デジタルペイント『信仰への試練』のメイキング

「照明の腕を上げるためのとっておきのアドバイスは、名作といわれる絵画や映画を研究することです」 今回は、米国のコンセプトアーティスト&イラストレーター Noah Bradley氏による作品メイキングです(Photoshop使用)

私のイメージはサムネイル(寸描)から始まります。即興で描く場合にはいくつかの例外はありますが、大抵はサムネイルから始めます。そして何ページものサムネイルを描きます。特定の作品のために描く場合もあれば、単に遊びの場合もあります。スケッチブックを丸々1冊、小さなサムネイルで埋め尽くすこともあります。このケースでは、鉛筆でサムネイルを描きました。大抵はペンで描くのですが、鉛筆からは、他の道具では得ることが難しい、とても心地よい感触が得られます(図01)。

図01:鉛筆からは、他の道具では得ることが難しい、とても心地よい感触が得られます

サムネイルに取り組む際には、いくつか重要なことがあります。まず、大まかに描きましょう。私の考えでは、窮屈なサムネイルでは、行う目的が削がれます。サムネイルは、構図のさまざまな方向性をすばやく探究するためのものだと思っています。多くの時間を費やすことなく、配置と方向性をいろいろと試すための方法であり、楽しんで行うべきものです。

もう1つ重要なことは、とにかくたくさん描くことです。自分に鞭打ってできる限りたくさん描きます(限界だと思ったところから、さらにもう何枚か描きましょう)。最初のスケッチを選択することが多いかもしれませんが、22番目のスケッチに他のスケッチにはない何かがある可能性も同じくらいあります。各サムネイルに2~3分かけると考えると、ほんの1時間ほどで数十のサムネイルを次々と作成できます。何時間もかけて完全なイラストを描画する前に、まずは素晴らしい構図を見つけることでしっかりと基礎固めをしましょう。

このイメージの場合は、クイックスケッチをして、それをスキャンしました(図02)。私は、イメージに対して、より画家的なアプローチをするため、あまり線は使いません。線から始めて素晴らしい作品を作る人もいますが、私は、何かのシェイプをそのままペイントする方が好きです。このケースでは、何か新しいことに挑戦して視野を広げようと模索したのですが、結果として非常にうまくいきました。これを私たち全員の(特に私の)教訓として、自分のやり方に固執し過ぎないようにしましょう。新しいことを探究、挑戦してください。

図02:クイックスケッチをして、それをスキャンしました

線画をスキャンした後、Photoshop で、そのレイヤーを[乗算]に設定して、その下にペイントできるようにしました。ここでのブラシストロークは非常に大まかなことに気付くでしょう(図03)。この時点では、ディテール、テクスチャ、描写についてはまったく気にしていませんでした。考えていたのは、イメージ全体のことだけでした。ズームして見ることすら自制しました。大した違いはないように思うかもしれませんが、皆さんも実際にズームを制限してみれば、ディテールに注意を払えないことが分かるはずです。試しにやってみてはいかがでしょう。気に入るかもしれませんよ?

図03:ここでのブラシストロークは非常に大まかなことに気付くでしょう

この段階は、作業を開始してから約30分といったところです。ここまでに、大まかな明度、色、ライティング(照明)を決めました。このあたりから少し自信が出てきて、ぐっと目を細めてみると、最終的にどのような結果になるかがなんとなく想像できます。

私はペイントするあらゆる作品で、それを目標にしています。1時間以内に、どのような最終結果になるか大体の察しがつくようにしたいのです。結果が見えてこない場合は、おそらく全体像への取り組みが不十分だということでしょう。

これは線画の上に施したペイントの最初のパスです(図04)。まだ、ところどころ、線が見えていましたが、ここから本格的にペイントを行っていきました。これまでは物事を非常に抽象的に扱っていましたが、ここで、何がどうなっているのかという構造の定義を開始しました。

図04:これは線画の上に施したペイントの最初のパスです

この作品の大部分は岩と雪になることが分かっていたため、物のサイズとシェイプにはかなり自由度がありましたが、それでも、光とすべてのオブジェクトがどのように相互作用するかに留意する必要はありました。つまり、ライティング(照明)です。作品の照明をどのようにするかは、私にとってペインティングの最も楽しめる部分の1つです。

どのような作品にも、非常に多種多様な照明の状況を使用することができ、それらすべてが異なるムードを醸し出します。明暗の配置に面白みが出て、なおかつ適切なムードを伝えるものを選択することが照明の課題と言えます。すべてのものを標準的な頭上からの照明で照らして満足しているように見えるアーティストをよく見かけますが、個人的には、それでは非常につまらないと思います。照明の腕を上げるためのとっておきのアドバイスは、名作といわれる絵画や映画を研究することです。アルバート・ビアスタット(Albert Bierstadt)、トマス・モラン(Thomas Moran)、ジョージ・イネス(George Inness)の作品をチェックしてみてください。光を絵に活用する方法が分かるようになるでしょう。

このあたりから、絵にまとまりが出てきます(図05)。ペイントの初期段階では、アーティストである私には、絵がどこへ向かっているのかが分かりました。しかし、この段階では、ほとんどの人が最終的にどのようになるか察しがつきます。

図05:このあたりから、絵にまとまりが出てきます

ディテールのショット(図06)が示しているように、近くで見るとブラシストロークは、まだ非常に大ざっぱですが、それで満足でした。絵の中のすべてのものを徹底的に描写する必要はありません。作品内に明らかなブラシストロークがいくつか残っていても、目障りでなければ問題ありません。

図06:ディテールのショット

ここは、エッジに、より集中し始めた頃でもあります。異なる色の合わせ方によってはフォームの見え方が劇的に変化することがあるので、エッジを軽視しないでください。エッジは最強の味方にも最悪の敵にもなり得ます。さまざまなエッジを作成することは、デジタルメディアでは非常に大変です。

あまりお勧めしたくありませんが、ここでは[指先ツール]で望みの効果を得ました。初心者は[指先ツール]を乱用するという過ちを犯しがちなので、注意して使ってください。弱々しくためらいがちな印象を与えるソフトなエッジが多過ぎる作品よりは、大胆で自信に満ちたシャープなエッジが多過ぎる作品の方が良いでしょう。完成に近付くと、同じような手順の繰り返しになります。それほど大胆な変更はなくなり、ブラシストロークも小さくなります(図07)。

図07:完成に近付くと、同じような手順の繰り返しになります。それほど大胆な変更はなくなり、ブラシストロークも小さくなります

この辺で、作品のディテールを描き込み始めました。まず、ズームインして、明確に描写する領域を選択しました。きっちり固まってきたように見えますが、ディテールを見ると分かるように、いくつかの領域には、まだ曖昧さを残してあります(図08)

図08:ディテールを見ると分かるように、いくつかの領域には、まだ曖昧さを残してあります

すべてをきっちり固め過ぎてしまうと、活気のない作品になってしまう場合があります。自分が伝えたいことを作品に語らせたら、それで完成です。手を止めましょう!

図09:完成イメージ

※このチュートリアルは、書籍『Photoshopで描くデジタル絵画』にも収録されています (※書籍化のため一部変更あり)。


編集:3dtotal.jp