【インタビュー】夢見るだけでなく 目標を立てることで:モーションデザイナー Vitali Yakin 氏
ロシアの モーションデザイナー Vitali Yakin氏 が、これまでのキャリアについて語ります
「何かの思い出や経験と結びついているプロジェクトが記憶に残るものです。私にとっては、2014年のソチ冬季オリンピックの開会式のプロジェクトがそれにあたります」
Q. 自己紹介をお願いします
まず第一に、私はデザイナーであり、常にそれを強調するようにしています。たしかに、私の仕事の大半は「モーションデザイン」に関連するものですが、多くの場合、さまざまなソフトやスキルを駆使して、異なる問題を解決する必要があります。一言で言えば、モーションデザインは非常に複雑な種類の広告なのです。
最近では、有名ブランドのプロモーションビデオを制作する機会が増えています。残念ながら、NDA 契約の関係ですべてのリストを紹介することはできませんが、それらは製品デザインに関連しています。私の仕事は、特定のフォーマットに縛られないビデオを制作することです。
CG業界で20年以上、さまざまな分野で働いてきました(長編映画、ミュージックビデオ、テレビ、広告の仕事など)。そして、少しずつイメージビデオ(CGを駆使した芸術性の高いブランディング映像)に焦点を当てるようになり、少なくとも、今はこの方向にとても興味があります。これらは、私の境界を押し広げ、スキルアップに貢献しています。
Q. アーティストとして最大のインスピレーションは何/誰ですか?
とても難しい質問ですね! 正直に言うと、誰かを偶像化することはいいことだと思いません。私はいつも、目にするものすべてを分析し、それがどんな感情を引き起こすのかを理解しようとしています。結局のところ、私たちが出会うものはすべて、気持ちや感情に関するものなのです。
例えば、あなたは鑑賞した映画の良し悪しをどうやって判断していますか? もし気に入ったら、良いと思うことでしょう。ときには、なぜそう感じるのか、具体的な理由を説明できないことさえあります。
とはいえ、絵画、建築、ファッションなど、憧れているものはあります。これらは時代を超えて存在し、永遠に人類の創造の傑作であり続けるでしょう。しかし、多くのものは、たとえ現時点で魅力的に見えたとしても、非常に一時的なものなのです。
Q. 仕事で一番気に入っていることは何ですか?
制作プロセスそのものが好きです。また、自分を表現できるという点で、私はこの職業が大好きです。私にとって、それはとても重要なことであり、すべてのプロジェクトで学びがあります。毎回、プロジェクトの始まりとチームワークを楽しんでいます。アイデアが現実のものになっていく過程を見ると、信じられないほどワクワクさせられますね。
Q. これまで手掛けたプロジェクトの中でお気に入りのものはありますか?
多くの場合、「終わったばかりのプロジェクト」か「現在取り組んでいるプロジェクト」です。どのプロジェクトも新しい経験をもたらしてくれるため、最新のプロジェクトは以前に作成したものよりも常により良く見えるのです。
たいてい、何かの思い出や経験と結びついているプロジェクトが記憶に残るものです。私にとっては、2014年のソチ冬季オリンピックの開会式のプロジェクトがそれにあたります。今振り返ってみると、違うやり方でもっと上手くできたと思う部分が多々ありますが、当時は自分のスキルとキャリアの頂点だと思っていました。
Q. Mondlicht Studios との共同プロジェクトについて教えてください。どのような経緯で制作したのですか?
F1 のプロジェクトを作ろうというアイデアが浮かんだのは、数年前のことでした。妻とミラノで休暇を過ごしているときに、ドルチェ&ガッバーナ(D&G)の新しいコレクションを見かけました(SMEG という素晴らしい家電コレクションブランドに、D&G 独自のスタイルで美しいパターンがデザインされていました)。同じようなデザインをF1レーシングカー用に作って、D&G に提供したらどうかと考えました。当時は素晴らしいアイデアと思いましたが、時は過ぎ、アイデアは置き去りにされ、そのカーデザインはアイデアフォルダの中で出番を待っていました。
その後、Mondlicht Studios のドミトリーと出会い、純粋に楽しむために一緒に何か作ることに決めました。そうして生まれたのが、私たちが望むものを自由に作るこのプロジェクトでした。
Q. 最初のプロジェクトを覚えていますか? 今でも誇りに思いますか?
2007年、3Dアーティストとしてスタジオで働くようになったとき、ビデオ制作を依頼されました。当時はすべてが学びの段階で、この仕事は私にとって試練でした。カットと合成以外の全作業を担当することになり、それは忘れられない初めての経験になりました。正直に言うと、そのプロジェクトを特別誇りに思っているわけではありませんが、私にとっては価値があります。それは業界での私のキャリアの始まりを示すものでした。
