スピードペインティング:写真へのペイントオーバーで描く「未来の街」

コンセプトデザイナー Ioan Dumitrescu氏 が、写真をベースにしたスピードペインティングの制作過程を紹介します


Ioan Dumitrescu
フリーランス コンセプトデザイナー|ルーマニア

このチュートリアルでは、写真の「ペイントオーバー」を実行します。このテクニックは、映画のセットやロケーションの写真を与えられ、それを格好良く加工しなければいけない場合に使用すると良いでしょう。美術監督は数時間しか与えてくれないかもしれないので、作業に丸1日費やすことはできません。

01 はじめに

簡単な課題にはしたくないので、面白味のない道路を選びました。何も特別なものはありません(図01)。しかし、あなたはコンセプトデザイナーとしてこれから何かを生み出し、作り出すことが要求されます。

図01:デジタル加工を始める面白味のない道路

通常はクライアントからテーマを与えられて作業しますが、このチュートリアルでは私がテーマと作品を変更する自由度を決めました。今日のデジタルの世界では、ゲームであれ映画であれ、それぞれのビジョンに合わせて何でも変更することができます。

書籍を含め、インスピレーションはどこからでも得ることができます。ちょうど アンディ・ウィアー『火星の人』を読んでいたので、この作品に火星の雰囲気を取り入れることにします。トラム(路面電車)のような乗り物とたくさんの人物を加えて、行き交う人々と交通量であふれた、アジアのようなシーンを作っていきましょう。

最初に色彩の効果を加えるため、円ブラシで色を描きます。乾燥した砂漠のような火星のカラースキームを目指しているので、オレンジや柔らかいマゼンタなどの暖色系が最適です(図02)。シーンをもう少し長くしたいのでカンバスを拡張しましょう。

図02:色彩の効果を加えると、写真のムードが変わります

02 ムードを変える

フォトバッシングは時間の大幅な節約につながりますが、合成でかなり時間を要することもあります。ここではその中間を目指しましょう。近未来的のシーンを描きたいので、目指しているムードと合うような「ブルータリズム建築の建物」の画像を探してください(図03の右側を参照)。

続けて、左側の中景と中央の背景の色調を補正しましょう。もっと均一にして、いくつかの目立つ領域が必要です。ライティングは、オリジナルの写真を参考にしてください。

図03:フォトバッシングで、シーンのルックとムードをガラッと変わります

03 交通車両

交通車両の要素を加えて、シーンに活気を与えましょう。前方に止まっている車は見た目が悪く、近未来的な雰囲気とは言えません。この車を別レイヤーに選択、[ワープ]や[自由変形]で形状を変えて適切なルックにします(図04 / 05)。

図04 / 05:テーマに合わせて既存のパーツを変形させる

他にも交通車両の要素を加えるとシーンがにぎやかになるので、今回はトラムを加えましょう。トラムのサイズを変更するには車と同じプロセスを実行します。それぞれのパーツを選択し、[自由変形]を使って特徴を変形してください。トラムの一部を影から出してハイライトを加えると、イメージにコントラストと面白味が加わります(図06)。

図06:イメージの一部にハイライトを加えると、コントラストと面白味が生まれます

04 背景のディテールを作成する

背景には近未来的なルックが必要なので、左側の壁をアルミの質感で仕上げ、奥の強い太陽に対して超高層ビルのシルエットを加えましょう。大気中のスモッグと埃が、この色彩豊かな美しい雰囲気を作り上げています。右側の階段には光を追加。これで鑑賞者の視線はあちこち動き回りながら、シーンに引き込まれることでしょう。

色の選択は難しいので、自信がないときは新規レイヤーを作成して色を試してください。[レベル補正]や[色相・彩度]などで調整、いつでも背景にディテールを追加すると奥行きが増します 変更できます。

図07:背景にディテールを追加すると奥行きが増します

05 シーンに生命を吹き込む

本格的にこの作品に生命を吹き込みましょう。まず、リファレンスから人物を加えていきます。ここでは、タイ旅行で撮影した写真を使用します。トラムの周囲のシーンを主な焦点にしたいので、これを取り囲むように人物を配置。その手前には、視線を止めて休めるための空間を空けておきます。前景から入ってくるスクーターの男性が鑑賞者をイメージに引き込みます。

多くの領域がきれいなままなので、後景にノイズを加えていきましょう。標準の円ブラシで、看板や配管を追加。これらに写真を使う必要はありません。脳は十分な情報を与えればギャップを補完します。この場合は、暗めで高彩度のマゼンタや赤紫色を適度に加えています。それらはとてもきれいなカラースキームです。機能面を考慮すると、トラムには架線と車体を繋ぐポールが必要です。さっそく、これらも追加しましょう。

図08:シーンに人物を加えると活気が出ます

06 仕上げ

背景がかなり雑然としているので、中景にノイズを加えてバランスをとりましょう。落ち着いた感じの右側は、目を休める良い場所になります。トラムのフロントガラスの反射を暗くして、背景と合わせます。また、オリジナルの写真からデジタルディスプレイを持ってきて、トラムに識別番号を追加。このように、実際の機能を持つ小さなディテールを加えると真実味が出ます。

人物たちの頭が同じ水平面上にないことに着目してください。今回、道路のわずかな傾きによってトラムがこちらへ登ってくるように見せたかったので、角度のあるパースになっています。これにより、作品に興味深い側面が加わっています。仕上げに[ノイズ]フィルターを少し加えて、不透明度を下げたら完成です。

 

図09:最終イメージ

※本チュートリアルは、書籍『スピードペインティングの極意』からの抜粋です

 


編集部からのおすすめ: フォトバッシュやブラシのテクニックで 素早く絵を仕上げる技法、スピードペインティングを学ぶには 書籍『スピードペインティングの極意』や 書籍『Photoshop で描くデジタル絵画 完全改訂版』をおすすめします。

 


翻訳:STUDIO LIZZ
編集:3dtotal.jp