【インタビュー】アートとは自己を振り返り続けること:3Dキャラクターアーティスト Pierre Benjamin氏

英国のカーディフを拠点に活動する フランス出身の3Dキャラクターアーティスト Pierre Benjamin氏 が、古代美術から受けた影響、そして、TVを見ずに育ったことの利点を語ります


Pierre Benjamin
3Dキャラクターアーティスト|英国


Q. 自己紹介をお願いします

Pierre Benjamin(ピエール・ベンジャミン)です。現在は英国のカーディフに住み、フリーランスのキャラクターアーティストとして働きながら、オンラインや大学で教えています。2010年に、日差しの強い南フランスのモンペリエから英国に移住し、3Dを始めました。しかし、3Dの世界へ移行したわけではなく、伝統的なアート媒体による これまでの活動の継続だと考えています。

画家として国際的に成功している祖父の影響もあり、10歳から絵を描き始めました。また、家にTVがなかったのも幸運でした。気を散らすものが何もなかったおかげで、落書きをしたり、美術館や本でアーティストの作品を分析したりするのに多くの時間を費やすことができました。

15歳のときに、偉大な彫刻家の指導の下、石を使った彫刻に移行し、1999年には、パリのルーブル美術館の学校で1年間、古代美術を学びました(ヨーロッパの古代美術の起源や、1900年代までの芸術的発展の基礎を理解するのにとても役立ちました)。

「Sliced skull with barb wires」

「hippy sculpt」

Q. 「Joe Viterelli」の制作ワークフローをおしえてください。アイデアはどこから得ましたか

尊敬する素晴らしい俳優 ジョー・ヴィテレッリ から、多くのことを学びました。彼の演技力と卓越したカリスマ性、そして特徴的な顔立ちに惹かれています。また、マーティン・スコセッシ 監督の過去の作品が大好きで、本作はその雰囲気を再現したものです。どこか威圧的でありながらも、私たちを惹きつけるキャラクターになっています。ジョー・ペシロバート・デ・ニーロ の演技も大好きなので、映画『アイリッシュマン』は私の一押しの作品です!

「Joe Viterelli(ジョー・ヴィレッテリ)」

★『アイリッシュマン』最終予告編(2分35秒)

Q. 制作で苦労したことはありますか? 新しい学びはありましたか?

どんなプロジェクトでも、常に新しいことを学んでいます。モデリングの初期は、見た目がかなり荒く、最も困難な段階です。そこから形を洗練させ、テクスチャのゆがみを避けるためにきれいなトポロジとUV展開を行います。制作には さまざまなソフトを使います(Substance 3D PainterMayaMarvelous DesignerZBrushPhotoshop など)。

3Dプリント

Q. ポートフォリオをアップデートする秘訣・ヒントがあれば おしえてください

他のアーティストの作品や自分の作品を見て、どこが改善できそうか考えるようにしています。新鮮な目で見るように心掛け、さらにどんな方向へ実験ができるかを想像します。いつも新しいことに挑戦しては、作品の良し悪しを振り返っているような気がします。

私は「自分は何もわかってない」と感じることが多いため、もっとチャレンジできるところを証明しなければなりません。自分を成長させる唯一の方法は、周囲の批判に耳を傾け、毎日自分の作品に没頭する時間を作ることです。

美術館を訪れると、世の中には忘れ去られ、再発見されるのを待っている過去の無名のアーティストがどれだけいるのかがわかります。私はそのような作品を見ることで、自分自身を奮い立たせています。

「Skull with brain」

3Dプリント

Q. SNS を使っていますか? お気に入りのハッシュタグをチェックしていますか?

Instagram のハッシュタグをたくさんフォローしています。
#marmosettoolbag #ballpointpen #leyendecker #duanehanson #cgarts #hyperrealism #cncm machine #traditionalculpting

「St Georges」

Q. 芸術的な目標はありますか?

キャラクターアーティストとして、ヘア/グルーミングTD や シェーダアーティストになる、あるいは 3Dプリントに専念するなど、ニッチな分野はたくさんあります。常に成長する方法はあるので、前進することができます。

今でも学び続けています! もっとカートゥーン的な表現をするのか、それともハイパーリアリズム(超現実的)な表現をするのかで迷っています(どちらも独自の方法で本当に挑戦的です)。現在は、風刺画やカルト的なルックに仕上げるため、それらを混ぜ合わせていますが、テクスチャリングには超現実的なテクニックを使っています。

「Caricature」

「headmaster」

Q. お気に入りのアーティストは誰ですか? 手描き/デジタルどちらでもかまわないので、理由も一緒におしえてください

挙げればきりがありませんが、思いつく限りで言うと、画家では ピカソ、ゴッホ、アングル の作品が好きです。彫刻家では、ベルニーニ、ミケランジェロ、ブランクーシ、ドゥエイン・ハンソン、アリスティド・マイヨールセザール・バルダッチーニアルマンイヴ・クライン、ジョルジュ・ウドー。

イラストレーターは、ノーマン・ロックウェルJC・ライエンデッカー です。どのアーティストも、一目でそれとわかる独特のタッチを持っているので、作品を簡単に見分けることができます。いつかこのレベルに到達したいですね。

「Nosferatu」

「Nutcracker Christmas」

Q. 次の作品についてお聞かせください

ギャラリーで作品を展示することが次の大きな目標です。私の意識は、常に新しい試み、とりわけアートシリーズに向いており、それは「アートとは自己を振り返り続ける」という考えに基づいています。つまり、アートの歴史や過去の作品、ルーツ、影響を探求し、それに基づいて新しい作品やアプローチを生み出すということです(例えばピカソは、ゴヤ、ベラスケス、アングルの作品を見直すことに大きな関心を寄せていました)。

長期的な目標は明確で、木、石、樹脂などさまざまな素材を使った大規模な作品を展示すること、ギリシャやローマの象徴的な神々やキャラクターの表現を通して、作品に現代的なひねり(ユーモアのセンス)を加えることです。人間の内なる感情を表現するために探求し、利用すべきものが、世の中にはまだまだたくさんあります。

「Bust of Napoleon」

「The crouching venus revisited as a Spray can」

 


編集部からのヒント:人型キャラクター制作のリファレンスには『アーティストのための人体解剖学ビジュアルリファレンス』を、制作テクニックを習得するには、書籍『3Dアーティストのための人体解剖学』 やおすすめします。

 


編集:3dtotal.jp