Blender 使用、2Dポートレートを3Dに:「1 million」のメイキング

インスタ フォロワー267万人の アーティスト Loish の 2D作品を 3Dに変換します


Igor Kekeljevic Keki
キャラクターアーティスト|セルビア


はじめに

Igor Kekeljevic Keki です。セルビア大学の技術科学部 エンジニアリング・アニメーション学科で准教授を務めています。余暇には Blender を使って デジタルキャラクターを作っています。

01 元のイラスト

以前から、Loish(Lois van Baarle)の素晴らしいイラストをベースにファンアートを作りたいと思っていました(オランダはまたしても、美術史上最高の画家の一人を世に送り出してくれました)。彼女は、若い女性のイラスト制作で有名なイラストレーターです。その作品の多くは、3Dキャラクターアーティストにインスピレーションを与えています(※ Loish の著書、書籍『The Art of Loish – ロイシュ画集』)。

「1 million」は、Loish の Instagram で100万人のフォロワーを記念して公開されたものです。このイラストを見た瞬間、頭の中に3Dスカルプトが思い浮かび、Blender で作ろうと決意しました。最初のステップは、イラストを分析し、感じてみることでした。青みがかった間接照明、薄暗い照明、そして、背景色は夜明けを連想させます。ある暗い時期を経て朝が訪れ、明るい未来を確信する瞬間です。ダークトーンの髪や明暗のコントラストがドラマチックな効果を生み出し、女性の姿が浮かび上がります。

このポーズは、ベッドに横たわっている人を連想させます。特に手は色で強調され、バラと関連付けられています。優しさと強さがあり、筋肉質に見えます。それは、手先が器用で勤勉な人の物語を語りかけています。「優しくて腕利き、創造的で強い」、そんな若い女性の物語を追いかけたいと思いました。つらい時期もありましたが、明るい未来をもたらす人生の重要な時期に彼女はいるのです。

1 million

02 ブロッキング

2D のイラストを 3Dのデジタルスカルプトにするのは、単なるコピーではなく、別の言語への「翻訳」と言えるでしょう。2D のイラストにおいて、基本的ツールは「ライン」「2D のシェイプ」ですが、3D のデジタルスカルプトの基本ツールは「3D のフォーム」です。

この「翻訳」では、良いやり方を見つけるために多くのことを試さなければなりません。まず、編集しやすい部分や、ブロッキングから始めるとよいでしょう。ブロッキングには、あらかじめ定義しておいた人体を使い、各ボディパーツに、[マルチレゾリューション]モディファイアーを適用して、ローポリオブジェクトから作ります。関節の位置に体のパーツのピボットを配置すると、ポーズをつけやすくなります。片側のパーツはインスタンス化され、反対側にミラーリングされます。そのため、ジオメトリの変更はすべて自動的にもう片側に転送されます。この方法に興味があれば、Zach Reinhardt氏 のチュートリアルを御覧ください。

★Zach Reinhardt 氏 のチュートリアル:「Improving Asymmetrical Sculpting in Blender」(17分55秒)

手作業でイラストに合わせていきます。最初に、胴体、頭部、腕の形で大まかにポーズを作ります。完璧にする必要はなく、カメラ セットアップの参考になる程度で十分です。カメラを追加したら、元のイラストを使えるように[画像を追加]オプションを設定し、レンダリングサイズをイラストのサイズに合わせます。イラストのパースは普通に見えるので、カメラの[焦点距離]は デフォルトの 50mm のままです。次に、ジオメトリとカメラをできるだけイラストに合わせます。ブロッキングには、約1日を要しました。

03 ディテールのポリッシュとモデリング

ポリッシュ(磨き上げ)の段階では、ブロッキングで使用した別々のオブジェクトを 1つのメッシュに結合しました。[ボクセルリメッシャー]は、大きなフォームの結合にはもってこいですが、手や顔のような小さいディテールのあるフォームには適さないため、代わりに[ブーリアン]モディファイアーを使います。これは最高のスタートになりますが、手間のかかる方法であり、インスタンス、オブジェクトのスケール、反転した法線によって引き起こされる落とし穴がいくつかあります。ブーリアンに使用したワークフローは以下のとおりです:

1. すべてのオブジェクトを選択し、インスタンスを単一オブジェクトに変換する
2. スケールをリセットするには、[CTRL]+[A]キーを押して、[スケール]を選択する
3.[CTRL]+[A]キーでモディファイアーを適用し、[表示の形状をメッシュ化]を選択する
4. 法線を修正するには、すべてのオブジェクトの[編集モード]に 入り、[ALT]+[N]キーを押して、[面の向きを外側に揃える]を選択する

大変そうに見えますが、慣れればすぐに実行できるでしょう。ただし、[ブーリアン]モディファイアーは、まだ問題を引き起こす可能性があります。下図は、別のプロジェクトのものですが、同じワークフローを示しています。2番目のオブジェクトのバウンディングボックスを表示し、[合成]を使う前に[差分]を使って 問題ないかチェックしています(※正直なところ、この方法は 現在の Blender では時代遅れです。Exact(正確) アルゴリズムによる新しい[ブーリアン]は問題なく機能することでしょう)。

関節をポリッシュし、「Dyntopo」で小さいディテールをスカルプトします。この最終的なモデルの頂点数は、200万以上あります(作品名にちなみ、100万ぴったりで作るべきでしたが、静止画用レンダリングだったので、最適化やポリゴン数にはこだわりませんでした)。眉毛、まつ毛、眼球、歯、爪はすべて独立したオブジェクトです。これらのボディのディテールはすべて、モディファイアー([シュリンクラップ][ソリッド化])を多用したハードサーフェスのテクニックでモデリングしました。

シャツは、手動リトポロジーに便利な[BSurfaces]アドオンを使って 作成しました。手動リトポロジーは、衣服のスカルプトで良い開始点になります。他にも、ボディに [マスクを抽出](スカルプトモードで使用可能)を適用し、[Quadriflowリメッシュ]する方法があります。 顔には、Loish の顔の特徴を加えることにしました。なぜなら、「美しく、優しく、強く、創造的な若い女性の物語を伝える」という、このスカルプトのアイデアにぴったりだと感じたからです。

このプロジェクトのリサーチをしていたとき、「元のイラストの手の描き方がひどい」という否定的な意見を見つけました。その批評は「男性のような手に見えて奇妙だ」というものでしたが、この珍しい手の描き方が私は好きです。手仕事をする人の物語が伝わってきて、デジタルスカルプトに個性が出ます。

バラは、モディファイアーを使ったハードサーフェスモデリングで作成しました。例えば、花の茎は、「スキン」モディファイアーと[サブディビジョンサーフェス]モディファイアーを使い、1本の線から作っています。

髪以外のすべてのポリッシュとモデリングは、3日で終わりました。髪の毛は大変そうだったので、後回しにしました。