2時間で描くコンセプトアート:「ファンタジー:ドーム」

フリーランスコンセプトデザイナー Ioan Dumitrescu氏 が、古代文明をベースにしたスピードペインティング作品の制作過程を紹介します


Ioan Dumitrescu
フリーランス コンセプトデザイナー|ルーマニア

はじめに

私はいつもスピードペインティングに取りかかる際、2~3つのアイデアをあらかじめ用意しておきます。この作品では、「古代」「滅んだ文明」という2つのアイデアを用意し、「古代文明崩壊後の朽ち果てた中央集会場」の表現方法について考えを巡らせました!

そこで私は、古代の人々が叙事詩の劇を観賞し、お気に入りのグラディエーターに声援を送る「円形劇場・大浴場・歴史的な公共建築物」を描くことに決めました。スピードペインティングは、構図・光・色に対する眼識を養える素晴らしい方法です。2時間という制限に従えば、重要項目と意思決定、そして時間内に作品を仕上げるためにできることを把握できるでしょう。

01 リファレンス

このスピードペインティングは古代文明がベースになっているため、それに見合ったリファレンス画像を収集し、文明崩壊後の建築物を再現していきます。今回はローマに旅行した際に撮影した写真をリファレンスにします(図01-03)。

少し時間を割いて、この時代の巨大な建築物がどのように建てられたか考えてみてください。当時はもちろん、現代のような建築技術が存在しません。しかし、長い歳を経て朽ちているその多くは未だに健在です。このペインティングではスケールが非常に重要になります。作業時間が限られているのでシンプルに進めましょう。

図01:テーマに沿ったリファレンスを見つけてください

図02:リファレンスを使えば、色と光が選びやすくなります

図03:シーンの興味深い形状に使えそうです

02 ベースカラーの作成

リファレンス画像の大きな形状をカラースケッチに取り入れましょう。私は日光がさわやかに透きとおって見える、春の昼下がりの美しいシアンブルーの空を選択しました。ところどころ崩れ落ちたコロッセウム風の建築物と巨大なドーム、そして、人間がかつて住んでいたかもしれない遺跡を作成します。

基本的な地面のテクスチャを設置し、明度と色を調整して、影が掛かっている感じを表現します。前景には大きな遺跡を追加してもよいでしょう。後景の大きなドームには必ず光を当ててください。これらの色によって、シーン全体に砂漠のような雰囲気が生まれます。

前景には、長い間打ち捨てられているような朽ちたボートも追加しました。こうして、ここはかつて河や海に面した豊穣な土地で、水路に沿って小さな波止場が続いていたことをほのめかします。そして、これは時の流れの象徴にもなります。コロッセウムの隣には、とても大きな市場がたっていたのかもしれません!

図04:光と色のアイデアを含めた構図を、クイックスケッチしましょう

03 リファレンスの追加

では、収集したリファレンス画像を直接シーンにドラッグし、色を調整して合わせます。ベースカラーを青と黄にすれば、最終的により現実的なルックを演出できるでしょう。

次は、シーンとオブジェクトの空間レイアウト、そして構図を決定します。最初のスケッチは壮大さに欠ける気がするので、カンバスを広げてスケールアップし、鑑賞者を圧倒させましょう。明暗の相互作用は構図全体において重要な役割を果たすので、遺跡に見合った格好いい形状を見つけ出し、その影を作成してください。もっと絵画的な見た目にするなら(フォトリアルでなく)、リファレンス画像の大半を上から覆わなくてはなりません。最終イメージをリファレンス画像で決定づけるのは避けましょう。

制限時間を逆手に取って謎めいた要素を作成し、鑑賞者にそのディテールと情報を想像させましょう。この遺跡は、背後にある歴史のスナップショットを示すスクリーンです。こうしてかつての世界を垣間見せ、その美しさを伝えるのです。私はいつも鑑賞者の心に語りかけ、感情を揺さぶるようなイメージを探求しています。

図05:リファレンスをスケッチに追加して、イメージを素早く構築します

04 より面白いものに

この段階でイメージを水平・垂直に反転させてチェックしましょう。作業中は、特定の要素にフォーカスしすぎないよう注意しなければなりません。こうして自然な流れを持たせます。

シーンをある程度構築したので、テクスチャをさらに加えて色を試しましょう。今回はコロッセウムの上部に、低彩度の青みがかった赤レンガ・柱・アーチを描きます。これで高さにバリエーションが加わり、その後ろにあるものをそれとなく表現することができます。 私は右中景にある岩の塊を分割することにしました。これによって鑑賞者の視線は光と影の相互作用に従いながら、フレームの端に向かってゆっくりと進み、そこで止まって再び中央に戻ります。

図06:テクスチャを追加し、色を試してより面白いものにしましょう