Q. 時間や予算に制限がないとしたら、理想のプロジェクトはどのようなものですか?
完璧なプロジェクトには 常に予算と締め切りがあるべきだと信じています。締め切りがあることで、自分を律することができるし、予算があることで、興味深く、クリエイティブで、スキルの高いアーティストと仕事をすることができます。そうでなければ、プロジェクトを必要以上に長引かせてしまうでしょう。
Q. アニメーションの良し悪しを決めるものは何だと思いますか?
「ディズニーのアニメーションの12原則」と「センス」です。基本的にはそれだけで、これがアニメーションと感情表現の基礎となります。モーションデザイナーもアーティストであり、完璧に役を演じる俳優でなければなりません
Q. ワークフローの中でお気に入りのプロセスはありますか? お気に入りのツールやソフトは?
先に述べたように、初期スケッチやディスカッションから最終調整まで、プロセスの全段階を楽しんでいます。制作の中で最も興奮し、夢中になれるのは、イメージに関する作業、つまりデザイン、ライティング、レンダリング、合成の部分です。この段階で、アイデアが実際に花開いていくのを目にすることができます。
残りは主に技術的なプロセスですが、それらが退屈だというわけではありません。例えば、私は R&D(研究開発)のプロセスが好きです。最初は課題にどうアプローチすればいいのか見当もつきませんが、作業を進めていく中で理解し始め、新しい経験を得ていきます。これは本当に素晴らしいことです!
ソフトについて言えば、通常、Cinema 4D と多くの3Dプログラム(Substance 3D Designer、HDR Light Studio など)を使い、合成には After Effects を使っています。時には Houdini も使用しますが、主に個人プロジェクトでの使用に限られます。
Q. 主に広告プロジェクトに携わっているようですが、VRを含む新しいテクノロジーは、近い将来、業界を変える可能性があるのでしょうか?
がっかりさせてしまうかもしれませんが、それらのテクノロジーは業界にそれほど大きな影響を与えないと思います。VR は依然としてニッチな製品であり、多くの潜在的な消費者が身体的な問題に直面しているため、大衆商品になることは難しい気がします。私自身も VR体験中に目まいを感じてしまいます。
さらに、VRヘッドセットや その他必要な機器を持っている人はそれほど多くありません。コンテンツはまだ少なく、売れ行きも芳しくないようです。映画や広告は幅広い視聴者層が広く、さまざまなデバイスで動作し、ユーザーはコンテンツにアクセスするのに多くのコストを必要としません。そのため、これらのテクノロジーは既存のソリューションへの素晴らしい追加機能ではありますが、やはり非常にニッチな製品だと考えています。
Q. 現在、どこかでおしえていますか? 初心者アーティストに有益なアドバイスをお願いします
これまでは同僚だけに教えていました。誰かに教えるのであれば、それは大きな責任を伴うため、定期的かつ意識的に行わなければいけません。初心者は、指導者が話している内容にとても注意を払っているので、間違いは許されません。
若いデザイナーには、忍耐強く、創作のプロセスを楽しむようにしてほしいです。また、SNSにおける「いいね!」の数は気にせず、目標を設定し、できるだけスキルアップに時間を費やすことをお勧めします。
Q. 良いポートフォリオを維持するためのアドバイスはありますか?
個人プロジェクトに時間と労力を費やしてください。そうすることで、ポートフォリオが充実し、スキルを高めることができます。その経験は、商業プロジェクトでも大いに役立つでしょう。
Q. 忙しい1日の仕事の後、どのようにリラックスしますか?
コンピューターゲームをすることで、頭の中にあるイメージを切り替え、リフレッシュしています。
Q. もし、アーティストにならなかったら、どんな人生を送っていたと思いますか
ミュージシャンになっていたでしょう。実際、ミュージシャンだった時期もあったのですが、別の道を選び、今は幸せに思っています。
Q. 10年後の自分はどうなっていると思いますか?
私は5年くらいの人生計画を立てるのが好きです。米国移住を目標にした後、LA にある最高の CGIスタジオやモーションスタジオで働き、アップル、マイクロソフト、ネットフリックス などの名だたる企業のプロジェクトに参加することができました。
Q. 近年の作品についてお聞かせください。何か注目すべきプロジェクトはありますか?
米国に移住し、次のプロジェクトが世界最高のチームとともに作られることを願っていました。夢見るだけでなく、目標を立てることで、それを達成することができました。かつて、モスクワに移住し、ロシアの大手スタジオと仕事を始めたときも、人生を変えることができました。それを再現したのです。必要であれば、人生は変えることができるし、変えなければなりません。
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