed Heat』 公式ゲームプレイトレーラー(4分2秒)
★The Last of Us 日本プレミア版トレーラー(2分40秒)

Q. 制作ワークフローをおしえてください。アイデアはどこから得ましたか

個人プロジェクト「ジョナサン・イングラム」は、重要なアイデアと目標を基に進めました。着手した最大の理由は「自分のスキルを示すため、ポートフォリオ用の新作を作る必要がある」と感じたからです。俳優の似顔絵で完全なゲームキャラクターを作るのはとても刺激的で、キャラクターアートにおける私好みの側面も併せ持っています

当時、AAAゲームのリメイクにとても期待していました。その影響もあって、昔のゲームキャラクターを現代のグラフィック、技術、ワークフローで作ろうと思ったのです。私は、1994年に発売された『ポリスノーツ』(コナミ:現コナミデジタルエンタテインメント(KDE))の大ファンで、今回作成したのはその主人公 ジョナサン・イングラムです。このキャラクターは、業界の標準的なワークフローで作成しました。

衣服は Marvelous Designer で始まり、納得のいく仕上がりになるまで何度かイテレーション(反復作業)を行なっています。さらに、ZBrush で折り目のスカルプティング、ディテールアップ、クリーンナップを行い、Maya でローポリとUV展開を行いました。マップは Marmoset Toolbag でベイクし、PBRテクスチャは Substance 3D Painter で作成しました。

キャラクターモデルは ZBrush でスカルプトし、高周波の毛穴のディテールには、TexturingXYZ のディスプレイスメントマップを使っています。肌のテクスチャはリファレンス写真と TexturingXYZ を組み合わせて作成しました( TexturingXYZ で そのワークフローを詳しく紹介しているので、詳しく知りたい方は、こちら をご覧ください!)。

衣服のモデリング/スカルプティングは、Marvelous Designer と ZBrush を使用

プレゼンテーション(演出)を正しく行うことは、私にとって非常に重要でした。自分のキャラクターをどう表現するかについて、たくさんのアイデアがあったので、すべて実行することにしました。こうして、インスピレーションを与えてくれた SF映画 や ノワール映画、ゲームに基づいたさまざまなライティングセットアップに辿り着きました。

異なるポーズをとらせたり、さまざまなプレゼンテーションのショットにしたりすることで、作品を披露するときに、すべてのアイデアを網羅できたような気がしました。例えば、ライティングセットアップとポーズは、1つだけやるよりもずっと時間がかかりましたが、満足のいく仕上がりになりました。

タバコを手にするジョナサン

タバコを咥えるジョナサン

Q. 制作で苦労したことはありますか? 新しい学びはありましたか?

「ジョナサン・イングラム」は大きな転機となりました。それまでの個人制作を通じて、すでに多くのことを学んでいましたが、新しい経験の実践することで、さらに前進することができました。キャラクター全身を作ることにこだわったのは、新しく学んだスキルを定着させるのに役立つと感じたからです。プロとしての仕事と同様に課題もありましたが、今回はそのほとんどが、完璧主義者である自分自身から生じるものでした。

「もっとうまくやろう」と自分を奮い立たせ、自信が持てないときは作り直しました。例えば、Marvelous Designer を学ぶことに集中したせいで、でき上がったジャケットの品質に満足できず、少なくとも1度は作り直しました。後悔はしていませんが、作業をやり直すのはいつもイライラさせられます。いつもその悔しさを抑え込むため、「失敗から学べるので 時間の無駄ではない」と考えるようにしています。

個人プロジェクトで使っているソフトは、ほとんどの仕事でも使用しています。こうして、ワークフローを合理化し、物事が複雑になりすぎないようにしています。使っているのは、ZBrushMayaSubstance 3D PainterMarvelous Designer3DCoatMarmoset ToolbagPhotoshop です。しかし、多くのスタジオは、Maya ような特定のプログラム用の独自のインハウスツールやアドオンを持っています。

ジョナサンの頭部

Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあれば おしえてください

ポートフォリオを最新に保つ最善の方法は、基本的に「日々の仕事の延長として捉えること」だと思います。特に一時契約で、作成中のゲームが3~5年は表に出てこない場合はなおさらでしょう。当たり前に聞こえるかもしれませんが、多くの人が個人制作に時間をとらず、その結果、ポートフォリオは時代遅れになっています。もちろん、プロの仕事は大変厳しいので、誰もが時間を作れるわけではありませんが、勉強やポートフォリオの更新のために余暇を犠牲にしなければならないこともあるのです。

よりエキサイティングな方法は、プロジェクトごとに新しい挑戦をすることです。新しいプログラム、テクニック、アートスタイルを学ぶなど、新しいものを作るのに興味を持ち続けられるような目標を設定しましょう。「ただ新しいキャラクターを作る」以上の目的が常にあれば、とても取り組みやすくなります。

ジャケットを着たジョナサン / ポロシャツのジョナサン

Q. SNS を使っていますか? お気に入りのハッシュタグをチェックしていますか?

はい! 現在、約82,000人の会員がいる Facebook グループ 「10 Thousand Hours」の運営を手伝っています。このサイトは、制作途中の写真を共有してフィードバックをもらえたり、他の人が取り組んでいる作品を見たりできる良い場所になっています。このようなグループに参加し、定期的に投稿すれば、オンラインゲームアート コミュニティに溶け込むことができます。開発者を目指す人にとっても役立つでしょう。

Q. 芸術的な目標はありますか?

私は似顔絵が大好きで、まだまだ上達できると感じているので、個人プロジェクトのほとんどは似顔絵を中心に計画しています。また、スタイライズキャラクターのコンセプトを描く素晴らしい2Dアーティストをたくさんフォローしているので、そういったキャラクターをゲームキャラクターとして作ってみたいですね。忠実に転写できるように、もっとスタイライズ キャラクター アートを学ぶつもりですが、いつになるかはわかりません。1日24時間以上あればよいのですが..。

ルックデヴ

Q. 近年の作品についてお聞かせください

今は別の似顔絵プロジェクトに取り組んでいて、ゲームキャラクターとして全身を作成するつもりです。まだ序盤ですが、もう少し進んだらネットでシェアしようと思います。最後に、とても楽しかったです。インタビューに時間を割いてくれた 3dtotal に心から感謝します! 今後の作品をコミュニティと共有する日が待ちきれません!

サラ(『The Last of Us』より)

 


編集部からのヒント:人型キャラクター制作のリファレンスには『アーティストのための人体解剖学ビジュアルリファレンス』を、制作テクニックを習得するには、書籍『3Dアーティストのための人体解剖学』 やおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp