日光浴する CG のワニ「Sunbathing」のメイキング
クリーチャーアーティストの Massimo Righi 氏 が、日光浴する CG のワニ「Sunbathing」のメイキング
を紹介します
はじめに
写真、特に雑誌『ナショナル・ジオグラフィック』に載っている自然や野生動物の写真は、いつも発想の源になります。この作品では、アメリカアリゲーターをテーマとして使うことにしました。これはおそらく、爬虫類(特にワニはすばらしい色をしています)に魅力を感じ続けてきたことと、モデリングの過程を心底楽しみたいと思ったことからきています。
この作品の「Sunbathing (日光浴)」というタイトルは、冷血動物であるワニとうまい取り合わせになると思いました。この「Sunbathing」という作品の目標は、フォトリアルなレンダリングを制作することだけではありませんでした。ZBrush 等のスカルプトソフトを使わず、最終的なレンダリングにポストプロダクションを一切加えないで、アニメーション用の3D モデルを作成することを目指しました。
まず、よいリファレンス素材を探して、カメラアングルや作品で再現したい雰囲気についてアイデアを練る作業にかなりの時間をかけました。結果、これだと思える写真が2枚見つかりました。ワニは鮮やかな色で、歯もしっかり見えており、作品用のモデルとして完璧なように思えました。
頭の中にあるアイデアを具体化するため、ワニのスケッチを 2種類のポーズで描きました(図01、図02)。日なたでのんびりしているワニという典型的な静止ショットを描くつもりでしたが、同時にワニの口を開けて歯(とおそらくはいくらかの攻撃性)も表に出すことにしました。
図01
図02
01 モデリング
Maya でモデリング作業を始めるにあたり、まずワニのローポリゴンモデルを作成しなければなりませんでした。リファレンス画像を見ながら、ワニの頭部から制作に取りかかりました。シンプルなポリゴン平面を使い、全体の形状に応じてエッジを押し出して、最初に頭部を作成しました。それから残りの胴体の制作に入り、足を接続する場所と目玉を入れる場所には穴を残しておきました(図03)。
図03
これは私が好きなポリゴンモデリングのテクニックです。4種類のビューを切り替えながら、段階を追って作業をうまくコントロールできたように思います。満足できる結果になったら、今度は足と目玉を同じやり方でモデリングし、メインの胴体のジオメトリにつなぎました。歯は1本だけモデリングし、リファレンス写真を参考にしながら、それを複製して歪め(頂点を引っ張る)、ラティスデフォーマを使ってサイズを変えた大小の歯を作っています。処理するUV マップが半分だけで済むように、ワニの半身だけを作成しました。
図04
ローポリゴンのモデルが完成したら(図04)、モデルを複製してスカルプトツールでディテールを加える前に、(退屈な)UVマッピングの作業を始めなければなりません。メインの(半分の)胴体と足のために、円柱マップを2つ作成しました。足首から下の部分には、平面マップを2つ(上面と下面)作成しています。歯に対しては、平面マップ2つを投影しました。さらにシンプルなチェッカーを使い、Lambertシェーダに適用して、UVを微調整しながら全体の作業をチェックしました。
UV のレイアウトは、最終的な仕上がりの面から見て、最も重要な手順の1つです。完全に満足できる結果になるまで、この作業には十分な時間をかけることをお勧めします。私が UVの操作に最もよく使用するツールは、UVエッジのカット、移動、縫合、展開です。UV の処理が終わったら、モデルのもう半分を複製して結合コマンドを実行し(頂点もすべて結合)、スカルプトの作業に移ります。私は通常、自分の作品で少なくとも3つの異なる解像度のモデルを使用できるように、モデルに3段階のディテールを処理しています(図05-07)。
図05
図06
図07
必要な場合は、リギングやアニメーションの段階でローポリゴンモデルをケージとして使いました(Maya の[ラップ]デフォーマを使用)が、それ以外は別のレイヤーに隠しています。スカルプトの作業では、2種類のスムース処理で作成した、さらに高解像度なバージョンを使いました。メッシュは 約10万ポリゴンにまで達しました。一方、ローポリゴンはわずか8,500 で、中程度のバージョンは 3万ほどでした。このワニに Maya の[スカルプト]ツールを使いながらディテールを追加し、押し込み、引き出し、スムースといったツールやブラシサイズを調整していろいろと調整しました。この操作では、ブラシの不透明度や太さを筆圧によって完全にコントロールできるように、Wacom のタブレットを使っています。
満足できる結果ができたら、シンプルなリグを作成して位置をスケッチ通りに変更しました。このシーンに必要だったのは、ワニを配置する単純な地面だけでした。ポリゴン平面を元に地形をモデリングし、スカルプトツールを使って頂点を押したり引いたりしてから、背景の写真を配置するための別の平面を作成しています。
テクスチャの作業に入る前に、さまざまな位置でモデルがどう見えるかを確かめるために、いくつかテストレンダリングをしました(図08、09)
図08
図09
02 テクスチャリング
最終的なエフェクトの大半はテクスチャによって生み出されるため、テクスチャ処理の段階は非常に重要だと考えています。2Kの解像度のマップを使うことにしました。Maya の3Dペイントツールで処理を行うことと、テクスチャが大きくなればなるほど 3Dペインティングの処理が遅くなることを考えると、これで十分だと考えたのです。
はじめに、Photoshop で Wacomタブレットを使って テクスチャを作りはじめました。この作品のテクスチャは写真とフリーハンドのペイントを組み合わせたものです。複製ツールやカスタムブラシを使い、Maya と Photoshop を頻繁に行き来しながら、モデル上でテクスチャがどう見えるかを確かめるためにテストレンダリングを繰り返しました。Photoshop での作業が満足行く結果になったら、マッピングの処理中に UVをカットした部分にできたエッジの継ぎ目を調整する作業に移ります。私はこの作業で Maya 内蔵の 3Dペイントツールと複製ツールを使用しました。カラーテクスチャができたら Photoshop に戻り、メインのカラーテクスチャを元にして、スペキュラ、反射、バンプ、拡散といったマップを作成します。さらに Maya の3Dペイントでマップを1つずつ編集し、最後の調整を行いました(図10)。
図10
地面と背景には、自分で撮影した写真2枚(約3000×2000)を使いました。必要な部分をトリミングし、彩度を高くして、カラーのマップからバンプ、反射、スペキュラの各マップを作成しました。また、両方の平面投影マップを作っています。ワニについては、メインの胴体、目玉、歯にそれぞれ別々の Blinn シェーダを使いました。また、地面と背景のシェーダでもBlinnシェーダを使うことにしました。テクスチャはすべて Mipmap フィルタを使ってマテリアルに適用しています(図11)。
図11
03 カメラ設定&ライティング
シーンのセットアップでは、カメラを作成して被写界深度を有効にしました。私なりの被写界深度の操作方法をもう少し説明しましょう。距離ツールを作成し、モデルの焦点にロケータを 1つ、カメラレンズに もう1つのロケータを配置します。さらに、カメラの移動に応じて距離の値も変化するように、ロケータをカメラに対する親にします。最後に、[焦点距離]フィールドに値を設定し、望ましい Fストップにします(図12、図13)。
ライティングに取りかかる前には、シェーダのネットワークを微調整し、スペキュラ/ 反射の設定や半透明の値をさまざまに変更しました。また自作の HDRIプローブ、レイトレースシャドウを有効にしたディレクショナルライト(並行光源)、ポイントライトを使っています。
図12
図13
04 レンダリング
このシーンでは、追加のポストプロダクションの処理を一切しませんでした。単にさまざまなアングルでレンダリングしただけです。メインのイメージでは、さらに彩度とコントラストを高めた色を背景とワニに使っています。また、別のレンダリング(図13)では、より深い被写界深度と彩度の低い色を試しました。さらにフォトリアルな結果が得られたと思いますが、いかがでしょう。
図14
おわりに
この作品の制作過程を通して、私はたくさんのことを学びました。被写界深度の調整は、一眼レフカメラで写真を撮影するのと同じような、とても楽しい作業でした。いつものことですが、作品の制作が終わると、もっとよいものができたかもしれないと考えがちになります。たとえば、印刷用にさらに大きなレンダリングが必要になるということを前もって知っていたら、もっと高解像度のテクスチャ(おそらく4K程度)を作っていたはずです。
このワニを使って作品を作るつもりです。さらに多くのレンダリング設定やカメラ設定を試したり、アニメーションで動かしたりもしたいものです。いつかそんな作品をお目にかけられると良いと思います。作品制作の流れをここまで紹介してきましたが、この情報が何らかの形でみなさんのお役に立てば幸いです。
完成イメージ
※このチュートリアルは、書籍『Digital ART MASTERS Volume 2 日本語版』に収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。
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