【インタビュー】科学イラスト、世界観の構築、旅:イラストレーター Bruce Brenneise 氏
『Numenera』や『Slay the Spire』のイラストレーター/コンセプトアーティスト Bruce Brenneise 氏 が、科学イラスト、世界観の構築、そして、旅が作品づくりに与える影響を語ります

Q. 自己紹介をお願いします
名前は Bruce Brenneise、風景や環境を専門とするフリーランスのイラストレーター/コンセプトアーティストです。プロとして活動して約10年になりますが、特に有名なのは、テーブルトップ RPG『Numenera』や 話題のインディーゲーム『Slay the Spire』での仕事です。もちろん、他にもさまざまな企業やプロジェクトで働いてきました。これまで ミシガン、トルコ、中国に住んだ経験があり、現在は、米国北西部の素晴らしい街シアトル(噂ほど雨は多くありません)を拠点に活動しています。
「Building Tomorrow」は『Numenera』のために制作した作品で、とても気に入っています。全体的にディテールが込み入った作品ですが、描くのが最も楽しかったのは背景全体を包む夕焼けの空でした!
Q. 科学イラストを専門としていた経験は、どのように活かされていますか?
ミシガン大学で美術学士号を取得する際に、科学イラストを専攻しました。当時のプログラムが急速に典型的な抽象表現やポストモダン的なアカデミックアートに傾倒していく中で、それは確かな技術スキルを教えてくれる数少ないコースの1つであり、本当に素晴らしいコミュニティでした(リアリズムに必要な技術を重視し、同時に科学や自然界の不思議に魅了されたアーティストたちが集まっていました)。
この授業のおかげで、観察力やデッサン力は大きく向上しましたが、その頃からいつも、自分のスキルをファンタジーや想像上の題材に活かす機会を探っていました。最終課題の1つとして、世界各地の民間伝承に登場するモンスターのイラストを制作したこともあります。
Q. プロのアーティストになるためには、正規の教育が重要だと思いますか?
実際の建物で受ける教育には価値があると思いますが、急速に膨れ上がる大学の学費を考えると、必ずしもコストに見合うとは言えません。ただ、良い教育機関でのネットワーク作りには素晴らしい側面があります。
工学、微生物学、人類学、歴史、文学などに情熱を注ぐ優秀な頭脳との出会いは、アーティストにとって多くのインスピレーションをもたらし、素晴らしい友人や人脈も得られるでしょう。また、プロとしての文章力を身につけることの重要性も強調しておきたいです。
とはいえ、技術、ビジネス、創造性のスキルについては、オンラインコース、メンターシップ、刺激的なアーティストとのワークショップを組み合わせると、大学教育の数分の一のコストで習得可能です。私のアーティストとしての成長の6〜7割は、大学卒業後にこうした方法によって得られたものだと感じています。お金に余裕があるなら大学に行き、ビジネスや芸術以外の授業も受けるべきです。そうでないなら、より費用対効果の高い道を選ぶことをお勧めします。
「GREYHAWK」
Q.『Slay the Spire』の仕事と、このプロジェクトに惹かれた理由を教えてください
実は『Slay the Spire』の仕事は偶然の出会いでした。シアトルという街は、インディーゲームの開発シーンが活気に満ちていて、その関連イベントに、よく私は参加していました。地元のカフェで開催された交流会に行ったとき、私が唯一のアーティストでした(少なくとも、プログラマーやゲームデザイナーの中でスケッチブックを持っていたのは私だけでした)。
「デッキビルド+ダンジョン探索」ゲームのプロトタイプを持っていた二人組の隣に座り、少し会話をしてテストプレイさせてもらい、名刺を渡しました。その半年後、別のイベントで再会した際、彼らは背景やプロモーションアート用のイラストレーターを雇う準備ができていると言いました。仕事自体は、背景や環境アセットを制作する典型的なものでしたが、私はすぐにそのゲームのアルファ版に夢中になってしまい、作業に集中できなくなるほどでした。
