アーティストが自分の過去作をリメイク:『アポリオン』のメイキング

米国のイラストレーター Awanqi が、スケッチ段階で止まっていたキャラクター主体の作品「アポリオン」をリメイクします


Awanqi
イラストレーター|米国

はじめに

イラストレーター Awanqi が、スケッチ段階で止まっていたキャラクター主体の作品をリメイクします。色、ライティング、解剖学、構図に自信をつけた彼女は、大まかにスケッチした元のアイデアの良さを十分に引き出し、印象的で優美なイラストを制作します。(※本チュートリアルは、書籍『デジタルアーティストが知っておくべきアートの原則:ビフォー&アフター』からの抜粋です)。

▼アーティストの分析

旧イメージの問題点:全体的な乱雑さ/ 構図には改善の余地がある/ 不正確な解剖学

このイメージは、2017 年に制作した「Sanctus」シリーズの一部になる予定でした。このシリーズは、神聖な人物からインスピレーションを受けたデジタル アートコレクションです。その多くはカトリックの聖人ですが、本作では、悪魔にルーツを持つ「アポリオン」を描きました。

当時はまだシリーズの方向性を探っている段階で、アイデアも流動的な状態でした。このキャラクターは悪魔のような存在として描かれたため、他のアートとのつながりが薄くなりました。結局、シリーズに組み込むことに違和感を覚えた私は、作業を中断し、未完のままになっていました。

この絵の制作を始めたのは、2017年の3月です。まだ高校3年生で、作風は比較的未熟でした。当時は今ほど細かく、辛抱強く、丁寧に描いていませんでした。経験不足とはそういうものです!

今見返してみると、パレット、人物同士の触れ合い、全体のコンセプト、ナラティブは評価できるので、これらの要素は残します。ただし、乱雑さ、大まかな描写、不正確な解剖学などは改善していくつもりです。このチュートリアルでは、これまでの数年間で得た経験を活かし、「解剖学、構図、描写」の改善に専念します。

01 スケッチを描く

元のスケッチをリファレンスにして、描いていきます。全体像を再現しますが、より丁寧に制作しましょう。スケッチは作品全体を決める設計図ですが、元の絵は雑で、わかりにくいものでした。今回は、何時間もかけて描いたスケッチを基に、強みのある土台から始めたいと思います。後の段階に勢いを与えるスケッチを描けば、最終的により効率的なペイント プロセスと力強い完成イメージにつながります。

▲ 01 前よりも慎重に、注意深くスケッチするようになりました

02 スケッチを整え、ディテールを入れる

まだ荒削りでラフな状態です。全体の構図に満足したら、スケッチを整えていきましょう。私は、「複雑なフォームを構築するときは、直線の方がうまくいく」ことを長年かけて学びました。その結果、マークメイキングは大胆でわかりやすくなっています。スケッチはできるだけきれいにしたいため、汚い消し跡を最小限に抑えるように心がけています。

元のスケッチと比べると、2人のキャラクターには本物らしい構造、ボリューム、バリエーションがあります。アポリオンの胴体や肩の顕著な「解剖学的ランドマーク」、そして、騎士の鎧のような「複雑なオブジェクトの信憑性」については、この段階で特に時間をかけています。該当箇所のリファレンスを調べ、正確に描きましょう。

この構図では、ネガティブスペースや、重なり合う手足とオブジェクトの分離も、ずっと明確になっています。たとえば、剣の柄には角度をつけず、見る人の方を向かせ、より直感的に素早く読み取れるようになっています。

▲ 02 このスケッチを完成させるのに、12時間かかりました

03 ブロッキングとレイヤーの作成

あとで色付けするディテールをブロッキングして、塗りつぶします。私がここで選んだ色は、中間色の扱いやすいグレーです。さまざまな濃淡を使って、目立つオブジェクトやフォームを表現しましょう。

デジタルレイヤーでフォームを分けておくと、見つけやすくなりますが、レイヤーの数が多ければ多いほど描くスピードは落ちます。細かく階層化すると、綿密に作業できますが、その分、根気と注意も必要になります。ここでは、自分なりのバランスを見つけてください。

この段階で、レイヤーに分けるものと、ひとまとめにするものについて考えます。私は通常、髪、肌、服は、同じレイヤーにまとめますが、細かいオブジェクトは別レイヤーに分けます。

▲ 03 レイヤーをグレーで塗っていくのは、楽しい作業です

04 ラフカラー

ステップ03 の全体的な明度の構成に従いながら、色をつけていきます。私はかなり大まかに色を塗り、あとで変更できる余地を十分残します。ズームインしてディテールを拡大するのではなく、色同士のバランスを見るため、ズームアウトして絵から1 歩下がりましょう。そうすれば、「パレットを選ぶのに時間をかけてしまい、気づいたら気に入らないものになっていた」という事態を避けられます。

今回は旧イメージのパレットを気に入っているため、そこから具体的な色を選択します。スケッチは、線の強さが気にならないように、不透明度を低くしますが、ある程度見えるようにしておきます。

全体的に明るく、暖かく、軽やかなパレットですが、コントラストや焦点のディテールを作成するため、暗く冷たい領域もあります。まだ初期段階なので、あまり神経質にならずに選んでいます。絵のあらゆる可能性を探るには、試行錯誤が必要不可欠です。

▲ 04 カラーパレットが具体化するまで時間がかかるため、この段階はもどかしいかもしれません

05 動きと視覚的な面白味を加える

この構図には少しスペースが空いているため、退屈に見えます。もっと面白味を出し、動きを加えて、周囲の要素で人物を補いましょう。左下隅とアポリオンの腰周りに「植物」を描き、下から上に向かって飛ぶ「鳥」を加えます。制作の途中で新しいアイデアが浮かぶことはよくあるため、あとでさらに要素を加えるかもしれません。色と明度の力を借りて、プロジェクト全体を新しい視点から見ると、このように必要なものがわかってきます。

▲ 05 絵はかなり雑ですが、構図は確実に良くなりました

06 騎士のディテール

全体の大まかなカラーパレットが決まったので、次は騎士に寄ってディテールを加えます。描写には集中力が必要ですが、領域ごとに作業すれば、勢いを失わずに進められるでしょう。私の場合、最も興味のある部分(大抵、顔)から始めることが多いです。そしてズームイン/ズームアウトを繰り返しながら、別の領域に進みます。

私はこのとき、効率的に進めるため、クローズアップで描写する領域のチェックリストを作成します。今回、描きこみたい主要な部分は「鎧」です。作業中は、右上から照らしている主光源を念頭に置きます。ただし、シーン全体としては、鎧やキャラクターに光が反射し、影の領域に色を跳ね返しているような、軽やかで明るい雰囲気になります。

▲ 06 キャラクターの腰と腕をクローズアップで描写します