ZBrush で髪をスカルプトするためのヒント10

髪のスカルプトは、最も難しい作業の1つと言えるでしょう。James W.Cain氏が、リアルな髪を作成する上で役立つヒントを紹介します


James W. Cain
フリーランス デジタルスカルプター


彩を欠いた作品とプロらしい作品の違いは、きれいにスカルプトされた髪に現れます。髪は、すべてのパーツの頂上を飾る最高の要素となるべきです。「絡まったスパゲティの塊」のようなルックになったら、テクニックを磨くにも苦労することでしょう。ここでは、私の経験に基づき、髪の作成に最適なツール&テクニックを選択するための10のヒントを紹介します(使用ソフト:ZBrush ※スカルプトの目的が、物理的な複製(3Dプリント)かディスプレイ表示、そのいずれかを想定しています。ヘアシステムや特定のゲームエンジンについては触れません)。

ヒント1:解像度

凸凹した塊のような髪の毛にならないように、低解像から始めて、徐々にサブディバイド(細分割)していきます。こうすることで、ディテールを作り過ぎる前に、大まかな形に集中して考えることができます。よくある間違いが、早い段階からディテールを作り過ぎてしまうことです(これによって、髪が凸凹になります)。私にとって、髪のスカルプトのおける格言は、有名な「小さく始めて大きく終わる(start small and end big)」の逆で「大きく始めて小さく終わる」です。

低解像度でスカルプトを始めて、必要に応じて、解像度を上げていく

ヒント2:シルエット

はっきりとしたシルエットは、髪の全体的な形、それに基づく残りの頭部を作っていく上で不可欠です。シルエットをチェックする良い方法は、[V]キーを押して、メッシュカラーを白から黒に変換することです(※PolyPaintがオフになっているのを確認)。

[V]キーを押してシルエットをチェックする(※PolyPaintがオフになっているのを確認)

ヒント3:[Clay Buildup]ブラシ

ストレートヘアでもウェーブヘアでも、フォームを作るには[Clay Buildup]ブラシが不可欠です。但し、ソフトなルックにしたいときに使うと、ハードエッジができて台無しになることがあります。そのような場合、より繊細な形にするため、デフォルトのアルファをオフにします。ソフトな筆さばきが求められるストレートヘアに理想的なツールとなることでしょう。

[Clay Buildup]ブラシでボリュームを作成。アルファをオン(上)、オフ(下)

ヒント4:[Dam_Standard]ブラシ

おそらく、最も万能なブラシの1つで、きれいなくっきりした線でメッシュに切り込んでいくのに最適でしょう。低解像度の[Dam_Standard]ブラシで(※デフォルトの[Z Intensity]は33ですが、20程度に下げて)、毛束を明確にしていきます。[Alt]キーで線を引き出し、ボリュームを出しましょう。時には、大きなサイズのブラシも使って、早い段階から大きなフォームを引き出すこともあります。これは、スタイライズ(様式化)したスカルプトに最適でしょう。

[Dam_Standard]ブラシで毛束を明確にする

ヒント5:[Slash]ブラシ

見落とされがちですが[Slash]ブラシは[Dam_Standard]ブラシの代わりに利用できる優れたツールです。[Dam_Standard]ブラシのようなピンチング機能はありませんが、髪の分け目など、はっきりした線を入れ込んでいくのに重宝します。ZBrush のメインブラシセットにデフォルトの[Slash 3]があります。他の[Slash]ブラシも[LightBox]の[Brush]タブから選択できます。

[Slash]ブラシでディテールを作成

ヒント6:[Curve]ブラシ

[CurveTube]ブラシは、自由な毛束を追加していくのに便利です。スタイライズ(様式化)したスカルプトで、この手順を応用すると、カーブだけで髪の毛を作成できます。最適な結果になるように[Stroke]>[Curve Modifiers]でカーブのプロファイルグラフを調整すると、作成したジオメトリの幅を変更できます。

[CurveTube]ブラシと[Curve Modifiers]のグラフで、先細りしていく毛束を作成

ヒント7:SnakeHook

[SnakeHook]ブラシは、先が尖っている乱れた髪の作成に使い勝手がよく、[Move]ブラシの強化版のようです! 私は、大きな塊から毛束を引き出していくのに使います。但し、このブラシの難点の1つは破壊的なことです。したがって、ダイナメッシュ(DynaMesh)と併用して、スカルプトに必要なジオメトリを十分に保っておきましょう。3Dプリント用のスカルプトでは、一般的に細かすぎる要素ができてしまうため、[SnakeHook]ブラシの使用は避けた方が無難です。

[SnakeHook]ブラシで、特徴を引き出す

ヒント8:Lazy Mouse

長いストレートヘアやウェーブヘアをスカルプトする場合、いい感じに流れるラインを出すのが難しいことがあります。[Lazy Mouse]を使えば、設定した距離でマウスやペンを平均化してくれます。これにより、ストロークを上手くコントロールできるようになります。調整する主な設定は2つあります。Lazy効果を出す「糸」の長さを調整する[LazyRadius]と、スムージング効果を上げる[LazySmooth]です。[Lazy Mouse]機能は[Stroke] > [Lazy Mouse]下にあり、ほとんどのブラシでオンにできます。

[Lazy Mouse]で、流れのあるロングヘアをスカルプトする

ヒント9:動き&アクション

髪の毛に動きや流れがつくことで、キャラクターのルック、シーンが見栄え良くなります。髪の毛には、身体の他の部分と同じようにアクションラインがあります。ポーズをとったスカルプトを計画するときは、髪の毛の流れと動きを使って、作品を洗練させましょう。例えば、私の個人作品『Guardians(ガーディアンズ)』では、水を表現する装置として、髪の毛を使いました。

『Guardians(ガーディアンズ)』では、水に似せた髪の毛の動きを作成

ヒント10:達人のワザを研究する!

髪のスカルプト、スタイルや要素において、問題に突き当たったとしても「過去に誰かが同じような問題を抱えて、解決済みである」と断言できます。私たちには、スカルプトの達人による大きな作品ライブラリがあるので、助けが必要なときには閲覧しましょう。ロダンの作品のようなシンプルなアプローチでも、ベルニーニの作品のように波打ち、カールしたクラッシックな髪の毛でも。スカルプトの際には、過去のテクニックを探り、自分の作品に取り入れましょう。

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの『救世主の胸像』


翻訳:STUDIO LIZZ (Nao)
編集:3dtotal.jp