ゲーム『Slay the Spire』のために描いたタイトルアート。今ほど人気タイトルになるとは思ってもいませんでした
Q. 旅を多くしていらっしゃるようですが、作品やキャリアにどのような影響を与えていますか?
旅は、読書や芸術と並んで大きな情熱の1つです。国際的な経験は少なかったものの、キャンプや国立公園での生活に親しんで育ちました。その後、さまざまな国に住み、旅する中で、いつも新たなインスピレーションを得てきました。
旅は、本を読んだり、授業に出席したり、チュートリアルを見たりするのと同じくらいインパクトのある学びの形です。アーティストとして、私たちは優れた観察者になる必要があると思いますが、旅は より多くの場所、人々、文化、環境などを観察し学ぶ機会を与えてくれます。
実体験を幅広く持ち、それらを組み合わせてエッセンスを抽出し、アレンジすることは、世界観を構築する者にとって絶対的な強みになります。私は、キャリアを 6年ほど遠回りすることになりましたが、中国に住み、その近隣諸国を旅した時間は何物にも代えがたいものです。
「If Stone Could Cry」は、私の短編小説『The Twelve Continents』の世界観で描いた作品です。小説『フランケンシュタイン』の怪物を再解釈し、創造者である人類が惑星を去った後に残された実験体としました。そのとき、彼はどんな感情を抱くだろうと想像して描いています
Q. どのようにして「クリエイティブ・ゾーン」に入りますか? 特定の場所や時間帯を好みますか?
私は夜型です。音楽をかけ、お茶を一杯飲みながら没頭するのが好きですね。主な問題は、ADHD(注意欠陥障害)の症状が強いことで、何かを集中して描くためには、できる限り 気が散るものを排除した環境作りが大事です。
Q. 制作にはどのようなソフトウェア、ツール、テクニックを使っていますか?
最近のクライアントワークではほぼ Photoshop だけで完成させています。ありきたりな答えかもしれませんが、2000年代初頭に学生だった頃からその可能性に魅了されてきました。私は まだ3Dツールをあまり使ったことがないのですが、将来の制作プロセスに役立てるため、よりスムーズな3Dスケッチが可能な VRツールを試すことを視野に入れて、コンピュータも新調しました。
Q. 世界観の構築において最も重要(または不可欠)な要素は何ですか?
この世界のあらゆる要素(風景、人々の営み、自然環境、社会や政治の仕組み、人工物や構造物のデザイン)がいかに密接に関連しているかを理解し、ためらわず飛び込んでいく姿勢が大事です! まず、あなたが最も心躍るコンセプト、特定の「世界」に引きつけられた本質的な要素を見極めましょう。そして「X という特徴が見えたら、Y という原理が働いているに違いない」という発想を手がかりにして、常識を超えた新鮮で刺激的な領域へと思考を広げていくのです!
『Numenera』のために制作した中で最も有名な作品の1つ。『Spectrum: The Best in Contemporary Fantastic Art』(第26巻)に初めて採用された作品でもあります
Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください
選ぶのが難しいですね! 特に3人挙げるとすれば、まず伝統的な画家の Mian Situ です。彼の作品にはさまざまな魅力がありますが、特に興味を引かれるのは「西部開拓時代」の中国系アメリカ人の歴史を描いたイラストと、あらゆる面で心を打つ豊かな風景画です。
ジェームズ・ガーニー は言わずと知れた『ダイノトピア―恐竜国漂流記』シリーズの生みの親です。彼の世界観の構築センスと卓越したイラスト技術は、私の創作活動で目指す理想そのものです。
マイケル・ウィーラン もまた、「想像の世界」を描く伝説的アーティストです。子供の頃、書店で彼のアート集に出会ったことが、現在の私の原点になったと言っても過言ではありません。今でも日々、彼の作品からインスピレーションを得ています。
Q. これまで大きなクライアントと仕事をされていますが、最もエキサイティングで充実したプロジェクトは何ですか?
実際、私の仕事のほとんどは 小規模の会社(Monte Cook Games)やインディゲームスタジオ(Mega crit Games)向けのものでしたが、それらは素晴らしい経験になりました。なぜなら、巨大企業に関連してないクライアントの方が、より深く携わることができるからです。最も刺激的で充実していた仕事を挙げるなら、テーブルトップRPG『Numenera』でしょう。「ポスト・ポスト・アポカリプス」(※)というジャンルは、私が作品で最も楽しんでいる奇妙な物語や風景に最適な舞台です。
※世界が滅亡した後の「ポスト・アポカリプス」の世界が、もう一度滅亡に向かう、あるいはその滅亡の記憶が消え、新たな文明が生まれるという設定を描くジャンル
「NEARBY PLANET」
Q. 近年の作品についてお聞かせください
ゲーム『Gods of Metal: Ragnarok』のコンセプトアートを制作しました。また、『Numenera』のイラストも(今のところ)途切れることなく制作しており、表紙などを手がけています! さらに継続中の個人プロジェクト『The Twelve Continents』があります。これは人類が去った後の世界の遠い未来を描いたイラスト付き短編小説集で、暴走したテクノロジーによって大きく変容した風景を描いています。Patreon のサポーターの支援のおかげで、最初の短編小説は ほぼ完成しました。
「Isle of Forbidden Cultivations」も『Numenera』のための風景探索作品です。このパブリッシャーとの仕事で特に素晴らしいのは、「今まで誰も見たことのないような斬新で奇妙なアイデアを自由に考えてくれ」という依頼に対して、私が提案したコンセプトをもとに世界観やストーリーを構築していくところです
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